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第11話 亜人国家誕生


 領主との戦いに勝利した国王エスター率いる亜人陣営は、新たな政権を立ち上げ、次々と新たな政策を推進し始めていった。


 まず最初に行ったのは、農村の貧困や都市部の饑餓に対する経済政策だった。国外への小麦の饑餓輸出を中止し、没収した領主の資産を用いて政府が適正価格で農民から小麦を購入。そして購入した小麦を都市部で配給することにより、都市部の食料不足は改善の(きざ)しが見え始めた。


 同時にハイファ市では逮捕された領主の公開裁判が行われ、民衆は圧倒的多数で有罪を下し、即日で公開処刑が執行された。裁判には数千人の市民が詰めかけ、領主への罵声と共に、迅速(じんそく)な対応を行った新政府を支持する声が響き渡った。

 

 軍事面では、一時的な編成だった義勇兵の解散が検討されていたが、多くの義勇兵が自ら残留を希望。それを受けて近衛部隊と義勇兵が統合されて、新たに常設となる国防軍が組織された。

 国防軍は現在進行形で領主時代に放置されていた山賊やゴブリンの掃討を行い、これも民衆からの支持を集める結果となる。




〈ーーそして戦争終結から2日後、旧領主バラム邸前〉


 街を見渡す丘の上には木製の簡易舞台が設置され、万を超えるほどの群衆が「その時」を今か今かと待ち望んでいる。他の町や農村からやって来た者も多くいて、彼らの期待の大きさが見て取れる。



 「ああ、もうこんなに服を汚しちゃって、いったい何やったらこんなに真っ黒になるのよ」


 掃討から戻って来たばかりのエレミアは、そう言ってカインに新しい上着を押し付ける。


 「はは、すみません。まぁイルーマさんと色々と・・・・・・ 」


 「ほら、裏で何やってるか知らないけど、早く行くわよ。あんたが提案したんだから、主役じゃなくても出席しないと」


 すでに他の亜人陣営のメンバーは登壇を開始し始めている。エレミアはカインの手を引いて舞台に駆けていった。


 そしてダークエルフ出身の国王エスターが、民衆に手を振りながら登壇した。正装を纏ったエスターからは若いながらも、確かな威厳を漂わせている


 「親愛なる国民の皆様、まずは長い間領主の横暴を止められなかったことをお詫びしたい」


 エスターは深々と頭を下げた。


 「我々亜人は現在苦境の真っ只中にいます。我々の目の前に広がるアトラス海周辺には、古来より多くの亜人が暮らしていました。だが今はその全てが神聖帝国やダマスカス王国を筆頭とする列強国により、植民地や属領と成り果て、唯一国の格式を保っているここペリシアも所詮(しょせん)はダマスカス王国の属国でしかありません。現在、我々亜人は武力、技術力、経済力、その全てでヒト種に劣っている」


 今の現状を改めて思い知らされ、会場には重苦しい雰囲気が漂う。


 「だが、我々亜人が常にヒト種国家に劣っていたわけではありません。300年前、アトランティア連合共和国と言う亜人の国がアトラス海に生まれました。昔話でその名を知っている方も多いでしょう。アトランティアはアトラス海の島々と大陸南部の湾岸部を支配下に置き、海上交易によって栄え、数多の都市を築いた。そして共和主義を掲げ様々な種族が共に暮らしていた。今のダマスカス王国を超え、帝国に迫る大国でした。だが100年前、その繁栄を妬んだ帝国が不可侵条約を破ってアトランティアを奇襲し、その結果旧アトランティアは帝国の植民地になりました」


 そしてエスターは改めて民衆に向き直る。


 「私は亜人は亜人であることを誇るべきだと思う。だからこそ私エスター・エル・ダマスカス改め、エスター・エル・アトランティアは、亜人国家「新生アトランティア王国」の建国を今ここに宣言する! そしてこの国をダマスカス王国の支配から解放し、亜人の亜人による亜人のための新たな民主主義国家を築くことを誓おう! 」


 「「「「おぉぉぉーーー!!!!」」」」


 エスターは拳を突き上げ、群衆からは溢れんばかりの大歓声と拍手が浴びせられた。


 続けてエスターはその場で1年以内の国民議会の設置、国王を選ぶ国民信任投票の開催、国民学校の創設を提案。

 当然民衆はこれらを支持し、新国家アトランティア王国は国民の信頼を得ることとなった。


 

 

