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第29話 マサダ要塞攻防戦3

挿絵(By みてみん)


 〈マサダ要塞 北方2km〉


 「どうだ、シクヴァル。あれが見えるか? 」


 「ええ、あれが敵の防衛線ですか・・・・・・ 」

 

 レビとシクヴァルは、丘陵の影から双眼鏡を覗かせている。数が多いと砲撃の目標にされかねないため、護衛の魔族兵はたった一人だけだ。

 レンズの先には南北に伸びる細長い地峡があり、それを塞ぐように、地峡の端から端まで塹壕(ざんごう)線が築かれている。


 「敵の塹壕はカクカクと折れ曲がっているようですが、意味はあるのでしょうか? 塹壕の手前の約100mと400mには、レビ様が言っておられたユウシテッセンという柵が造られていますね。柵の間には未完成の堀も見えます」


 シクヴァルは淡々と見た光景をつぶやいた。


 「ああ、星型ではないが函館の五稜郭・・・・・・ と言ってもわからんか。ああやって塹壕をカクカクにすると、角の間に入った敵に、横から十字砲火をあびせられるのじゃ。塹壕の各所にはコンクリのトーチカに大砲、おっ、塹壕の奥にも大砲があるな」


 「十字砲火、飛び道具の概念ですね。あの陣地の防御力は、先の国境戦の生き残りから聞きましたが、いまだに信じられません。防護壁もない城塞とは・・・・・・ 」


 「まあ、それが健全な反応じゃな。貴様を連れてきたのは、実際に敵の戦闘を見せるためじゃしの」


 すると、護衛の兵士が匍匐前進(ほふくぜんしん)で近づいてきた。


 「レビ将軍、まもなく威力偵察のオークとゴブリンが、敵陣地に到達します」


 丘陵の先の平地では、100頭ほどののオークとゴブリンが走っている。鎧はつけておらず、木の棍棒や錆びた斧など、失っても良い武器を装備していた。


 「怪異(モンスター)部隊、敵塹壕まで約400m」


 護衛の兵士が報告した瞬間、連続した銃声が響き渡る。

 

 「見ろ、始まったぞ。はは、教科書の写真で見た西部戦線のようじゃ」


 オークが鉄条網に到達したのも同時だった。棘で身動きが取れなくなったオークが、そのまま屍と化した。体の小さなゴブリンには中々当たらなかったものの、すぐに別のトーチカからも射撃が始まる。

 数分もしないうちに、前進していた怪異部隊は動かなくなった。


 「どうだ、シクヴァル大佐。敵を阻む壁ではなく、敵を効率的に排除するための防衛陣というのは」


 「あんなに、離れた距離から一方的に・・・・・・ あれがレビ様がいた異世界の武器ですか」

 

 「まだ、本当にわらわがいた世界の物かはわからんがな。よし、もうこんな危険な所にいる必要はない、戻るぞシクヴァル」


 *  *  *  *


 レビとシクヴァルは偵察を終え、本陣へ戻る帰路についていた。

 その途中には農村地帯を支えるヨルダン川があり、川を渡るための丸太イカダが河岸に停泊していた。

 

 「よっと! 」


 レビは小柄な体を弾ませると、不安定なイカダの上に乗り込む。

 

 「れ、レビ様、大丈夫ですか! 小官の腕に掴まってください」


 「おい、わらわを子供扱いするでない。それにしても敵が橋を落としたせいで、重量物は渡せんし、とんだ手間がかかる」


 「川の下流は、まだ敵艦の勢力圏ですから。橋を再びかけようにもすぐに破壊されるそうです」


 「はは、わらわ達の情況は最悪だな」


 レビはため息をつくと、丸太イカダの上に大の字で寝転がる。


 「わらわ達の戦力は、直属の兵7万に、先の国境戦で生き残った30万。敵の鉄砲の性能は、見た限り幕末維新のライフル銃以上の性能だ。剣と弓で、あの肉挽き機に攻め入れば全滅は必至。まぁ、敵に飛行機が無いのは不幸中の幸いか・・・・・・ 」


 「レビ様、らしくないですよ。ほら、シャキッとしてください。上層部も支援装備を送ってくれたようですし」


 「支援装備? 」


 「トロル用のミスリル鉄の盾と重鎧です。重いので、盾の下には車輪がついているそうですよ」


 「トロルか、これも先の国境戦の生き残りだったな。どうせ大砲の前では無力なのだから、裸の状態で機動力を上げた方がいいまであるな。それにしても車輪とは、魔族の中にも面白い発想をする者が・・・・・・ 」


 「レビ様、どうかされましたか? 」


 レビは無言で上半身を起こす。川に浮く丸太イカダの上は程よく揺れていて、陽光と合わせて思わず寝てしまいそうだ。


 「おい、イカダに使われている丸太はまだあるか? 」


 「え、ええ、ここらの山林は造船にも使われるレバン杉の原産地ですので、それなりにあるかと。軽くまっすぐで、加工しやすい木と評判のようですよ」


 「なら、今からわらわの言う物を工作班に作らせろ! 奴らに技術というものが絶対でないことをわからせてやるのじゃ! 」




 〈翌日 地峡のマサダ要塞〉


 「カウント秒読み! 5、4、3、2、1、今! 」

 

 「OK、それっー! 」


 ドドドドォーン!!!!


