第14話 永久凍土の転生者
魔族はレムリア大陸東部を支配する民族であり、頭に山羊のような角を持つこと以外に人間との外見上の違いはない。商業は発展しておらず、魔王を頂点とした全体主義社会を形成している。
人類域から拉致した技術奴隷によって建設された魔王都デモングラート、その中央にそびえる巨大な魔族宮殿では、新魔王の即位に伴う会議が開かれていた。
〈帝歴1030年 魔王都デモングラート、魔族最高人民委員会〉
新魔王ウラジーミル・プガシヴィリに対し、トロスキー外務委員長は厳しい言葉で追求する。
「魔王様が掲げる人類殲滅政策は、先代魔王様が掲げていた人類との共存政策に反しています! 魔王様は、先代魔王エリーツェン様が急死されたことにより即位したいわば臨時の魔王。いくら魔王様と言えど、これ以上の独断は許せません! 」
トロスキーの意見に賛同する者も多い。
「つい先日、魔王プガシヴィリ様は農業委員部の予算を、勝手に軍部に流用した! どういうことか説明をお願いしたい! 」
しばらく沈黙を貫いていた魔王プガシヴィリは、静かに口を開いた。
「なるほど・・・・・・ 貴様らの言いたいことはわかった。ベリア内務委員長、後は任せる」
すると魔王の言葉を聞いて、メガネをかけた男が立ち上がった。
「内務委員長のベリアです。私が政治警察に調べさせた情報によりますと、先程発言したトロスキー外務委員長を始めとする方々は、神聖帝国から多額の贈り物を受け取っていたとのこと・・・・・・ 」
「何を言っている! 私はそんなことはしていない!」「我々を貶める気か!」
彼らは本当に無実だ。身の潔白を説明しようとトロスキーは慌てて反論した。
だが、ベリア内務委員長は不敵に微笑む。
「そんなに声を荒らげられると困りますなぁ。魔王様、彼らにはシベリノスクの豊かな自然で頭を冷やしてもらいましょうか。もちろん、ご家族もいっしょにどうぞ」
ベリアがそう言い終えると、魔族軍の兵士達が現れてトロスキー達の腕をがっしりと掴んだ。
「ま、魔王様、私は無実です! どうか弁解の機会を! 」
だが魔王プガシヴィリは嘲笑うように言い放つ。
「シベリノスクで半年後まで生きていたら、話を聞いてやろう。連れて行け」
魔王プガシヴィリを批判した者たちは兵士に引きずられ、扉の奥に姿を消した。
そして、残った者達だけで会議を再開する。
「魔王様、これで行政府にいた親人類・反改革分子の粛清は完了しました。女神などと言う空想を信じ、我々魔族を邪教徒と罵る人類と共存しようなど、祖国への裏切りに他なりませんからな」
「うむ、ご苦労。引き続き国内の反改革分子の粛清を続けるように。ではイスカンデル最高元帥、人類域への侵攻計画はどうなっているか? 」
「はい、現在ウラル訓練場でトロルなどの重怪異を、第112繁殖場を筆頭にオークやゴブリンなどの軽怪異の繁殖を開始しております。また、ウォルゴグラートの工房では武器・防具の生産を開始、戦士魔族の出産奨励も行っています。ただ、重怪異の繁殖や戦士魔族の人口拡大には、かなりの時間がかかるかと・・・・・・ 」
「魔族の命運がかかった計画だ。準備に長い時間がかかっても完璧に戦力を調えろ。それで、軍内部の粛清はどうなっている? 」
「申し訳ございません。下手に軍人を粛清すると戦力の低下を招きますので・・・・・・ あまり進んでは・・・・・・ 」
するとベリア内務委員長が手を挙げた。
「では誰か1人を見せしめに粛清しましょう。そうだ、先代魔王との関わりが深かったレビという娘がいいかと」
「たしか魔族唯一の転生者で、南方で1個旅団を指揮していたな。たしかに魔族・人類の共存の象徴だった彼女なら見せしめにちょうどいい」
「なら、強力な敵と戦わせて戦死させましょう。ちょうど人類域ネーデルラント皇国のカレリアという島に、帝国艦隊の基地が建設されたという情報が入ってきました。城塞も建築されていて、これを攻略させれば帝国の戦力を図ることができ一石二鳥です」
魔王プガシヴィリも満足そうにうなずく。
「なるほど、それで進めてくれ。だがもし、レビという娘が派兵を渋ったらどうする? 」
「断ったら命令拒否で処刑できます。まぁ、成功したら2階級昇進を約束してあげましょう」
2階級特進は本来、戦死した戦士への救済措置。
