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第28話 マサダ要塞攻防戦2 【連続投稿】

*連続投稿を行なっていますので、読み飛ばしにご注意ください。


〈ダマスカス王国 レビ配下、第61・62師団宿営地〉


 ダマスカス王国の南部に設けられた宿営地では、7万の魔族兵が休息を取っている。ダマスカス王国はすでに魔族軍の勢力圏であり、北部からの長距離行軍で疲れた体を決戦前に休めているのだ。


 その中央に建てられたテントでは、指揮官であるレビが山積みの書類と睨(にら)めっこしている。


 「レビ様、こちらが検閲前のアシリア残党軍との戦闘報告書と、グライフによる航空偵察の結果です。それと、昼食をお持ちしましたよ。言いつけ通り、一般兵に提供されるものと同じものです」


 レビは部下であるシクヴァル大佐から皿を受け取ると、黒パンを一つとって口に運ぶ。


 「はぐぐぐ・・・・・・ しっかし、このパンは硬いのう。いくら保存が効いて、栄養が豊富だからと言っても、こんな食事ばかりでは兵達の休憩にならんな」


 何度噛んでもなかなか千切れず、仕方なく山刀で砕いてから食べる。


 「まったく、進軍速度に補給線の構築が追いついておらん。ダマスカスの焦土作戦の影響もあるが、攻撃だけが戦争だと考える魔族軍の悪い癖じゃな」


 レビは上官への愚痴(ぐち)を言い終えると、報告書のページをめくった。


 「やはり引っかかるな・・・・・・ 」


 「敵軍が戦わず、半島部に撤退したことですか? 」


 シクヴァルは広げられた周辺地図を指差す。ペリシア藩王国にいる敵部隊は、レビの部隊が向かっていることを知るや否や、北部を放棄して南部の半島に撤退していた。

 だがレビは首を振る。


 「いや敵の撤退は、西の我々と東の魔族軍残存部隊に挟み討ちされるのを避けるためだろう。いさぎよく冷静な判断で、敵の指揮官を褒めたいぐらいじゃ」


 「では何をお気になさっているのですか?」


 「国境でのニコライ将軍の敗北についてじゃ。アシリア公国軍は練度と士気は高いものの、装備は我々と大して変わらん。竜騎士がいるとはいえ、1万人の残存部隊で60万の魔族軍と戦えると思うか? 」


 「たしかに、ニコライ将軍が失策を犯したのだとしても妙ですね。もはや負けさせる方が難しいというか・・・・・・」


 「ニコライ将軍の報告書の内容。最高元帥は信じていなかったが、だとすれば本当の理由は何だ、具体的にどんな失策を犯したのか? 」


 レビは羽ペンに手を伸ばす。だが、手が滑って落としてしまった。

 

 「大丈夫ですかレビ様、そろそろ休まれては? 」


 「ふふふ、シクヴァルよ、元ニホン人であるわらわの残業耐性を甘く見てもらっては困るぞ。それに、指揮官であるわらわは一般兵達よりも死ぬ確率が低い、そんな立場で作戦に誤りがあって兵士を無駄死にさるわけにはいかんからな」

 

 その時だった。


 「報告! 洋上に不明艦3隻を確認とのこと! 」


 「艦? 十中八九敵の船だな、案内してくれ」


 レビが街道の盛り土の影から覗き見ると、沖合およそ3kmに大型の艦影が並んで浮かんでいた。


 「遠くてよく見えんが、大きさからすると帝国の軍艦か?」


 「その可能性が大きいです。いかがいたしますか? 」


 「上陸作戦には少なすぎるし、そもそも宿営地は海岸からさらに3km内陸だ。心配はいらんが、こちらの正確な数を知られんように、テントの一部を畳(たた)んでおけ」


 レビはそう言いながら、艦を見つめ続けた。


 (我々が知る帝国の魔粒子砲の弾道は、重力の影響を受けず直進する。今わらわがいる街道の盛り土のせいで、奴らの攻撃は宿営地まで届かないはず・・・・・・ )


 (だが何だ? この違和感は・・・・・・ 報告書を読んだ後から続くざわめきは・・・・・・ )


 「やはり念のため、迎撃の準備を・・・・・・ 」


 レビがそう言いかけた瞬間。大型艦の側舷から、炎と白煙が噴き出した。


 「何じゃ!? 」


 彼女の言葉に一歩遅れて、ドーンという低く重い音が響き渡る。そして落下した砲弾は、背後の宿営地で炎と土砂を勢いよく巻き上げる。

 

