第15話 帝国博覧会 前編
〈アトランティア建国から5年後 べヘルシェバの入り江〉
建国後、試験的な製鉄炉や製鋼炉が建設されたべヘルシェバの入り江は、5年の間にさらなる発展を遂げていた。
高さ10mを超える高炉が複数建築され、鋼の生産量は以前と比べ物にならないくらい増加している。従業員数の増加に伴い、政府の支援で安価で清潔な住宅も多数建設されて、何も無かった入り江は工業都市べヘルシェバと呼ばれるほどの規模になっていた。
そして、鋼や鉄鉱石、石炭を積み下ろす専用の港も完成。列強からの干渉を避けるため、ここで生産された鋼は一度第三国の港を経由して輸出される。
また、新魔王が人類殲滅を宣言して武器の需要が上がったこともあり、鋼の輸出はアトランティアに巨額の富をもたらしていた。
ジリジリジリジリーー!!
製鉄所内に従業員の交代を知らせるベルが響き渡り、イルーマがメガホンを持って呼びかけている。
「おつかれー、グループBのシフトはこれで終了だ! 帰ってゆっくり休めー!」
鉄を溶かす高炉の火は途中で止めることが難しく、365日ずっとつけていなければならない。そのため従業員は定期的に交代する。
「さーて、あーしも休憩がてら作業でもするか」
イルーマは鉄骨作りの廊下を抜け、製鉄所に隣接された工房の扉を開けた。
すると、黒色の野戦服を纏ったエレミアが出迎える。硬派な黒軍服がエレミアの白い肌や翼と対比され、成長した彼女の凛々しさを際立たせていた。
「どうした、お前が製鉄所に来るなんて珍しいな」
「聞いたのよ、新装備ができたって」
「あー、お前の想像する新装備とちょっと違うと思うが・・・・・・ まぁせっかくだし見ていけよ」
* * * *
さまざまな工作機械が並んだ工房。動力となるレシプロ蒸気機関がうなり、金属が擦れるけたたましい音が響いている。
その中で、イルーマは一台の巨大な機械の前で立ち止まった。
「あーしらは鋼を量産できるようになったけど、それじゃあまだ足りない。インゴットのまま輸出するより、こっちで加工して製品にした方がずっと儲かるだろ。だから次は、鋼を加工する技術や工作機械が必要なんだ」
イルーマが向かったのは、長い金属棒を取り付けた工作機械だった。
「例えばこいつは旋盤って言ってな。簡単に言えば、材料を回転させながら刃物を当てて削る機械だ」
「これで何が作れるの?」
「円系のものならなんでも作れるぜ。ネジにピストン、そして銃身とかな」
イルーマは棚から二丁の火縄銃を取り出し、エレミアに手渡した。
「どっちが新型かわかるか? 」
「でも、両方同じに見えるけど」
「ちょっとむずかったか? 実は製法が違うんだ。銃身の内側を見てみな」
エレミアは銃身を覗き込んだ。
「あっ、片方は中にでこぼこがあるけど、もう片方はツルツルね」
「古い方は職人が鉄板をハンマーで丸めて作ったもの。どうしても繋ぎ目ができるし、目に見えない歪みも残る。すると精度も悪くなっちまうんだ」
「つまり、製法によって性能が違ってくるってこと?」
「そういうこと。新型は鉄の棒を機械で削って、ドリルで中心に穴を開ける。これなら同じ寸法の銃身を何本でも作れるってわけだ」
「でも火縄銃は、もう私の部隊だと使ってないわよ」
「あくまでサンプルだからな。安心しろ、もう新製法で作った新型のライフルドマスケットも軍に納品済みだ」
「やっぱり、あなたは頼りになるわね」
エレミアが驚いていると、作業台の隅に置かれた円筒が目に入った。
「ねえ、このでっかい水筒みたいな奴は?」
「ああ、これはまだ試作品でな。銃身を冷やすためのものだ」
「銃身を?」
「連続して撃てば熱くなるだろ。まぁこれは完成してからのお楽しみな」
その時、工房の奥から大きな音が響いた。
ーーガコンッ!
「な、何!?」
エレミアが振り返る。そこには、旋盤とはまったく違う巨大な機械があった。
「ああ、こいつはプレス機。今回お前に見せたかった奴だ。鋼板を強い力で押して、決められた形に加工する機械だな」
イルーマが作業員に指示すると、一枚の鋼板が機械へ運ばれた。
「ちょっと見てな」
レバーを操作すると、巨大な金属製の型が下降する。
ーーガコンッ!!
