第19話 魔族艦隊の奮闘
〈大陸の南に広がるアトラス海 洋上〉
魔族軍艦隊の出航を受け、アトラス海には人類側の大艦隊が集結していた。先頭の帝国南洋艦隊の魔走砲艦80隻に加え、列強の艦隊や周辺諸国のガレー船も含めると総数は300隻を超える。
「10時方向にダマスカス王国艦隊、魔走軍艦5隻と大型ガレー船50隻を確認しました」「続いて列強の大ヒスパニア王国の魔走砲艦10隻、帆走戦列艦40隻も隊列に加わります」「シヴァ王国、ガレー船10隻を視認」
帝国南洋艦隊アームストロング提督は、旗艦イラストリアスの甲板に立ちながら、見張り員の報告に耳を傾けている。
「連合艦隊か・・・・・・ 名前と数だけは立派だが、それにしても遅すぎる。我々が帆船の速度に合わせなければならないのは面倒だな」
帝国の魔走砲艦はその名の通り魔導機関を搭載していて、側面の海水を加速させることにより18ノットの快速を発揮できる。さらに旗艦イラストリアスには両舷合わせて100門の魔粒子砲が備えつけられ、他の艦も70門近い砲を搭載しているのだ。
「提督、仕方ありません。お飾りですが諸国にもメンツがあり、置いていくわけにもいきませんよ」
アームストロングの副官が答える。すると、甲板へ一人のハイエルフの少女が上がってきた。
「ルカ君か、何か用事でも?」
「いえ、少し艦隊を見て回ろうかと。お飾りとはいえ、貴賓室にこもっているわけにはいきませんから」
ルカと呼ばれた少女は、双眼鏡を片手に艦隊を眺めている。その様子を見た副官がアームストロングに尋ねた。
「あの少女は? 港でも見かけた覚えがありませんが? 」
「ああ彼女か。ルカ君は転生者でな、司令部が『連合艦隊の名目上の指揮官にちょうどいい』と送ってきたんだ。彼女は戦前、魔族との外交による和平を訴えたせいで、中央で煙たがられてたからな」
「魔族と外交ですか・・・・・・ 」
「非現実な話だが、私は嫌いではないよ」
その時マストの上から、セーラー服の見張り員の叫び声が響き渡る。
「水平線上に船影を確認!! 」
アームストロングが双眼鏡を覗くと、遠くの水平線に黒い影がいくつも浮かんでいた。マストには赤い旗がはためいている。
「血の赤旗。間違いなく魔族艦隊! 諸国に配慮するのもここまでだ。魔導機関は最大出力! 」
帝国の魔走砲艦は水飛沫を上げながら加速する。かろうじてダマスカス王国と大ヒスパニア王国の魔走軍艦だけが追従するが、帆走戦列艦や諸国のガレー船は次第に後方へ取り残されていった。
やがて魔族艦隊の姿がはっきりと見えてきた。先頭には、帝国艦に似た大型艦が4隻。続いてガレー船が50隻近く続いている。
「あの艦容。やはり5年前、カレリア諸島で鹵獲された帝国軍艦か」
アームストロングはつぶやく。基本的に魔族は陸の民族であり、海軍力は人類側に大きく劣っていた。だが港に停泊中の帝国艦を奪ったことで、列強に対抗できる戦力を整えていた。
「あの4隻に対抗できるのは、我々以外では大ヒスパニア王国の魔導砲艦。魔粒子砲は無いものの、ボンブアローを装備したダマスカスの魔走軍艦だけです」
「ああ、だが我が南洋艦隊には、同等以上の性能の魔走砲艦が80隻もいる。たとえ魔族が同じ数の船を揃えても、1000年の歴史を持つ帝国兵の練度には及ぶまい」
アームストロングが答えた次の瞬間。 魔族艦隊が一斉に進路を変えた。
「魔族艦隊、南に向けて転進! 追撃いたしますか?」
「当然だ。だが、好戦的な魔族が戦わずして逃げるとは珍しい」
アームストロングは不審に思いながらも、追撃を命じた。
「敵艦、射程に入りました!」「砲撃開始!」
艦の側面に並べられた魔粒子砲が、一斉に光を放つ。
放たれた炸裂魔光弾はSFのビーム砲のように直進し、魔族艦隊の周囲に水柱を上げた。百発百中とは行かないが、命中精度は砲の数でカバーする。
魔族艦隊は足の遅いガレー船から順番に補足され、バリスタの届かない距離から一方的に砲撃を受けていった。
魔族側の魔走砲艦も反撃するが、本家の帝国艦隊の練度には遠く及ばない。一方のダマスカス王国艦隊と大ヒスパニア王国の艦隊は、搭載兵器の有効射程の問題で命中弾を出せていない。
海戦は帝国艦隊の一方的な攻撃となった。海上には沈みゆく魔族艦隊の残骸が広がり、一方で人類の水兵達の喜びの声が響く。
だが、副官がアームストロングに浮かない表情で話しかける。
「提督、鹵獲された艦の数を確認したのですが、数が合いません」
「どう言うことだ?」
「事前の情報では、5年前鹵獲された帝国艦は8隻。内2隻は帝国北海艦隊が撃破し、4隻は今我々が撃沈しました。2隻足りません」
アームストロングはもう一度、海上を見渡す。そして少し考えるとハッと顔を上げる。
