第27話 マサダ要塞攻防戦1 【連続投稿】
*連続投稿を行なっていますので、読み飛ばしにご注意ください。
〈大陸北部 魔族軍総司令部〉
占領した人類の城塞を流用した総司令部には、重苦しい空気が漂っていた。
政治委員や軍高官達が注目している中、イスカンデル最高元帥がゆっくりと口を開く。
「これより軍法会議を開廷する。南部方面軍ニコライ将軍。弁解があるのなら述べてみよ」
「申し訳ございません。アシリア残党軍の魔法攻撃により、多大な損害を出してしまいました。弁解の余地もありません。ならばこそふたたび戦場に戻り、アシリアの残党どもを蹴散らし、まだ残った南部の諸国を・・・・・・ 」
ニコライ将軍は必死に自らの戦意や忠誠をアピールする。魔族軍の軍法会議で有罪になれば、親族まとめて収容所か公開処刑だ。だが、ニコライ将軍の言葉はイスカンデル最高元帥によって止められる。
「指揮下の60万の兵の内、35万人の死傷者。たしかに大きな損害だが我々は別に気にしていない、それが人海戦術と言うものだからだ。我々が問題視しているのは、敗北したことだ! 」
「申し訳ございません!」
「キサマの報告書によれば、敗因は謎の魔導兵器だったか? 謎の音に合わせて兵が全員倒れ、正体不明の爆発でトロルが壊滅。戦場伝説の方がまだ信じられるぞ!」
イスカンデル最高元帥はひと呼吸おいて続ける。
「同志諸君、ニコライ将軍の有罪に異議があると思う者は挙手を・・・・・・ 」
手を挙げる者はおらず、司令部は静まりかえった。
「閣下! ど、どうか、私にいま一度チャンスを・・・・・・! 」
引きずられるニコライ将軍を見送ったイスカンデル最高元帥は、周囲の軍高官たちへ視線を向ける。
「同志諸君、無能が1人いなくなってもまだ戦いは続いている。会議を始めよう」
司令部の中央に巨大な大陸の地図が運び込まれ、軍法会議はそのまま会議室へと姿を変えた。
「我々魔族軍の現有戦力は、開戦時の330万から100万を失いましたが、50万の補充があり現在280万人です。一方で人類側の消耗も激しく、魔族軍は今もなお物量で圧倒しています。大陸北部の戦況は、魔族北部方面軍と帝国・ネーデルラント皇国の連合軍が睨みあっており、戦線は膠着状態です」
大陸北部には帝国やその衛星国が存在するため、魔族北部方面軍は魔族軍の中で最大の戦力を保有していた。
「南部の戦況はどうなっている? 」
「ニコライ将軍の敗北があったとはいえ、我々魔族軍が優勢です。南部諸国の中心であったダマスカス王国とアシリア公国が敗れた以上、我が軍を止められる者は存在しません。ダマスカス王国を占領した50万の南部方面第二軍は、西へと進軍しております」
「おお! 帝国国境への到達は、南部方面軍が1番乗りとなりそうだな」
司令部の軍高官達の表情が明るくなった。だが、報告書を読む士官は申し訳なさそうに続ける。
「ですが、アシリア残党軍が残っているため、南部街道が使えません。現在、南部への派兵はペリシア藩王国を迂回し、中央街道から行なっています」
「ペリシア藩王国に居座るアシリア残党軍を排除できないのかね」
「ニコライ将軍の報告を信用するわけではありませんが、現在アシリア公国にいる南部方面第一軍団の30万では戦力不足かと・・・・・・ 」
「そうか・・・・・・ 」
* * * *
転生者である女将軍レビ・グスタフ・パーンツィリは、イスカンデル最高元帥からの呼び出しを受け、司令部に出向いていた。
「南部方面の戦況は知っているな? 」
「まあ、一応」
「南部へ援軍を送りたい所だが、帝国と相対している北部方面軍にはその余裕がない。かと言って進軍中の軍から、派遣したくない」
「は、はぁ・・・・・・ 」
「そこで大変不快ではあるが、現在補給部隊の護衛をしている、キサマ指揮下の第61・62師団を南部へ派遣することになった。ペリシア藩王国に居座るアシリア残党軍を掃討してこい」
その言葉を聞いた瞬間、レビの青い瞳がパァッと輝いた。
「そ、それは出撃! わらわが出撃しても良いということか!?」
「そうだ。わかったなら、さっさと司令室から出て行け。この半人間が・・・・・・ 」
イスカンデル最高元帥が言葉を言い終える前に、レビは小走りで部屋を出ていった。一歩進むたび、彼女の雪のような髪が揺れる。
レビが扉を抜けたところで、彼女の部下であるシクヴァル大佐が話しかけてきた。
「ずいぶんとご機嫌ですね。レビ様」
「わかるか? 開戦から2年間、前世が人間というだけで、わらわはずっと戦とは無縁の補給任務。別に補給任務の重要性を否定するわけではないが、ようやく前線で戦えるのじゃ! 」
2人は話しながら進む。
「ええ、すぐに各部隊に伝えます。しかし、よろしいのですか? 今さらですが、今回の戦争はその人間を殲滅するためのものですよ」
「愚問だな。この世界の顔も知らない人類か、幼い頃より見知った魔族、どちらに親近感が湧くかわかるじゃろ。どちらにしろ、戦国、三国志、戦略ゲー、前世で募っていった戦への憧れの前では、倫理観などどこかにポイじゃ」
「やはり、レビ様はレビ様ですね」
「ああ、無駄話をしている時間はないぞ。戦場が我々の到着を待っておるのだ! 」
〈1週間後 アトランティア王国 参謀本部〉
「こちらが、航空偵察による最新の魔族軍の状況です」
国境での戦いの後、アシリア公王とアトランティアは正式に条約を結び、軍事協力を加速させてきた。竜騎士の共同運用や情報共有、さらに限定的な兵器の供与も検討されている。
中央の地図に、進軍する赤い駒と数字が書かれたタグが配置されてゆく。
「これは、魔族軍の増援部隊。目的地はやはり我が国ですか」
カインは地図を見つめる。
「はい。西のダマスカス王国方面から、5万〜8万の魔族軍が迫ってきています。東のアシリア方面の魔族軍と我々を挟み撃ちするつもりです」
参謀本部の会議室には、カインやエレミアをはじめ、青年将校たちが集まっていた。




