第2話 建国戦争編-2
第2話 建国戦争編-2
突然の来訪者に、カインは無意識に警戒心を高める。助けられている以上、殺されることはないだろう。だが権力者が弱者を助ける理由は、往々にして裏がある。
そんな警戒をよそに、地球で言う高校生くらいの銀髪ダークエルフ青年は、スタスタと歩み寄りカインの手を握った。
「よかった、目を覚ましたんだね。痛むところはないかい?」
あまりに屈託のない声だった。カインは拍子抜けしつつも、慎重に言葉を選ぶ。
「・・・・・・失礼ですが、どなたでしょうか」
ダークエルフ青年は一瞬目を丸くし、すぐに苦笑した。
「これは失礼。私はエスター・エル・ダマスカス。ここペリシア藩王国の国王だ」
カインの思考が一瞬止まる。
「・・・・・・国王、様?」
「はは、そんなに身構えなくて大丈夫さ。そして私の隣にいるのは、魔道士のエレミア・セイレーンだ」
隣の端麗な翼人少女が一歩前に出て、ぺこりと頭を下げた。
背中に純白の翼を持ち、真珠のように輝く髪をなびかせていた。さながら、北欧の物語に登場する白鳥の精霊に見える。
彼女の赤い眼差しは鋭く、だが敵意は感じなかった。
カインはゆっくりと呼吸を整える。
「精霊種族のカイン・ヴァレ・シュラプネルです。助けていただき、本当にありがとうございます」
「礼を言うならエレミアにだ。道で倒れた君を見つけ、救護したのは彼女だからね」
「そうでしたか、エレミア様ありがとうございます」
エレミアは少し気まずそうに視線を逸らした。
自己紹介ができたところで、国王エスターが本題に入ろうとする。
「さて、本題に戻ろう。カインよ、我々が重傷の君を送り届けようと精霊種族の村に行ってみれば、村人達は皆心臓を抉られて死んでいた。いったい何があった? ゴブリンか? それとも盗賊か? まあ思い出すことが辛いなら、無理にとは言わないが・・・・・・」
「勇者です・・・・・・」
部屋に沈黙が訪れる。
カインは包み隠さず答えた。
勇者が村人を虐殺したこと、魔石が目的だったこと、自分を庇って姉が殺されたこと。
「帝国の、勇者が・・・・・・」
(小国とはいえ他国に土足で上がり込み、民を虐殺するとはいったいどういうことだ。しかもそれを"正義のため"だと・・・・・・ )
エスターは歯を食いしばり、沈黙した。
「殿下、今すぐ追撃を! まだ2日しか経っていないので馬で駆ければ追いつけます! あたしはその勇者供を捕まえて、首を飛ばさねば気が済みません! 」
エレミアが声を荒げる。
「無理だ。今となっては証拠がない。それに相手はあの帝国だ、捕縛どころか逆に口封じされかねない・・・・・・ 」
エスターは首を振る。
悔しさだけが部屋に残った。
その後、医師の診察を終え、カインは再び一人になる。
* * * *
カインの体は「休みたい」と悲鳴をあげていたが、考えなければならないことは山ほどある。
彼が認識では、この世界には近代国家は存在しない。そのため銃火器が作れれば、勇者に対し大きなアドバンテージになるだろう。
だが、いくら20世紀レベルの科学知識を持っているとはいえ、すぐに近代兵器などを作れる訳ないのだ。
まず、旋盤やプレス加工機などの「精密な工作機械」が必要となる。だが、中世レベルの技術力では「精密な工作機械」など作れるわけがない。
よって「精密な工作機械を作るための近代的な工作機械」が必要となる。
そして今度また、「近代的な工作機械を作るための中世レベルの工作機械」が必要になってしまう。
道のりはとてつもなく長く。何より資金と安全な研究環境、つまり協力者が必要になる。
「はぁ・・・・・・ 」
カインがため息をついたと同時に、トントンと扉をノックする音が聞こえて来た。
「カインさん、食事を持って来たけど入っていい? 」
先程のエレミアという翼人少女の声だった。
「どうぞ」
彼女はため息混じりで歩いてくる。
「はい、食事よ。まったく、魔道士であるあたしを雑用に使うなんて・・・・・・」
食事はパンをスープに浸したいわゆるソップというものだ。この世界のパンは現代の地球と違い非常に硬いので、おそらく病人への配慮だろう。
「なんかすみません・・・・・・」
「あっ大丈夫よ、さっきのは殿下への愚痴だから。ねぇ聞いてくれる? 殿下ったら、あたしが近衛の練兵場を使うと設備を壊すからって出禁にしたのよ。おかげさまで暇ってわけ」
「アハハ・・・・・・」
カインは苦笑いするしかなかった。
「あたしはこれで戻るけど、何かご要望や聞きたいことはある? どうせ暇だから遠慮しなくてもいいわよ」
「でしたら、この国や周辺国について教えてもらえませんか?」
「なんでそんなこと聞くの?」
(さすがに、帝国を倒すための情報集めとは言えない・・・・・・)
