第13話 軍縮条約の抜け穴 前編
今週のみ水土の週二回投稿です。水曜日投稿の第12話「鉄は国家なり」をお読みでない方は、先に第12話をお読みください。
〈戦争終結から一週間後、大陸南部街道〉
ダマスカス王国へと伸びる街道を、一台の馬車が走っていた。
馬車の座席では、国王エスター、カイン、エレミアの3人が揺られている。
きっかけはダマスカス国王からの召還状だ。
ダマスカス王国はアトランティアの宗主国であり、断ることはできない。
「陛下、やはり国王からの呼び出しの理由は、先の戦争のことでしょうか? 」
カインはエスターに尋ねる。
「十中八九そうだろうな。父上は私にダマスカス王国への忠誠を改めて誓わせたいのだろう」
「父上?」
カインの戸惑う反応を見て、エスターとエレミアは顔を見合わせる。
「・・・・・・話していなかったかしら? 」
「初耳です・・・・・・ 」
「そうか、驚かせてすまなかった。隠しているつもりはなかったのだが、私はダマスカス国王の次男だ。だが安心してくれ、いざとなったら父上とも剣を交える覚悟でいる」
「そうだったのですか。話を遮ってしまい申し訳ありません」
(たしかに陛下の名前はエスター・エル・ダマスカス。思い返せば、僕が気づく機会はありましたね・・・・・・)
「なに、会談の前に知らせられてよかったよ。ついでにもう一つ確認だが、我々はあくまでもアトランティアではなくペリシア藩王国としておもむく。この意味がわかるか? 」
「ええ、あくまで我々はダマスカスに従順で、弱いフリを続けるということですね」
製鉄や大砲の製造が始まったとはいえ、まだまだアトランティアの国力や戦力は低い。たとえ逆らう気がなかったとしても、製鉄などの価値の高い産業が始まったと知られれば、権益確保のための軍事侵攻をされかねない。
逆に言えば弱くて価値のない国だからこそ、これまで植民地化されなかったのだ。
「もう一つ気になるのが、父上が召還状に『カインとエレミアも連れてくるように』と書いていたことだな・・・・・・ 。と、見えてきたぞ。あれがダマスカス王国の王都、マリアンヌ市だ」
ーーダマスカス王国。アトランティアの宗主国で、他にも亜人居住地域に数多くの植民地を築いている。
自力で魔法機械を製造できる数少ない国の一つであり、高い国力と軍事力により各国から列強と位置付けられていた。帝国の友好国でもあり、ダマスカス王族は帝国貴族の血を引くと言われている。
王都マリアンヌは円形の2重の城壁に囲まれた城塞都市だ。3人が乗った馬車は重厚な城門を抜けると、商店が並ぶ大通りを抜けていく。
エレミアは窓からキョロキョロと街の様子を見渡している。
「はー、さすが列強国なだけあって栄えてるわね」
都市の中心に位置する王宮に着くと、3人は小さな会議室へと通された。
小さい部屋とは言ってもさすがは列強国。会議室はベルサイユ宮殿を思わせる豪華な作りで、壁は鮮やかなタペストリーと金箔を散りばめた大理石で彩られている。
富と王政の権力を誇示する内装に、3人は思わず息を呑んだ。
3人はソファに腰掛けて国王の登場を今か今かと待っている。
すると扉が開き、豪華なマントを羽織ったハイエルフに続いて、貴族のような若者数人が入室してきた。
「彼が国王。まだ若いように見えますね」
カインは小声で呟く。
だが、入ってきた男を見るなりエスターは表情を曇らせた。
「いや、違う。彼は私の兄、この国の王太子だ」
ハイエルフの男は席につくなり口を開いた。
「そこの亜人2人。名を名乗れ」
「エスター陛下の臣下、カイン・ヴァレ・シュラプネル」「同じくエレミア・セイレーン」
男は2人をまじまじと観察する。
「まだガキか。我はサムソン・エル・ダマスカス。ダマスカスの王太子にして次期国王だ」
「兄上、今回は国王である父上との会談だと聞いていたのですが?」
