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第26話 休息?【連続投稿】

 〈ダマスカス王国 王都マリアンヌの王城〉


 南部諸国軍の崩壊の影響は他の戦線にも伝わっていた。


 魔族南部方面軍は列強ダマスカス王国を北から挟撃すべく、南部街道を西進する本隊とは別に、大陸中央の街道に支部隊を派遣。魔族軍は中央街道でも攻勢を強め、大きな犠牲を払いながらも中央街道上の人類の城塞を次々と攻略していった。

 

 病床にある国王シャルルは、窓の外に立ち上る黒煙を静かに見守っている。そんな国王に老輩の大臣が声をかけた。


 「陛下、サムソン殿下率いる軍主力は王都を脱出。列強ヒスパニア王国軍との合流地点へ向かっております。ですが、エスター殿下はペリシア藩王国に留まると」


 「ゴッホ、ゴッホ。西からの侵攻を想定していた我が国北部の防衛線は薄く、中央街道からの王都攻撃を防ぐことは困難だった。主力部隊を無傷のまま撤退させる事ができたのは不幸中の幸いだな」


 「陛下、今からでも脱出してください。明日には、この王都マリアンヌも魔族軍に包囲されます。どうか」


 大臣はシャルルにひざまずく。


 「貴公もわかっているであろう。余の体は長旅には耐えられん。野営地で死ぬくらいなら、この王都と運命を共にしようぞ。そんなことより、焦土作戦は進んでおるか? 」


 「はい・・・・・・ 畑の作物は国外に運び出し、残った作物には火をつけさせました。王都周辺の井戸には毒を投げ入れ、王都の建物の打ち壊しも始まっております」


 「それで良い、魔族軍には食事も寝床も残すな。余から2人の息子への最後の贈り物だ。余の息子達なら必ずや役立ててくれよう・・・・・・ 」


 翌日、守備隊の奮戦も虚しく王都は陥落し、アシリア公国に続いてダマスカス王国も魔族軍の支配下となる。




 〈アトランティア王国 首都ハイファ〉


 建国から7年半が経ち、港湾都市ハイファは大きな発展を遂げていた。

 街には電線が引かれ、過半数の家にはシンプルな白熱電球が取り付けられている。帝国の植民地となっているアトラス海の島々からは、豊かな生活に憧れた数多くの亜人達が移住し、並行して上下水道の整備や鉄筋コンクリート作りの新市街の建設が進んでいた。


 海に面した白いテラスでは、カイン、エレミア、イルーマの三人がテーブルを囲んでいる。


 「ふぅ、こうして三人で集まるって久しぶりね」


 エレミアは紅茶を飲みながら言う。彼女の背中の翼が、心地良い陽光を受け止めるように広げられていた。


 「久しぶりって、つい昨日会議で会った記憶があるんですけど・・・・・・ 」


 カインがコーヒーカップを片手に答えた。この世界にコーヒー豆はないが、昔の転生者が伝えたという麦芽コーヒーが普及している。


 「それって仕事ででしょ。休日に集まっておしゃべりなんて、戦争が始まって以来じゃない」


 「たしかに思い返せば、お互いに忙しかったですね」


 「そういうこと」


 イルーマは二人の会話を聞きながら、麦芽コーヒーを口に運んだ。


 「そういや、戦争のほうは大丈夫なのか? あーしは軍事はよくわかんないけど、魔族が攻めてきてるんだろ」


 「それなら問題ありませんよ。航空偵察ではアシリアの魔族軍は再編中、ダマスカスの魔族軍は帝国攻略にしか興味がないようなので」


 カインが答えると、エレミアが少し頬を膨らませた。


 「ほら、また仕事のしてるー」


 「ははは、すまねぇ、すまねぇ」


 イルーマは小さく笑った。


 「それに、休める時に休めるのが、一人前の軍人ってものよ」


 その時、紺色の制服に身を包んだ男が現れた。


 「失礼します」


 「誰だこいつ? 」


 イルーマがカインに不満げに尋ねた。


 「国家憲兵、治安維持などの警察活動と、軍の統制を行う機関ですよ」


 「はい。カイン・ヴァレ・シュラプネル軍顧問、エレミア・セイレーン少将、申し訳ありませんが、国家憲兵局まで来ていただけませんか?」


 「国家憲兵の予備役編入の協議なら、明日のはずですよ」


 「それが、転生者がらみの問題が発生しまして・・・・・・ 」


*  *  *  *


 〈国家憲兵局〉


 「それで、あたし達を呼んだ理由を詳しく聞かせてちょうだい」


  エレミアは腕を組みながら尋ねた。


 「こちらをご覧ください」


 憲兵が壁に開いた小さな穴(スリット)を指差す。カインとエレミアがそっと覗くと、無骨な取り調べ室の様子が目に飛び込んできた。取り調べ室の中央には、ハイエルフの少女が座っている。

