↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/39

第23話 戦線崩壊

 

 〈開戦から2年後〉


 大陸中央に位置する中規模国家のリターリャ王国は、魔族軍1万による侵攻を受けていた。


 「宰相、この度(たび)の各国への援軍の要請はどうであったか? 」

 

 国王カブールは、王座の上から宰相の返答を固唾(かたず)を飲んで待っていた。だが宰相は申し訳なさそうに首を振る。


 「帝国、列強、諸国共に、援軍は送らないと・・・・・・」


 寂れた王座の間に、国王カブールの大きなため息が響く。

 リターリャ王国は魔族の主要な侵攻路から外れていたため、魔族軍の数は少なく、王国軍は守りに徹することで侵攻をギリギリで退(しりぞ)けてきた。


 しかし、戦争が長引けば話は別だ。戦場となった地域では畑や街が荒廃し、税収は今もなお急降下している。このまま戦争が続けば、たとえ敗北しなくともリターリャ王国が滅びてしまう。


 だが、諸国の反応は冷ややかだった。「申し訳ありませんが、我が国も余裕がありません。むしろ、諸国軍に加わって前線に来て欲しいくらいです」「魔族軍の数が少ないのであれば、リターリャ王国だけでも対処できるでしょう」

 そう言って、どの国も援軍を出そうとはしなかった。


 すると意を決したかのように、宰相が口を開いた。


 「陛下。一つ、方法がございます」


 「申してみよ」


 「魔族軍の数を、実際より多く報告するのです。1万が少ないと言うのなら2万、それでもダメなら5万人と」


 国王カブールは複雑な表情を浮かべる。


 「それは、水増しをするということか?」


 「はい。現状では、諸国は我が国を助ける必要がないと判断しております。しかし、魔族軍が実際には数倍の規模だと伝えればどうでしょう。もし仮に我が国が落ちれば、後方の諸国が危険にさらされます。これは他国のためでもあるのです」


 国王カブールはしばらく黙り込む。


 「こうなっては、やむを得まいか」


 その後、手を加えた戦局が各国に伝えられた。だが、それが思わぬ事態を引き起こすことになる。



 〈大陸南部のアシリア公国 ダマスカス派遣軍本陣〉


 「リターリャ王国からの緊急報告です!」


 伝令の兵士が駆け込んでくる。その報告を受けたのは、ダマスカス派遣軍を率いるハイエルフの王太子サムソンだった。


 「援軍の要請か、それなら断ったはずだぞ? 奴らは自国が危ないと言って諸国軍に加わらなかった癖に、図々(ずうずう)しいではないか」


 「それが援軍が加わり、魔族軍が1万人から6万人に増強され、リターリャ王国軍5千人では守りきれないとのこと」


 補佐役のダマスカス将軍達にざわめきが広がる中、サムソンはため息混じりに答えた。


 「仕方ない、リターリャ王国は我がダマスカス王国の北部に隣接している。ダマスカス派遣軍5万の内、兵5千人とワイバーン40騎を送ってやれ。まったく、蛮国にはいつも手間をかけさせられる」


 だがその言葉に、一人の将軍が反応した。


 「殿下、派兵してはなりません」


 「なぜだ? 父上もゴブリンの出没が増えたと手紙に書かれていたぞ」


 「リターリャ王国の戦力では、我々の援軍が到着するまで持たないでしょう。そしてリターリャを攻略した魔族軍はそのまま南下し・・・・・・ 」


 彼は地図を指差し、置いてある赤い駒をダマスカス王都へスライドさせた。

 

 「まさか、我らの王都まで攻め込まれるというのか! 」


 サムソン、そして将軍達の顔がみるみる青ざめてゆく。


 「もしそれが事実なら、魔族軍の奇妙な増援にも頷ける! 」「いや、ダマスカス王都が目的なら、更なる魔族軍の増援もあるかもしれませんぞ! 」


 そしてサムソンはつぶやく。


 「撤退だ・・・・・・ 」


 「殿下、今なんと!?」


 「撤退だと言っている! 全軍撤退! 王都に戻るぞ! 」


 「しかし、それではアシリア公国の防衛線は崩壊しますぞ! 」


 「知るか! 畑しかないアシリア公国なんぞ放っておけ、本国が危ないのだ! 」


 

