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第25話 大攻勢2+補足設定

 

 魔族南部方面軍の司令部は、第二次攻撃の実施を決定した。先の攻撃で大損害を被ったとはいえ、第一次攻撃の残存部隊に加えて到着した新たな部隊が攻撃準備を整えている。


 そして、戦場の上空を1騎のワイバーンが旋回していた。


 「煙を確認」


 アシリア公国の竜騎士ヴォイテクは、手に持った地図と眼下に広がる戦場を交互に観察していた。地上では塹壕後方から閃光が光るとともに、前線から火と煙が上がっている。


 「魔族軍、重怪異部隊K-6。煙の発生はK-7。右翼の歩兵連隊F4。煙の発生は・・・・・・ 」

 

 地図には数字とマス目が引かれていて、ヴォイテクは数字を読み取るとその位置を一つずつ確認し、手鏡を使って地上の部隊に送る。そんな単調な作業を繰り返しながら、ヴォイテクは不満げにつぶやいた。

 離れた所では、アシリア公国の竜騎士たちが竜槍を手に魔族軍と戦っている。


 「私はいったい何をしているのだろうか? はぁ、公王様の命令とはいえ、戦いに参加せずに観戦するだけとは・・・・・・」


 彼の任務は、公王から命じられたものだった。「一時的にアトランティア軍の指揮下に入り、空から戦場の状況を伝えろ」と。

 

 ヴォイテクは勇ましく戦う同僚達を羨(うらや)ましながら、黙々と任務をこなすのであった。


*  *  *  *


 アトランティア軍、前線司令部。


 「竜騎士より通信、ただちに観測結果を砲兵陣地に送信します」


 「うん、いい調子です。砲撃目標を、前進を開始した左翼の1個師団へ変更、じゃんじゃんいきましょう」


 士官の報告を聞くと、カインは地図の上から敵を現す赤い駒を何個かつまんで取り除く。


 「空から見ると、これほど正確に敵の位置が分かるのか・・・・・・」

 「地上観測とは比べ物にならない精度。空中観測射撃の力は凄まじいですね」


 士官達が次々と呟く。


 これまで砲撃の観測は、基本的に地上から行っていた。戦場は一面の畑、それでも土手や植え込み、農道などが視界を遮る。そのため、敵の正確な位置を把握することは難しかった。

 だが、空からなら違う。


 「私の部隊も第一次攻撃でライフル弾が不足していたから、砲兵が活躍してくれて助かるわ。ほんと、魔族って数多すぎよ」

 

 エレミアはそう言って地図を覗き込む。


 「ねぇ、新型の7.7cm野砲なら敵の司令部まで届くんじゃない? アゾフスタークの時みたいに敵を混乱させられと思うけど」


 「たしかにそれもいいですが、後の事を考えると避けるべきですね」


 「と言うと?」


 「魔族軍にとって命令なしの撤退は重罪。もし仮に司令部が無くなったら、前線の魔族兵は死ぬまで戦いますから」


 「たしかに、掃討戦は面倒ね。でも魔族軍だってこんなに戦力を失ったらすぐに撤退するわよ」


 「ですね」


 そんな会話の最中も、次々と赤い駒が地図から弾かれていく。一方で友軍を表す青い駒にはほとんど動きがない。


 「それにしても、あの公王陛下には感謝しかないわね」


 「たった1騎でこの戦果。交代も含めて2騎とはいえ、しばらくはアシリア公国にお世話になりたいですね。我々にも航空戦力が必要とわかりましたが、今は公王陛下にお礼を言うのを先にしましょうか」


 後日、竜騎士ヴォイテクは、次々と与えられる身に覚えない表彰や勲章に大いに戸惑うことになる。


 *  *  *  *


 〈魔族南部方面軍司令部〉


 「第45師団、消耗率4割を突破!」「第18怪異部隊、混乱により多数のトロルが暴走。至急、支援求む!」


 連絡兵からは悲惨な結果のみが届けられる。


 「何をしている同志ニコライ将軍。早く敵を殲滅したまえ」


 政治委員ヨシノフが冷たい口調で言い放った。


 「わかっています。ですが既に作戦の続行は不可能です。ここは一時的に・・・・・・」


 「『一時的』? まさか、その言葉に続く文字は『撤退』かね? 一度でも占領した土地を放棄するとは、祖国の財産を横領することと同じだぞ」


 「い、いえ、そうではなく・・・・・・ 戦略的視点からでして・・・・・・ その・・・・・・ 」


 ニコライ将軍があいまいな返答を返している間にも、被害の報告が止まることはない。


 翌日、魔族軍が「後ろに向って進軍」を始めたのは、第二次攻撃部隊が消え去ってからだった。




 〈補足設定〉


 ・コロンビアナ合衆国

 帝国南部に位置し、大陸で二番目の大国であり列強国。過去に帝国に敗戦していて、帝国やその関係国と対立している数少ない国の一つ。軍事については独自に開発した魔導兵器に加え、錬金術により生み出された黒色火薬を使った兵器を保有している。現在鎖国中。


・アシリア公国

 ダマスカス王国の東に位置しアトランティアとも国境を有する。文明や国力は列強と比べて低いが、魔族領に近いことから高い軍事力(竜騎兵)を持つ。公王は「武王」と国民から呼ばれ、のちにアトランティアの数少ない友好国となる。


・魔族

 東にすむ民族であり、女神への信仰を否定しているため亜人を含めた人類と対立している。


・街道

 北部街道。山地に作られた中央街道。アシリアやアトランティア、ダマスカスを通る南部街道の三大街道がある。交通網が発達していないレムリア大陸において、大規模な軍隊が移動できる数少ない手段であり、魔族戦争の主戦場は三大街道沿いにある。3大街道を結ぶ、南北に作られた支街道も存在。




 

第26話は9月21日月曜日に投稿予定です。

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