「興味本位です。恥ずかしながら今まで村の外に出たことがなく。どこにどんな国があるのか、ほとんど知らなくて・・・・・・ 」
エレミアはやれやれと言った感じで椅子に腰掛けると語り出す。
「まったく、精霊種族って人界との関わりを好まないとは聞いてたけど、まさかここまでとは思わなかったわ。まあ、いい機会だから教えてあげる。
さすがに帝国を中心にした人類と、魔王が率いている魔族が戦っているのは知っているわよね」
彼女によると、神聖帝国(通称帝国)は人類領域の半分を支配する覇権国家。さらに、今いるペリシア藩王国の宗主国が、帝国の子分のダマスカス王国と言うらしい。
そして、亜人が大多数を占めるこの国を、ダマスカス王国からやってきた少数のヒト種貴族が支配しているそうだ。農民達は奴隷のように昼夜問わず働かせられ、都市では重税と弾圧に苦しんでいると言う。
彼女の言葉にも自然と熱が入ってくる。
「エスター殿下は亜人達を助けようとしているけれど、ヒト種の領主は、裏でダマスカス王国と繋がっているし、搾り取った金で冒険者や傭兵を雇っているから手が出せないの」
それを聞いたカインは、静かに口を開く。
「・・・・・・なら、帝国やダマスカス王国を倒したいと思いますか? 」
「え、ええ。倒せるなら倒したいわね」
エレミアは戸惑いながらも、はっきりと言った。
「奴らのせいでこの国はめちゃくちゃ。しかもここだけじゃない、他の亜人の土地も、ほとんどを植民地にしてるのよ」
小さく吐き捨てるように言う。
話を終えたエレミアはそのまま立ち上がって部屋を去ろうとする。だがドアノブに手をかざした所で、左手に持っていた封筒の存在に気がついた。
「そうだ、忘れるところだったわ。急だけど、あなたは文字が読めるかしら?」
「はい、本を読んだりするくらいなら」
「なら十分ね。はいこれ」
エレミアは封筒から手帳程の羊皮紙を取り出すと渡して来た。
「これは、仕事の紹介状? 」
「ええ、ハイファ市の酒造ギルドの事務職よ。エスター殿下の知り合いだから高待遇。住み込みで朝昼晩3食とふかふかのベッド付きなんて、今ではなかなか見つからないんだから」
「いえ、そこまでしてもらうわけには……」
「無一文で身寄りなしなんでしょ?」
有無を言わせず、無理矢理に封筒を手の中に押し込まれる。
「せっかく助けたのに、野垂れ死にされたら寝覚めが悪いもの」
とても怪我人に対しての振る舞いとは思えないが、彼女なりの思いやりが感じられた。
そしてカインは決心する。
(彼女達は悪徳領主を倒す戦力が欲しく、僕は武器を作るためのパトロンが欲しい。利害は一致してる。そしてやはり、命を救われた恩を返さずに去るのも違う・・・・・・ それなら)
「・・・・・・ありがとうございます。でも、この紹介状は、もっと困っている人に渡してください」
「だからそれだと・・・・・・ 」
「代わりに」
彼は静かに言った。
「僕はあなた達に協力したい。僕は転生者です」
エレミアは固まり、気まずそうに目を逸らす。
「え、えっと、頭を打っちゃってたのかしら・・・・・・ 待ってて、今お医者様を・・・・・・」
「大丈夫ですよ」
カインは澄んだ瞳をエレミアに向ける。
彼女は、カインの瞳から目を逸らすことが出来なかった。
その瞬間、エレミアは悟る。これは、冗談でも妄想でもないと。
「・・・・・・あなた、何者なの?」
「僕はカイン・ヴァレ・シュラプネル。元ドイツ陸軍兵器局の工学者です」
* * * *
カインが転生者であることは、エレミアから即座に国王エスターに伝えられた。
「なるほど、スキルは剣士の適正でランクは君と同じBランク級。魔道士の君と組めば、きっといいパーティーになりそうだね。けど、当のカイン君は我々亜人陣営に協力する危険をわかっているのかい?」
「はい、あたし達の不利な現状を理解してもなお、協力したいと・・・・・・ 」
「彼の境遇を考えれば、ある意味自然な回答か。わかった、カイン君を我々の仲間として受け入れよう」
カインが協力を申し出た時、エレミア含めたエスターの配下の者達は皆手を叩いて喜んだ。
転生者は列強国がこぞって奪い合うほどの強力な存在である。国王が率いているとはいえ、実態は地下組織と大差ない戦力しか持たない亜人陣営にとって、喉から手が出るほど欲しい切り札だった。
その後、国王エスターがエレミアを新人カインの戦闘指南役兼サポート役に据えることは、自然な流れである。
何よりエレミア自身が、それを心から歓迎していた。
(やっと本気で戦える・・・・・・)
転生者と鍛え合う機会など、そうそうあるものではない。
(なのに、なのに・・・・・・ )
だが、当のカインは訓練そっちのけで「ジュウ」という聞いたこともない武器を作ると言い出したのだ。