轟音とともに鋼板が型に沿って変形した。
〈神聖帝国 帝都郊外 水晶宮殿 〉
「最強の国はどこ?」と、この世界の人々に聞くと、全ての人は必ず「帝国だ」と答える。
広大な国土と植民地、強大な軍事力、女神信仰を利用した皇帝への忠誠、そして優れた魔法技術。
今まで「個人の特技」程度だった魔法を、魔導学という学問へ進化させたことによって、帝国は他に類を見ない魔法文明を作り上げてきた。
そんな帝国の技術を他国に紹介するため、5年に一度開かれるのが帝国万国博覧会だ。
アシリア公国の軍官僚であるシュリンクは、部下と共に博覧会が開催されている水晶宮殿を訪れている。
「皆さんご覧ください。これが我が帝国の誇る最新兵器、魔粒子砲です。現在展示されているのは旧型で魔力供給に複数の魔道士が必要ですが、新型砲では魔石を用いることにより魔道士1人での運用が可能です! 」
宮殿の中央の一番目立つ場所に置かれた魔粒子砲に、多くの参列者は釘付けになっていた。
二本のミスリル製のレールを備えたSFチックな砲身。その間で魔粒子を加速して射出する帝国の最新魔導兵器である。
もし現代人が見たら「レールガンみたい」と思うような外見だ。
「最大射程は1000m。投石器やバリスタの射程を大きく上回るそうですよ」
シュリンクたちは、そのあまりの性能に驚いている。
「悔しいがさすがは帝国だ。我々アリシアとは技術レベルが違いすぎて、参考にもならんな」
シュリンクたちは、その後いくつもの展示を見て回った。
帝国に次ぐ列強国、ダマスカス王国やネーデルラント皇国のブースには、魔力によって強化された剣や鎧、貴重な高純度魔石をふんだんに使った魔杖、さらには城塞のミニチュアまで並べられている。
「それにしても剣に防具、魔杖、竜槍・・・・・・ どのブースも武器ばかりですね? 」
「年々魔族の侵攻の脅威が高まっているからだろう。5年前は宝飾品や特産品の展示も多かったのだがな」
そしてシュリンクは、近くにあった魔法剣に貼り付けられたタグを見つめる。
「オリハルコン魔法回路を組み込んだ火剣が大銀貨2000枚。我がアシリア勇者騎士団用にと思ったが高いな」
この博覧会では、単に各国の技術を披露するだけではない。
展示されている兵器や武具は、その場で商談し購入することができる。
シュリンクはいくつか目星をつけた兵器を記録させると、列強国の展示区画を離れた。
次に向かったのは、小国や商会などが出展している区画だった。
各ブースは小さいものの、商人たちが熱心に値段をチェックしたり、価格交渉を行なっている。
「ずいぶん雰囲気が変わりましたね」
「列強国の武器は高すぎて買えないが、小国の武器はそこそこの値段だからな。実際に武器を買うならここらがちょうどいい」
小国や各商会が出展する武器はさすがに列強と比べてしまうと劣るが、それでも各々の威信がかかっているので、一般の武器とは桁違いに高性能となっている。
そんなことを話しながら歩いていた時だった。
「・・・・・・ん?」
シュリンクが足を止める。
少し先に、周囲のブースとは明らかに違う人だかりができていた。
「失礼、すみません通してください」
シュリンクは首を傾げながら、人だかりをかき分けていく。
ブースの看板には「アトランティア商会」と書いてあり、紫の目をした亜人の青年スタッフが接客している。
「聞かない名の商会だな・・・・・・ 亜人が帝都で出展するのも珍しい」
そして人混みの隙間から見えた展示品を見て、シュリンクは思わず眉をひそめた。
そこに置かれていたのは一着の鉄製プレートアーマーだった。
(鉄製の鎧? 魔法もなくミスリル製でもないただの鉄だと?・・・・・・ )
帝国の魔粒子砲や列強の武器を見た直後だっただけに、シュリンクは拍子抜けしてしまう。
「やはり所詮亜人ですか」
蔑むようなことを言った部下を、シュリンクが注意する。
「そんなことを言ってはいかんな。この鎧も作りはしっかりしている。まぁ悪い品ではないだろう・・・・・・ 一応な・・・・・・ 」
とは言ったものの、さすがにただの鉄製の鎧ではシュリンクも完全に擁護できない。
(このアトランティア商会の鎧は、良くも悪くも騎士が着る普通の鎧。つまり、出展場所のレベルが亜人にとって高すぎただけ・・・・・・ )
すると、考えこむシュリンクの肩を、部下が慌ててゆすってきた。
「おっとすまん、考えごとをしていたな。で、どうした? 」
「シュリンクさん、これをみてください! 」
第15話 帝国博覧会 後編 は8月5日水曜日に投稿予定です。第16話からは第3章魔族大戦編に入ります。