「次期国王の我では不満か? まあ久しぶりの兄弟の再開、ゆっくり話そうじゃないか」
エスターは戸惑いながらも、王太子サムソンの話を聞く。
「つい1週間前、お前はそこの勇者2人を使って国内の領主を全員倒し、処刑したそうだな? 」
「はい」
それを聞いたサムソンは、立ち上がって言い放つ。
「それは領主達が我の協力者だと知っていての行いか?」
カインは驚きのあまり一瞬固まった。だがエスターはなんとなく察していたのか、怒りを抑えて冷静に答える。
「領主達が兄上と親しいとは知りませんでした。知っていれば他の対応ができたと思うと残念です」
だがエスターの冷静な物言いが、逆にサムソンの気に触ったようだ。
「残念? 本当は我の力を削ぐため、知っていながら倒したのではないか! お前はダマスカスの王位を狙っているのではないか! 」
「そんなことはありません! 長男である兄上が王位を継ぐのは当然です」
「おやじが我を嫌っているのは有名な話。姑息なダークエルフのお前なら考えそうなことだ」
「まさかそんな事は」
「たとえお前が我と領主の関係を知らなかったとしても、実際に我は領主からの送金がなくなるという損失を負ったのだ。どう落とし前をつけさせようか・・・・・・ 」
そしてサムソンはとんでもない事を言い放つ。
「お前に本当に逆らう意思がないのなら、領主が持っていたペリシアの土地を我に譲り渡せ。まさか属国風情が断るつもりではないだろうな? 」
「兄上! それはあんまりです!」
サムソンは意地の悪い笑みを浮かべた。
下手に反論すると議論がヒートアップする危険があるため、本来なら適当に受け流すべきだろう。だが、さすがに領土割譲は受け流せない。
カインはエスターの代わりに前に進み出た。
「お言葉ですがサムソン殿下、ペリシア藩王国としては領土割譲を認められません」
「キサマらは属国だ。断る権利はないぞ」
「属国だからこそ断ります」
そう言ってカインは一枚の紙をテーブルに置いた。
「これは?」
「ペリシアが属国となった時にダマスカスと結んだ条約文の写しです。そもそも属国とは宗主国に、外交権、軍事権などを支配された国のことです」
カインはひと呼吸置いて続ける。
「この条約では、ダマスカスへの上納金の支払い、外交権の剥奪の代わりにペリシアには警察権、徴税権、行政権、最低限の自衛力が認められています。さらにダマスカスはペリシアの領土を保護すると記載されています。
つまり、サムソン殿下の領土割譲と領主への支援は、条約違反であり了承できません」
「ならばその条約は、王太子である我が破棄する!」
「条約の決定と変更は国王の特権。王太子であるサムソン殿下が変更することはできませんよ」
「下等な亜人風情がハイエルフたる我に向かって、よくもそんな口が聞けるな! 」
「亜人でもハイエルフでも関係ありません。これは法の問題です」
サムソンは言葉に詰まってワナワナと震えている。
だがすぐに顔を上げて勝ち誇ったように言い放つ。
「わかった。ならば戦争だ! 」
「はぁ!?」
さずがのカインもこれには狼狽える。
(なんて奴なんだ。普通はもっと段階を踏むところでしょう・・・・・・ )
「我に逆らうとどうなるかわかったか。今更後悔してももう遅いぞ! 総勢2万人のダマスカス軍が侵攻するのだ。ワイバーンで空から焼き払い、幾千の騎兵で国土を蹂躙し、港を軍船で封鎖して飢えさせてやる! ははははは!!! 」
サムソンがそう言った瞬間、会議室の扉が勢いよく開かれた。
「なにを勝手に決めておるか!!!」
そんな怒号が響き渡り、白髪混じりの男がゆっくりと入ってきた。
「ち、父上!! 」
カインは男から放たれる威厳に思わず後退りする。
(この人がダマスカス王・・・・・・ アトランティアの敵でエスター陛下の父君か・・・・・・ )
第13話 軍縮条約の抜け穴 後編の投稿は7月22日水曜日を予定しています。