 〈ペリシア藩王国改めアトランティア王国王宮、会議室〉


 アトランティア王国の建国が宣言されてから初めての会議が開かれた。

 領主と君主からなる封建制度が廃止され、亜人陣営メンバーから新たに選ばれた大臣達が出席している。


 「陛下、素晴らしい演説でした」


 「ありがとう。ただ、いざ振り返ってみると、少々熱くなりすぎたかもしれないな」


 「いえいえ、心に響く良い演説でした。特に『亜人の亜人による亜人のための国』は素晴らしかったですぞ」


 「いや、実はその言葉はカインが考えた物なんだ」


 「おぉ、彼でしたか」「さすがですな」


 皆の視線はカインに集中するが、当のカインは苦笑いしていた。


 (言えない・・・・・・ ただリンカーンの名言を丸パクリしただけなんて・・・・・・ )


 そんなカインの気持ちを知ってか知らずか、話題はすぐに財政の話に入って言った。


 「では、ロス・チャールド通商大臣。今の財政と今後の計画はどうなっている? 」


 「没収した領主の資産のほとんどは貧困・饑餓対策、教育に回してしまったため、財源には限りがあります。元々領主が国民から奪い取った金なのである意味仕方ないですね。経済政策では、ハイファ港の利用料を無償化し、商業を活性化させることでの間接的な税収増加をもたらすことを検討しています」


 「わかった、その案はそのまま進めてくれ。ではカイン・ヴァレ・シュラプネル国防軍主席顧問、前に私に話してくれた計画を発表してくれるか」


 「はい、これが私が提案する第1次5カ年計画の草案です」


 会議室の壁いっぱいに何枚もの資料が貼られていく、こうすることで全員に資料を配るに比べて貴重な紙を節約できるのだ。


 「ごかねんけいかく? 初めて聞く言葉だな」


 「その名の通り、政府が5年間で達成するべき軍事、工業、経済などの国家目標をまとめた物です。ご存知の通り今のアトランティアが使える資源は限られているため、優先分野を明確にして国家主導で資源を集中させることで、急速な経済成長が期待できます」


 元々5カ年計画は、前世ソ連の指導者スターリンが始めた計画経済だ。最初こそ成功したものの、やはり5年先の未来の発展を予測するのは無理があり、結局は失敗に終わった。

 だが、カインは前世の記憶を持っている。そのため19世紀と20世紀の歴史を参考にして詳細な計画が立てられるのだ。


 「まずは軍事面から。結論から言うと我々は5年以内に志願制と徴兵制を併用し、戦時に1万人を動員可能な常備軍を編成します」


 「い、1万人ですと! 」


 現在のアトランティア国防軍の兵力は300人、いきなり33倍の目標と聞かされ驚くのも無理はない。


 「ちょっとカイン! あんた正気なの? 」


 隣に座っていたエレミアも驚きを隠せていない。


 「ええ、それを可能にしたのが、先ほどエスター陛下が宣言した民主主義。そして国民主権です」


 「国民主権って国民の権利優先ってことでしょ。徴兵なんか言ったら反対されないの? 」


 「実は逆なんです。国民主権では国家は国民の物。視点を変えれば国民は自分の所有物である国を守る義務があるんです」


 現在アトランティア王国の人口は40万人。先ほどの解釈を適応して男子に対して徴兵制と国民皆兵を行えば、1万人は不可能な数字ではない。

 だがエレミアは不満そうだ。


 「なんかこっちが騙しているみたいで、いい気がしないわね」


 「もちろん、必要以上に拡大解釈する意図はありませんし、1万人は予備役を(ふく)めての数字なので、国民に負担はそれほどかかりませんよ」


 「ならいいけど」


 すると他の参加者達からも質問が投げかけられる。


 「理論上1万人の編成が可能なのはわかった。だがその資金はどうするのかね。兵隊の食事代だけで大きな負担だが? 」


 「資金については製鉄場と製鋼所を建設し、製造した鉄の販売により賄う予定です」


 ドイツ宰相ビスマルクの「鉄は国家なり」と言う格言が示すように、鉄は国家建設には必要な資源だ。

 その重要性は中世でも異世界でも変わらない。銃を作るにも工具を作るにも近代国家を作る上で鉄は絶対に必要な資源なのだ。


 幸いアトラス海周辺は鉱物資源が豊かで鉄鉱石も産出される。製鉄を始めるのは自然な選択だ。


 すると通商大臣ロスが慌ててカインの発言をさえぎった。


 「すまないがカイン君。私としては製鉄事業は絶対に容認できない! 」



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