 

 「彼女は軍港のドックを覗き見していたところを発見され、我々が職務質問をしたところ、逃げようとしたため拘束しました」


 「他国のスパイですか? 」


 「我々もそう考えて、少し強めの言葉で尋問したのですが・・・・・・ 」


 憲兵は困ったような表情を浮かべた。


 「すぐに泣きそうな顔になって、あっさり自分のことを話し始めまして。彼女が言うには、自分は帝国の転生者で、大砲を作った者を探していると」


  カインとエレミアは顔を見合わせる。

 

 「な、なるほど・・・・・・? 」


 「正直、調子が狂うというか何というか・・・・・・ 演技には見えませんし、彼女の持つ弓の焼印が帝国のものでしたので、お2人には彼女の身元確認をしてもらいたいのです」


  鉄の扉が開かれ、2人は取り調べ室へと入った。非常事態に備え、拳銃とサーベルを装備した憲兵も同行する。

 

 「鑑定魔法(アプレイズ)」


 エレミアはハイエルフの少女の頭に手を当て、呪文を唱える。

 

 「高位の弓使いのスキル、女神の加護もある。彼女本当に転生者みたいよ」


 「なんと・・・・・・! 」

 

 憲兵達にざわめきが広がった。一方で、少女は涙目でプルプルと縮(ちぢ)こまってしまっている。武装した憲兵に囲まれている状況では仕方がない。


 カインがイスに座ると同時に、エレミアは紅茶の入った魔法瓶を取り出した。


 「はぁ、とりあえずお茶でも飲む?」


 エレミアがカップに注いで渡すと、少女は戸惑いながらも受け取った。


 「・・・・・・ありがとうございます」


 「憲兵の方々、彼女を怖がらせてしまうので一旦退室してもらえませんか? 弓使いなら近接戦闘能力は皆無ですし、エレミアさんもいるので」


 「わ、わかりました。何かあればすぐに呼んでください」


 憲兵がいなくなった取り調べ室で、カインは落ち着いた口調で話しかける。


 「良ければ、もう一度あなたについて話していただけますか? 僕はカインと言います」


 「うんわかった、私はルカ・アルテミス。前世では松島ルカって名前の高校生で、あっ高校生っていうのは学校に通う若い人のことで・・・・・・ 今は転生して帝国で勇者をやってるの」


 「『高校生』? ルカさんの前世って地球の人間ですか? 」


 「そうだけど、もしかして貴方も転生者? て言うことは、あの大砲と船も貴方が!?」


 「あ、いえ、その・・・・・・ 」


 「私はアトラス海戦の時に帝国の船に乗っていたの。そしたら正体不明の者に沈められた、魔族軍に鹵獲された帝国軍艦に遭遇して、その時火薬みたいな匂いを感じたんだ。私はその後、時々時間を見つけて誰が火薬を作ったのか調べてたの」


 (なるほど、だから本当に素人だったわけですか・・・・・・ ですが、情報流出は問題ですね)


 カインは頭の中で納得する。だが一つ疑問が浮かぶ。


 「そう言えば、何で自分で探したんですか? わざわざそんな手間をかけなくても」


 「はは、たしかに。笑わないで聞いてくれるかな。私はその時思ったの、火薬とかが現れたらこの世界がめちゃくちゃになっちゃうんじゃないかって。せっかく異世界に来たんだから、殺し合いなんかせずに平和に暮らしたいじゃない。でもよかったな、貴方が優しそうな人で・・・・・・ 」


 ルカの言葉を聞いて、カインは言葉に詰まってしまった。


 (昔、僕の家族の命を奪った帝国の勇者・・・・・・ その1人であるあなたが平和を口にするんですか? )


 カインは机の下で拳を握りしめる。


 (帝国の勇者から平和なんて聞きたくなかった。どうせなら全員悪人であって欲しかった・・・・・・ )


「エレミアさん。少し、ルカさんと二人で話がしたいです。地球のこととか話したいので・・・・・・ 」


「そう、わかったわ」


エレミアはカップを置くと、静かに部屋を出ていった。扉が閉じるのを確認してから、カインはルカに向き直る。


 「ルカさん、あなたを特別に開放します」


 「えっ!? いいの? 」


 「ええ、ルカさんにはこの国、アトランティアと帝国の友好の架け橋になってもらいたくて。平和を願うルカさんなら適任です」


 「よかった。カインさんがいい人で・・・・・・ 」


 「その代わり、僕の願いも聞いてもらえますか」


 「わかったわ。私にできることならぜひ! 」


 ルカは嬉しそうにカインと握手を交わす。だがカインは笑いながらも、どこか寂しそうな顔をしていた。


 (ルカさん、僕はあなたが思うような「いい人」なんかじゃないんですよ・・・・・・ )




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