 「まさか、大砲じゃと!? 」


 (そんな、ここは異世界! 大砲なんてあってたまるか! )

  

 「レビ様、命令を! 」

 

 「そ、そうだな! 全員戦闘配置! いや、全員宿営地から離れるんじゃ! 」


 山なりの弾道を描く砲弾の前では、多少の遮蔽物など意味はない。このまま一箇所に固まっていれば、一発の砲弾でまとめて吹き飛ばされる。


 「クソッ、部隊を分散させるんじゃ! 固まるな! 」


 そう言った次の瞬間にも砲弾は降り注ぐ。



 〈時は少し戻り、参謀本部〉


 「ちょっとカイン、北部の農村を捨てて撤退するってどういうこと? あたし達勝ってるんじゃないの? 」


 詰め寄るエレミアを、カインはなだめる。


 「我々の現有兵力は、正規兵5千人に予備役8千を加えた1万人強。重火器は生産中の新型、7.7cm FK 96後装式ライフル砲が30門。6ポンド野砲が60門。小火器はGew71ボルトアクション小銃が全部隊に配備済み。マキシム機関銃は80丁が投入可能です」


 「たしかに2正面作戦は味方の損害も大きくなるけど、それでも国を守るのが軍隊じゃない? 」


 「もちろんそれを避ける意図もありますが、僕が気にしているのはライフル弾の不足です」


 「ライフル弾・・・・・・ そういえば国境での戦いの時も不足していたわね」


 青年将校が地図に敵の配置を記していく。


 「先の国境戦では、30万からなる第一次攻撃を撃退する際にライフル弾250万発を消費しました。現在、向かってきている魔族軍の数は、西から5〜8万、東の残存部隊が30万。先の国境戦で大量に使ったうえ、周辺国が次々と陥落したため、弾薬の原料になる鉛も手に入りにくくなっています」


 青年将校は報告に続けて、1枚の書類をカインに手渡した。カインは封を切ると、中身を周囲に見えるように並べる。


 「我々アトランティアの国土は、大陸にある北部の農村地帯と、地峡で繋がった南部のシナイ半島から成っています。北部には農地と炭鉱、南部には首都ハイファをはじめ、工場や港が集中している状況です。

 そこで、まず我々は北部の農村地帯を放棄し、マサダ地峡まで撤退します。すでにマサダ地峡には、大規模な防衛線や砲兵陣地で構成される通称『マサダ要塞』の建造が進んでいます。魔族軍は狭い地峡で数の優位を生かすことができないでしょう」


 エレミアもゴクリと息を呑む。


 「そして、魔族軍を誘い込んだところで、火力を集中して壊滅させる。あとは大打撃を受けた魔族軍を追撃して、北部の農村地帯を奪還する。たしかに魔族軍を倒すのに、これ以上の作戦はないわね」


 だが、農村を捨てる決断は、簡単ではない。

 

 「すでにエスター陛下や議会での承認は降りております。疎開(そかい)用の馬車や船の手配も」


 「撤退の際は、時間を稼ぐために海軍の装甲帯巡洋艦による艦砲射撃や、国境の橋を落とす予定です。住民がすぐに戻れるように、北部の家屋や施設の破壊は行いません」


 「やるしかないのね」


 「ええ、魔族軍の戦力も無限ではありません。この戦争、この戦いで決着をつけます! 」




〈再び、魔族軍第61・62師団の宿営地〉


 1時間ほどの艦砲射撃の後、敵艦隊は撤退した。


 すぐに避難命令が出たため、死傷者は700人に抑えることができたが、宿営地に残っていた物資の3割を失ってしまった。

 

 「これは、わらわの油断が招いた結果か・・・・・・ 」


 宿営地からは今も点々と黒煙が上がっている。

 シクヴァルがレビに声をかけようとした時だった。


 「上等じゃ! 何が大砲じゃ! おいシクヴァル大佐、聞いておるか? 」


 「はい、ここにおります」


 「敵の情報を集めろ! 眉唾でもなんでも良い、精査する前に全部わらわに見せろ! 」


  レビは背中のマントを翻し、燃え残った司令部のテントへ歩みを進める。


 「全軍出立! アシリア方面の南部方面第1軍団と合流し、ペリシア藩王国を攻め落とす! 」



第29話の投稿は9月26日土曜日を予定しています。

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