魔王プガシヴィリは再び不敵な笑みを浮かべた。
* * * *
〈人類、ネーデルラント皇国領 カレリア島 カレリア城〉
帝国は北方への勢力拡大を目指し、友好国である列強ネーデルラント皇国のカレリア島には帝国艦隊の一部が停泊している。
魔族軍1個旅団(5000人)規模が上陸したとの情報も入ったが、カレリア島には1万のネーデルラント守備兵がおり、強固な城塞もある。そのため魔族軍の全滅は時間の問題だと考えられていた。
そんな中、要塞の責任者でもあるカレリア島の領主の元に、帝国からやってきたという伝令兵が書簡を届けにやってきていた。
小柄な伝令兵は白い手で書簡を持つと、領主に向かって読み上げる。
「・・・・・・と帝国皇帝として貴殿の協力に感謝の意を申し上げる。その印として白パン9万斤とビール20樽を贈るなり。あ、パンとビールを積んだ馬車は、現在城外で待機しています」
「おお、この冬季に食料の支援はありがたい」
「それと、私がここに来る途中で魔族軍と思われる野営の煙を目撃しました。この城から10km西方です」
「わかった、要塞の守備兵を向かわせよう。それと疑うわけではないが、一応書簡が本物か確かめさせてくれ」
小柄な伝令兵は、領主に羊皮紙の書簡を手渡す。
「うむ、たしかに本物の帝国とネーデルラント皇王の紋章だ。今すぐ城門を開けるから、そこの暖炉で温まっててくれ」
〈カレリア城 城門〉
城門の衛兵が城門を開くと、馬車が10台程入城してきた。
「お、はるばる帝国からご苦労さん。今、荷を下ろすのを手伝うから待っていてくれ」
そう言って衛兵の1人が馬車に駆け寄る。だが衛兵を迎えたのはビールではなく、鉄の刃だった。
「び、ビールじゃねぇ! ま、魔族ぐ・・・・・・ グハァ! 」
突然、馬車からフェルトの鎧を纏った魔族兵士が飛び出し、門を制圧すると城内へ突入して行く。
その混乱は程なくして領主の所にも伝わった。カレリアの領主は窓に駆け寄って、その惨状を目の当たりにする。
「ま、マズイ、早く野営地の攻撃に向かった兵を呼び戻せ! 」
だが、周りにいるはずの部下からの返事はない。
「何をボケっとしている。早く指令を伝え・・・・・・ !!!!」
領主が振り返ると、そこには部下達の遺体が転がり、カーペットには生々しい赤いシミが広がっていた。
遺体の真ん中には、剣を持った先程の伝令兵が立っている。
「な、何者だ貴様! 」
伝令兵は静かに自らの兜を外す。すると、金と銀が混ざった艶やかな長髪がふわりと広がり、氷のような透明の青い瞳が露わになった。
伝令兵の正体は小柄な少女、側頭部には魔族の証である角が生えている。
「わらわはレビ・グスタフ・パーンツィリ。貴様らを倒しにきた転生者にして魔族じゃ! 」
レビと名乗った少女は、次の瞬間領主の首を斬り飛ばした。
* * * *
「レビ旅団長ー! ご無事ですか! 」
そう言ってレビ直属の部下であるシクヴァルが走り寄ってきた。
「おー、シクヴァル中尉か。わらわは健在だぞー」
「まあレビ旅団長のことですから、大丈夫だと思ってましたが。それにしても、どうやって領主を欺いたのですか? しかもお一人で」
「ふふふ、知りたいか? 秘密はこの書簡じゃ。この書簡とワシが着ている鎧は、本物の帝国の伝令兵から強奪したものでな」
「つまり書簡に偽情報を書いたと・・・・・・ 」
「いいや、わらわはこの書簡にいっさいの細工はしておらん」
「ではどうやって?」
「実はここカレリアの領主は文盲でな。書簡が読めん。そこで伝令兵のフリをしたわらわが代わりに読み上げたのじゃ。あること無いこと付け加えてな」
レビは楽しそうに語る。
「なるほど、文字が読めない領主は、紋章で書簡が本物かどうか判断する。書簡自体は本物なので、レビ旅団長のウソも本当のことだと錯覚してしまうわけですね」
あとは偽の魔族軍の情報で空っぽになった城に、馬車に隠れた兵士がトロイの木馬のように潜入したというわけだ。
「『兵は詭道なり』ってやつじゃ。やっぱり戦争はワクワクするな! 」
「いつも言っておられる孫子の兵法ですね」
「ああ、よく覚えてたな。それじゃあ守備兵が戻ってくる前に、大詰めと行くぞ! 眼下の港に停泊している帝国製最新鋭の魔走軍艦、全部ぶんどって持って帰るぞ! 」




