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第32話 崩壊の魔族軍2


〈ダマスカス王国との国境 ヨルダン川〉


 ゆっくりと流れる川面を、魔族軍のイカダが横断していた。すると突然、補給物質を満載したイカダの側で大きな水柱が上がる。


 「チッ! 敵の鉄船だ、逃げろ!」


 輸送部隊を率いていた兵士が叫ぶ。川を遡上する装甲艦から続けて砲弾が飛来し、イカダは転覆しそうなほど大きく左右に揺れた。


 「もうダメだ! 川に飛び込め! 」


 魔族兵たちは荷物を置き去りにして、我先にと川岸に離れていった。



〈地峡北部 魔族軍塹壕〉


 ジグザグに掘られた塹壕の一角の地下壕に、魔族軍の司令部は設けられている。


 「そうか、西方のダマスカス方面への補給物質の輸送はまた失敗か」


 シクヴァルから報告を受けたレビは、地図を睨みながらため息をついた。


「はい。ヨルダン川を渡ろうとした輸送部隊が、敵の砲艦に追い払われました。これで南部方面軍への補給は、しばらく難しいかと」


 レビ率いる軍勢がいるアトランティアは、主要街道の一つである南部街道の通過地点だ。ここが使えなければ、ダマスカス方面にいる魔族南部方面軍への補給が滞ってしまう。


 「まったく、本軍は補給を待たずに進撃しよって。このままではただでさえ細い補給線が伸びきり、飢えて自滅してしまうぞ」


 レビは頭を抱えた。


 「ところで、クロスボウの配備はどうなっておる?」


 「塹壕に配置されている兵士達に1丁ずつ配備済みです。ダマスカス王都の占領の際に捕えた職人が役に立ちました」


「そうか、できれば連弩が欲しかったが、この劣勢の戦況で贅沢は言ってられんからな」


 レビは少しだけ安心したように頷く。一方のシクヴァルは少し不安そうに尋ねた。


 「レビ様、これで敵の鉄砲という武器に対抗できるでしょうか? 」


 「できるわけなかろう。射程も連射速度も、敵の鉄砲の方が上じゃ。だが、塹壕まで近づいてくる敵に、何もできずに眺めているよりはマシじゃろう」


 レビはハァと、少し抜けたため息をついた。


 「まぁ、安心せい。この前の猛砲撃だって、我々がいる塹壕を破壊することは出来なかったのじゃ。敵がこの塹壕を突破するには、歩兵による突撃しかない。あとはわかるな」


 「ええ、接近戦となれば、飛び道具を持つ敵兵よりも、剣術に秀でた我々魔族兵が有利となる。我々にも勝機があるということですね」


 「ああ、だが敵が有利であることには変わりはない。敵に出血を強いることはできても、いつか必ず突破されるだろうな。そこで、戦力の一部を後方へ移動させるのじゃ」


 そう言ってレビは、地図の上の駒を北へと進めた。


 「レビ様、この位置は煙突があるだけで、防衛上の意味はありませんが?」


 「発電所といってな、わらわの前世の世界にあったものじゃ。他にも炭鉱や、何かわからんが電線が集まっている所。たしかに我々にとっては大した価値がない。が、敵は破壊されることを恐れて攻勢を躊躇(ちゅうちょ)するはずじゃ」


 


〈同日 アトランティア〉


 「へー、ここがお前の研究室か。なんだかんだで、あーしが来るのは初めてだな」


 イルーマはキョロキョロと辺りを見回しながら尋ねた。


 「ええ。ここで僕が前世で行っていた研究を続けています。と言ってもまだ研究段階で、実用にはほど遠いですが」


 「それより聞いたぜ。強力な砲弾で塹壕を吹き飛ばすんだってな」


 「ええ、砲撃で直径10m以上のクレーターを作って、塹壕そのものを掘り返すつもりですよ」


 「なぁ、そんな威力を出すには、30cm以上の大口径の超重砲が必要なんじゃないか。今開発中の一番強力な大砲は、まだ砲身リングしかできていない戦艦用の28cm砲だろ?」


 「はい」


 「じゃあどうするんだ? 今からそんな大きな大砲を作ったら、完成は数年後だ。第一、あーしにそんな大きな大砲を作る技術はまだないぞ」


 「ですが、30cm砲弾級の威力が必要なだけで、別に大砲を作る必要はありませんよ」


 「おい、大砲なしでどうやって砲弾を飛ばすんだ? 」


 カインが部屋の隅に置かれていた大きなカバーを掴む。


 「これを見てください」


 次の瞬間、バサッとカバーが取り払われ、黒く光る巨大な円筒があらわになった。


 「な、なんだこれ!? 」

 

 イルーマの目が点になる。

 そこにあったのは、人間の身長ほどもある巨大な砲弾だった。


 「これは試製447mm重噴進弾(ふんしんだん)。前世に存在した大日本帝国という国が、本土決戦用に作った超大型ロケット砲です」


 「ふんしんだん?」


 「普通の砲弾は砲身の中で加速されますが、噴進弾は砲弾内部の火薬を自分で燃焼させて飛ぶので、砲身が不要なんです。この弾の全長は約171cm、最大射程5km、砲弾重量は682kg。弾頭だけで約100kgの黒色火薬を積んでいます」


 「ひゃ、100kgの炸薬か。こんなすごい物を量産できるのか?」


 「この炸薬量でも少ない方で、元々は180kgの下関火薬だったのを、地中への貫通力を高めるために弾郭を厚くして減らしたんです。それと量産については、実際に組み立てを見て見ればわかりますよ」


 カインが研究室に併設された作業スペースへ案内すると、そこには巨大なパイプがいくつも転がっていた。


 「構造そのものは比較的単純で、推進部分は黒色火薬詰めた鉄パイプを39本束ねて作られています。砲弾本体もできるだけ直線で構成されているので、制作も接合も研究室の工具でできるぐらい簡単なんです」


 「たしかに、これならすぐに実戦投入できるな! でもよ、なんかノズルが曲がってないか? 」


 イルーマは噴進弾を見渡しながら言った。


 「ノズルに角度をつけることで、砲弾を時計回りに回転させるんです。ライフル弾と同じで、ジャイロ効果を利用して精度を高めるためのものですね」


 (元々、この重噴進弾は戦争末期の物質不足の中で簡易的に作れる用に設計されていた・・・・・・ 前世の僕が戦後のアメリカで鹵獲資料を見せられた時は、『なんだこの馬鹿みたいなロケット花火は!?』と思っていましたが、まさか助けられる日が来ようとは・・・・・・ )


 「わかった。あーしの工房でも量産してみるぜ」


 「よろしくお願いします。どうやら反攻の用意は整いそうですね」

 


 

第33話の投稿は10月6日火曜日を予定しています。

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