 エレミアがT字型の棒を勢いよく押し込んだ直後、地面の振動と共に塹壕の前面が土煙で覆われた。

 一直線に仕掛けられた爆薬が通電し、炸裂して地面に長い穴が形作られる。

 

 「よし、これで水堀の構築は完了です」


 双眼鏡を片手にカインがつぶやく。


 「爆薬で発破して、穴を掘るって大胆なことをするわねー。でも、スッキリしたかも」


 エレミアはフーッと息を吐くと、笑顔で口を開いた。


 「ははは、ですがちょっと気持ちわかりますよ」


 「あなたもやればよかったのに。それにしても、魔族軍は全然攻めてこないのね・・・・・・ 」


 「たしかに、今までの魔族軍なら問答無用で突撃してきそうな物ですが。最近は、まるで威力偵察のような小さな攻撃ばかりです」


 「はぁ、モンスターの死体を有刺鉄線からどかすのって、けっこう大変なのに」


 *  *  *  *


 〈同夜 日付変更直後〉 


 マサダ要塞の地下司令部では、連日のように作戦会議が開かれていた。


 「現在、魔族軍の本陣はヨルダン川西岸、我が要塞から45kmの位置です。一方で魔族軍は北東10kmの位置にも軍の一部を送っているようです」

 

 「北東10km、我々の野砲や艦砲の有効射程外ですね。敵も学習はしますか。ふぁ〜 」


 カインは思わずあくびが出てしまい、咄嗟に口を押さえる。


 「す、すみません。失礼しました」


 「顧問殿、仕方がないですよ。ここ毎日、怪異の夜襲続きですから」


 そう言って青年将校が上を指差す。外からは怪異の断末魔や、小銃の発砲音が聞こえてきていた。


 「かくいう小官も、気付け薬で誤魔化してますし。魔族軍もわかっててやっていますよ、これは」


 司令部に笑い声が響く。すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。


 「巡回から報告です。海岸に丸太が漂着していたとのこと」


 「それはただの流木では? 」


 「それが、丸太が鎖で円形に束ねられた物でして、直径は4m。とにかく巨大なのだそうです」

 

  カインは眉をひそめる。


 「他に確認されている不審な物や現象はありますか? 」


 すると、司令部の端にいた海軍の連絡員が口を開いた。


 「それが、海軍によれば洋上でも同様の丸太の束が複数確認されていたとのことです」


 「臨検を行ったそうですが、内部に何もなく、ただの丸太だったため、そのまま見逃したと」


 その時、司令部のドアが弾き飛びそうな勢いで開かれた。見れば、エレミアが息を切らしながら立っている。


 「エレミアさん、どうかされ・・・・・・ 」


 「いいから、早く砲兵部隊に連絡して! 照明弾を撃たせて! 」


 エレミアはカインが言葉を言い終える前に詰め寄る。


 「敵襲よ! 魔族軍の攻撃! 暗くて見えないから早く! 」

 

 通信兵達が慌ただしく電信を打ち、同時にカインを先頭に将校達が階段を駆け上がる。

 コンクリート製トーチカの銃眼から外を覗くと、機関銃の曳航弾の光に照らされ、ぼんやりと移動する影が見えた。


 「6ポンド砲、カーカス弾発射します! 」


 穴の空いたカーカス弾は、砲弾内部の燃えた硫黄を撒き散らし、その炎で地上を照らす。

 

 「・・・・・・なんだ、あれ?」

 

 青年将校の1人が思わずつぶやく。


 見れば巨大な丸太の壁が、ゆっくりと要塞に向かって接近していた。

 エレミアは素早い身のこなしでトーチカの屋根に駆け上がる。


 「あれは・・・・・・ 敵は魔族軍のトロル! 数50、距離800m! 丸太を転がしながら進行中! 」


 「トロルですか!?」


 「ええ、魔族軍も懲りないわね。キャンプファイアにしてやりましょう! カイン、砲撃を開始して! 」


 

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