「クソッ、普段は好戦的な魔族艦隊が逃げ出した時点で気づくべきだった」
「提督、どうされたのですか?」
「さっきの魔族艦隊は囮だ。我々を引き付けている間、残りの艦隊で何かをするつもりだ。とーりかーじ、いっぱーい!」
「針路180度よーそろー! 」
帝国艦隊はその場に諸国艦隊を残し、予想される魔族艦隊に舵を切った。
〈同刻、帝国艦隊から北に90km 魔族軍第二艦隊〉
旗艦、魔走砲艦スヴェトラーナ(旧帝国艦ドレッドノート)の次には魔走砲艦ポチョムキンが続き、さらに後ろでは40隻のガレー船が船隊を組んでいる。旗艦スヴェトラーナの艦橋では、艦隊司令官ロジェンスキーが海図を開いている。
「敵艦隊は予定通り、第一艦隊を追撃しています」
「よし。第一艦隊が時間を稼いでいる間に、我々は上陸地点へ向かうぞ」
ロジェンスキーが海図で指差したのは、アトランティアのシナイ半島だ。
列強ダマスカス王国と軍国アシリア公国、その二つの国に挟まれたアトランティアは南部諸国軍の後方に位置している。
「ここへ上陸すれば、アゾフスターク城救援に向かった諸国軍の後ろを取れる。陸軍と挟撃すれば南部の敵主力は壊滅だ」
魔族は陸軍が主力であり、海軍では人類に質・量共に大きく劣っている。魔族のお家芸である人海戦術が取れない時点で、魔族海軍は負けていると言ってもいい。
だからこその奇襲上陸作戦だ。40隻のガレー船には、水兵も含めて各艦300人、合計で1万2千人近くの兵が乗っている。最終的には艦を捨て、水兵も全員上陸する算段だ。
「鹵獲艦の整備状態は、拉致してきた技術奴隷により万全に整えてある。もし敵の抵抗があれば、魔走砲艦の攻撃で粉砕するわけだ」
〈アトランティア王国参謀本部〉
「灯台の監視員から、魔族の赤旗を掲げた大型艦2隻、帆船30隻以上との報告が! 」
次々と上がってくる報告を参謀本部の青年将校達は必死に整理する。
「クソッ、なんで顧問が不在のこの時に、海軍に連絡すると共に情報を集めろ」「帝国艦に似ているとの報告もある。発砲許可はまだ出すな! 」
すると電信員が悲鳴のように報告する。
「不明艦が発砲したとの報告!こちらの見張り員に負傷者1名!」
「わかった、発砲許可だ!」
「ぞ、造船所のイルーマ主任から連絡。攻撃許可を求むとのこと・・・・・・ 」
〈魔族第二艦隊、旗艦スヴェトラーナ〉
「まさか、魔粒子砲の攻撃! いや違う、なんだこの攻撃は」
ロジェンスキー司令官は悲鳴に近い声を上げる。
魔族艦隊の周囲に水柱が上がり、ガレー船が2隻轟沈した。続けて旗艦スヴェトラーナにも爆発音が響く。
「か、艦首に被弾! 魔粒子砲4門が使用不能、死傷者多数」
(艦の大きさゆえに致命傷は避けられたが、船で陸上砲台と撃ち合うのはまずい・・・・・・)
「司令官、港の乾ドックに大型艦を確認しました!」
「そんなのどうでもいい、敵の砲に反撃しろ! 1隻でも上陸させろ!」
「いえ、乾ドックから光と煙が上がっ・・・・・・ !!! 」
〈半日後、アトランティアの南東30km沖合〉
「前方に艦影!」
帝国南洋艦隊の見張り員が叫んだ。
アームストロング提督は双眼鏡を覗く。するとそこにあったのは、大破して漂流する帝国製魔走砲艦だった。
「あれは、鹵獲された帝国の魔走砲艦。船首像からして旧ドレッドノートだが、なんであんな状態に? 」
その時、ルカが海面へ目を向けた。
「見て! あそこに人が浮いてる!」
「ルカ殿、あれは魔族兵ですぞ」
「だから何? 」
制止を振り切り、ルカは海へ飛び込んだ。
「お、おい! 誰かロープを! まったく、海の波を甘く見過ぎだ」
アームストロング提督は頭を抱える。シーマンシップに則れば、救助するのは自然だ。だが帝国軍では、異教徒である魔族兵は高官を除いて処刑が原則だ。
「仕方ないか・・・・・・ 各員、浮いてる魔族兵を見つけたら情報収集のために全員拘束しろ! 1人も逃すな、それと情報源に死なれないように必ず治療するんだ! 」
* * * *
その後、なし崩し的に漂流艦内の捜索が行われることとなった。
艦内の魔石灯は全て消え、所々で魔族兵のうめき声が聞こえてくる。ルカは先陣を切って救助する傍ら、船内に漂うツンとした匂いに気づいた。
「・・・・・・これって、花火の匂い?」
さらに救助した魔族兵の手当てをした者から、傷から金属片が出てきたと言う者も出てきた。
(これは花火の匂いじゃない・・・・・・ まさか火薬の匂い! この世界で? )
ルカは軍事には素人だが、火薬の匂いの意味は容易に理解できた。
「まさか、この世界で大砲を作った者がいると言うの!? 」
第20話は8月29日土曜日に投稿予定です。今後は毎週土曜日投稿となりますが、連載は今まで通り続けて参ります。




