第20話 海戦後
今週は週2回投稿ですので第19話をお読みでない方は先に前話「魔族艦隊の奮闘」をお読みください
〈開戦から7ヶ月後 アトランティア王国参謀本部〉
国防軍顧問であるカインは、部隊の交代に合わせてアシリア公国から帰国していた。
そしてそれを参謀本部の青年将校が敬礼で出迎える。
「顧問殿お疲れ様です。いかがでしたか、戦争の方は? 」
「良くも悪くも貴重な情報が得られましたよ。諸外国の軍隊と共に戦ってみて、我々の兵器が他国や魔族に優位性を持っていることも確認できました。まぁ、帝国軍の戦闘を見れなかったのは残念ですけど」
カインはそう答えると、自らまとめた分析資料を机に並べる。
「ただし、火力にはまだ問題があります」
「火力ですか?」
「ええ。ライフルドマスケットは確かに強力ですが、前装式である以上、連射速度には限界があります。連日の戦闘で一度だけ魔族歩兵の突撃を防ぎきれず、銃剣による近接戦闘で撃退したことがありました。さらに大規模な攻撃を受ければ、ライフルドマスケットだけでは防ぎきれない可能性は大きいですね」
「第2次軍備5ヵ年計画によるボルトアクション小銃と機関銃ですが、工房によれば試作品の給弾不良が深刻で、金属製薬莢の大量製造にもあと1年以上かかると」
「わかりました。私も午後には工房にいくと伝えてください」
青年将校が別のカインの報告書に目を通して尋ねる。
「これは、野戦砲の運用方法の改善ですか? 」
「固定目標への砲撃は問題ありませんでした。しかし、トロルなど移動する敵に対する砲撃では、観測と射撃指揮にまだ改善の余地があります」
「なるほど。兵器そのものの改良だけでなく、運用方法も改良する必要がありますね」
カインは頷く。
「ええ、やはり実戦を通しての情報を得られたと言う意味では、今回の派兵は成功と言えるでしょう」
その後も青年将校たちからは開発状況や兵站、防衛計画など次々と報告が続いた。
「海軍についても、魔族艦隊による攻撃もありましたが増強は進んでいます。目玉である2000トン級装甲帯巡洋艦の2番艦も艤装が完了したとイルーマ殿から。ですが未だ提督が・・・・・・ 」
最後の言葉を言おうとした時、カインも含めた全員がため息をついた。青年将校は疲れたような表情を見せながら続ける。
「またも提督が、最新鋭艦の受け取りを拒否してきたと・・・・・・ 連絡官から報告です」
〈神聖帝国 帝都の海軍省〉
帝都にある海軍省には、南部アトラス海も含めて帝国海軍の全艦隊の状況が伝えられる。
「現在、制海権は完全に我々の手中にあります。魔族海軍はすでに壊滅状態。残存艦は基地に逃げ帰って再編中、と言っても帝国基準では戦力外のガレー船ですが」
報告を聞いていたワトソン海軍大将は満足そうに頷く。
「ハハハ。陸軍は魔族の大軍を相手に、日々せっせと戦っているというのに、我々海軍は暇なものですな」
「そうそう、蛮族といえどもう少し粘ってくれないと、我々としても戦い甲斐がないというものですな」
将校たちは紅茶を片手に語り合う。
冗談が飛び交う中、一人の士官が新たな報告書を手に入ってきた。
「南洋艦隊からです。アームストロング提督より、魔族艦隊との交戦結果についてのレポートです」
「なんだ、その海戦の報告書なら前にも読んだぞ」
「それが、前回の重要部分に改めて加筆した物だと・・・・・・」
「重要部分? 」
ワトソン海軍大将は報告書を手に取る。
「なになに、5年前に魔族へ鹵獲された帝国軍艦8隻のうち、2隻は北海艦隊が撃破。今回南洋艦隊がさらに4隻を撃沈し、2隻が不明だと? たしか南洋艦隊が6隻全てを撃破したのではなかったか? 」
「はい。アームストロング提督の推測では、南洋艦隊が追撃した魔族艦隊とは別に、正体不明の第三者が鹵獲艦2隻を撃沈したとのことです」
一瞬、部屋が静まり返る。だが次の瞬間、部屋一杯に将校たちの笑い声が響いた。
「第三者だと? 帝国の魔走砲艦を撃沈できる勢力が存在するとでもいうのか?」
士官は困ったように答える。
「レポートでは、諸国の主力艦は連合艦隊に参加していて、唯一帝国と対立するコロンビア合衆国海軍の活動も報告されていません」
「ならば答えは簡単だ。魔族が整備を怠り、事故を起こしたのだろう」
別の将校も同意する。
「帝国の魔走砲艦は魔導工学の粋を集めた軍艦です。魔族のように海戦に不慣れで、技術も低い連中が扱っていたならば、事故を起こしても不思議ではありませんな」
「仮に戦闘で沈んだとしても、原因は整備不良だ。アームストロング提督が何かを見間違えたのだろう」
こうして、アームストロング提督の報告は、魔族側の技術不足による事故として処理されることになった。
* * * *
〈帝国南洋艦隊 大陸南部のセイロン軍港〉
「まったく、本部の連中は何を考えているんだ!」
机に報告書の返答を叩きつけながら、アームストロング提督は苛立った声を上げた。
「漂流していた艦には、直径数mの破口が喫水線より上に複数あった。座礁や衝突であんな損傷をするものか! 丁寧に図解までつけたというに」
副官も頷く。
「我々が交戦した四隻は、いずれも整備状態に問題はありませんでした。整備不良があったとしても、船体を構成する厚さ60cmのチーク材に大穴を開けるには、魔粒子砲クラスの攻撃力が必要です」
「それなのに本部は事故で処理してしまった」
アームストロングは深いため息を吐きながら語る。
「帝国の魔走砲艦を沈められる何者かがいる。これは帝国にとって深刻な問題だというのに・・・・・・ そう言えば共にあの現場にいたルカ君はどうした? 転生者の彼女を証人にとも思ったのだが」
「彼女なら、『調べることがある』と商船をチャーターして行ってしまいました。周辺の港を回るそうです」
アームストロングはゆっくりと立ちながら口を開く。
「本部が信じないのなら仕方ない。だったら我々も、彼女のように自ら調べるまでだ」