 *  *  *  *



 ダマスカス軍の撤退の報告は、瞬く間にアシリア公国の前線を駆け巡った。各国軍の高官たちが一か所に集まり、今後の対応について協議を始める。


 「列強ダマスカス軍がいない以上、このままでは前線を維持できませんぞ!」


 「実は我がマリノ国軍は補給のため一(・)時(・)的(・)に、本国に戻る予定です。決して撤退ではありませんぞ」


 「なんだお前ら逃げる気か! 」

 

 「ここは戦略的撤退でどうでしょう? で、ほとんど損害を受けていないナラバ王国の軍が最後まで残るのが良いかと」


 最後まで残った軍が全滅するのは明らかだ。押し付け合う声が、次々と飛び交う。


 「待ってください! 先ほど、リーベルク公国も撤退の準備を始めたとの報告が」


 「もういい! 我が軍は撤退するぞ!」


 その一言をきっかけに、各国軍は我先にと撤退を始めた。


 「お待ちください。それでは我がアシリア公国は陥落してしまいます! どうか! 」


 アシリア公国の軍人たちが必死に引き止めようとするが、もう流れは止められない。前線を守る者がいなくなったことで、魔族軍は一気に攻勢へ転じた。


 

 〈翌日 アトランティア王国参謀本部〉


 「本当にこの変な針金が、カイン(あなた)の新兵器なの?」


 エレミアは机の上に置かれた金属線を指差した。長い鉄の針金に、尖ったトゲのような短い針金が巻き付けられている。


 「これは有刺鉄線。正確には兵器というより、防御施設の一部ですね。国境や野戦陣地など、敵が進んでくる場所へ張り巡らせると言うわけです」


 「ふーん」


 「顧問殿、国境にも張り巡らせるには、かなりの長さが必要になるのでは? 」


 青年将校が尋ねる。


 「そうですね。ですが、製造方法自体は意外と簡単ですよ」


 カインはハンドルのついた機械を手に取ると、青年将校たちへ説明を始めた。


 「まず、この機械のローラーに短い針金を差し込みます。そして、ハンドルを回してトゲになる針金のコイルを量産するわけです。

 次に二本の鉄線の間に、さっき作ったトゲを並べて強くねじり合わせます。そうすると、ねじれ目がトゲを挟み込んで簡単には動かなくなり、等間隔にトゲが付いた有刺鉄線の完成です。トゲを並べるのはまだ手作業ですが、イルーマ主任に工作機械を発注しているので今後はもっと効率的に作れますよ」


 青年将校たちは感心したように有刺鉄線を眺めた。


 「なるほど。これなら城壁を作るより安く、丸めれば木の柵より簡単に運べますね」

 

 「でも、こんな針金で本当に敵を止められるの? 剣で簡単に切れそうだけど・・・・・・ 」


 エレミアが有刺鉄線を持ち上げる。だが話しながらだったせいで、間違えてトゲのある所を触ってしまった。

 

 「痛っ!」

 

 「大丈夫ですか!? 錆があったら大変です、手を出してください」


 「だ、大丈夫よ。舐めときゃ治るわ」


 「はは、なかなかワイルドですね・・・・・・」


 エレミアは恥ずかしそうに指先の傷を咥(くわ)える。そして、少し不満そうに有刺鉄線を睨んだ。


 「まぁ、触わって痛いのは分かったけど。やっぱりあたしは、こんな細いので敵を止められるとは思わないな」

 

 その時だった。


 「失礼します! 」


 伝令兵が息を切らしながら駆け込んでくる。


 「前線から緊急報告です!アシリア公国方面の防衛線が突破されました!」


 室内の空気が一瞬で張り詰め、参謀本部の青年将校たちは一斉に自身の仕事に取り掛かる。カインは机の上の有刺鉄線を見つめる。


 「わかりました。参謀本部は4号計画を採用し、国境で迎え撃ちます。それと工兵を呼んでください、有刺鉄線の出番です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。