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第22話 提督たちの反乱2


 風もなく、波の穏やかな青い海。艦尾が太いロープで結ばれた2隻の船が海面に並んでいる。

 1隻は海軍の木造のガレー船、そしてもう1隻はイルーマが用意した実験船タービニアⅡだ。


 〈ハイファ沖。海軍旗艦の艦上〉


 海軍のバウアー提督は、ガレー船の甲板から声を響かせる。


 「ではこれより対抗試験を始める! ルールを確認しよう、号令と共に両艦は反対方向に全力で前進し、相手を引っ張る。先に200メートル進んだ船の勝利だ。タービニアⅡが勝てば我々海軍は本部の用意した新型艦を採用する。だが我々のガレー船が勝てば、海軍への干渉をやめていただこう」

 

 「ああ、いいぜ。そっちも今言ったことを忘れてないでくれよ! 」


 イルーマは露天艦橋の上から答える。続けてボートに乗った審判が号笛を用意した。

 

 「両艦、前進用意! ピーーーッ!!! 」

 

 「漕げ! 漕げ! 漕げーー! 」


 ガレー船の側舷から突き出されたオールは、一糸乱れぬ動きで海面を叩いた。流線型の木造船体が勢いよく前へ進み始める。


 バウアー提督は横目でイルーマの船を観察する。煙突から煙が上がっているが、タービニアⅡはすぐには動かなかった。タービンが回り始め、スクリューが海水を掻き回す。しかし、人間が漕ぐオールとは違い、蒸気機関が十分な回転数に達するまでには時間が必要だった。


 その間にもガレー船は前進し、お互いに張られたロープが完全に伸び切ってガンッという音を鳴らす。


 「提督、我々海軍が優勢です!」


 「当然だ。他国ではオールの漕ぎ手に奴隷や捕虜を使っているようだが、我々の漕ぎ手は全員が正規の水兵。やはり、我々には金属の機関ではなく共に戦う仲間が必要なのだ! 」


 タービニアⅡはゆっくりと引きずられる。


 「蒸気のカラクリなど、所詮はこの程度か」



 *  *  *  *



 タービニアⅡの艦上では、イルーマが計器を睨んでいた。


 「向こうの方が加速がいいとは想定してたけど、想像以上だなこりゃ」

 

 イルーマは頭を掻くと、脇に置いてあった陶器製の容器のコックをひねる。


 「保険、使わせてもらうぜ」


 瓶の中身、過酸化水素がタービンへと注入された。



 *  *  *  *


 「て、提督。様子が変です! 」


 マストの上の水兵が叫ぶ。

 今まで引きずっていたはずのタービニアⅡの艦尾から、大量の気泡が上がってきたのだ。

 そして次の瞬間、ロープがさらに強く張った衝撃と共に、ガレー船の船体がわずかに後ろへ引かれ始める。


 「なんだと! もっと漕げ! 」


 バウアー提督は一瞬口を閉じると、続けて言い放つ。


 船員たちは必死にオールを動かした。だが、非情にも航跡は艦尾から艦首へ流れていく。

 

 「押されてるぞ!」


 「構うな! 漕げ!」

 


 *  *  *  *



 そんな様子を海岸から見ていたのは、カインとエレミアだった。


 「あれ? なんかイルーマの船が逆転してるみたいよ」


 「どうやら、過酸化水素を注入したようですね。まぁ、できれば使って欲しくはなかったんですが」


 「で、『かさんかすいそ』って結局なんなの? 」


  エレミアはサンドイッチを片手に尋ねる。


 「水と酸素が結びついた極めて不安定な液体です。過酸化水素がボイラーに注入されると、鉄と熱に反応して、瞬間的に大量の水蒸気と酸素を発生させます。短時間ですが、文字通り爆発的な出力を得られるというわけです。僕の前世では、同じ原理のエンジンがこう呼ばれていました。ヴァルター機関と」



 *  *  *  *


 タービニアⅡはすでにガレー船を引き始めていた。

 過酸化水素の効果はやがて切れる。だが、十分時間を稼ぐことはできた。すでに最高出力まで上がったタービンは高速回転し、馬力の暴力でガレー船を引っ張ってゆく。


 スクリューが海水を掻き続ける中、ガレー船の水兵たちは最後の力を振り絞ってオールを漕いでいた。

 しかし、もう流れは変わらない。

 ガレー船の船体が、どんどんと引きずられていく。


 「200メートル!」

 

 そして、海上のブイを通過した瞬間、審判の声が響く。

 タービニアⅡの勝利だった。

 

 ガレー船の甲板では、バウアー提督が静かにタービニアⅡを見つめていた。

 

 「認めざるを得んな・・・・・・ だが面白い、私も水兵もまだまだ鍛錬の余地があったと言うことか! ハッハッハー!」



 〈大陸北部 魔族軍本陣〉


 「私はただ再編成のため、生き残った味方を後方に下げただけです! 」

 

 「そうか、職務怠慢により逃走した貴官を、祖国人民反逆罪で死罪とする。シベリノスクで飢え死にさせないだけ感謝したまえ」


 「待ってください、私は・・・・・・ ムグッ!! 」


 将校は猿ぐつわを咥えさせられると、政治委員たちに引きずられてゆく。


 そんな様子を転生者である女将軍、レビ・グスタフ・パーンツィリは遠巻きに観察していた。


 「あーあ、かわいそうに。将校の粛清数はこれで今月15人目、いや25人目じゃったか? 」


 可憐な容姿ながら、古風な口調でつぶやく彼女の言葉に、副官のシクヴァルが答えた。


 「35人目だったかと、レビ将軍。と言うよりも言葉には注意してくださいよ、どこで政治委員が聞き耳を立てているかわかりませんし。あなたが将軍と言っても、50人いる将軍の1人に過ぎません。小官はまだ死にたくはないです」


 「ははは、すまなかったのう。魔族軍の進軍が停滞しているせいで、上層部はイライラしているようだな」


 「ええ。それにしても、小官は330万の大軍で攻めればあっさり片がつくと思っていました」


 「おいおい、わらわの副官が上層部の無能と同じ考えでは困るぞ。大勢の兵が一度に戦える場所など、そう多くはない。330万人が野営できる平野、330万人を食わせる食糧、そして330万人分のウンコもでる」


 「将軍、失礼ですが女性としての恥じらいを持った方が良いかと」


 シクヴァルが顔をしかめた。


 「すまん、すまん。で、一番の問題は街道じゃ。軍隊は原野を進めるが、補給の馬車はそうはいかないじゃろ。人間共が街道に要塞を築いているせいで迂回(うかい)もできん」


 「つまり、我々はこのままでは・・・・・・ 」


 だがレビはニヤリと笑う。


 「じゃが、最後に勝つのはわしら魔族じゃ。人間が兵を失えば、その補充には何年もかかる。子供を育だち、兵を訓練しなければならんからな。じゃが、魔族には兵だけでなく怪異(モンスター)がおる。ゴブリンなら半年、オークなら1年で成体になる。つまり時間はわらわ達、魔族の味方じゃ」


 



 

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