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第10話 騎士の栄光 後編 

この話は後編です。前編をまだお読みになっていない方はご注意ください。


 「全軍、突撃準備! 自らを騎士と(ほこ)る者は我に続け! 」


 突然のフランベルの言葉に、領主達は困惑して顔を見合わせる。


 「フランベル卿、本当に戦うつもりなのですか」


 「無論だ」


 「一度引いて軍を立て直しましょう。あの方からの援軍があれば確実に勝てます」


  領主達はフランベルを引き止めようと必死に説得した。

  だが、フランベルは領主達の装備を指差して言い放つ。


 「我々が着ている鎧は飾りではない! 我々が持っている騎兵槍(ランス)は敵を(つらぬ)くためにあるのだ!」


 「な、何を言って・・・・・・ 」


 「騎士とは君主を守る者であり、間違っても君主に守られる者ではないのだ! 嫌なら帰ってもらってもかまわん、(こころざし)ある者だけ続いて欲しい」


 フランベルの言葉を聞いた北部領主軍は静まりかえる。そんな中、彼の息子フランクが名乗りをあげた。


 「父上、私もお供します。私も騎士の1人ですから」


 フランクが名乗りを挙げたことで一気に流れが変わった。1騎、また1騎とフランベルに続くように整列してゆく。

 もちろん領主全員が名乗りを挙げたわけではなかったが、それでも50騎の内44騎が戦列に加わったのだ。


 フランベルはぐるりと辺りを見渡すと、堂々とした声で言い放った。


 「全軍常速、密集横隊を組め! 亜人共に栄光ある騎士の戦いを見せつけるのだ!」


 各騎馬は横一列に並ぶと、ゆっくりと加速を開始する。

 見ればペリシア藩王国軍も即座に反応し、歩兵方陣を組んで迎撃の準備を整えていた。


 ペリシア藩王国軍が前進したとはいえ、元々後方にいた領主達との距離は数100m残っている。かなり距離が離れているように見えるが、重い重装騎兵の加速度を考えるとこれでもギリギリの距離だ。


 密集した騎馬はまるで一つの生き物かのように、楔形に隊形を変えてゆく。

 隣の騎馬同士の間隔は10cm程、お互いの騎士の鎧がぶつかり合ってガチャガチャと金属音を立てていた。


 土煙を上げながら馬はどんどん加速し、両軍の距離は一気に200mまで縮まる。


 雷鳴のような馬蹄が戦場に響きわたり、ヘルメットのスリットからは鋭い風が吹き込んでくる。


 「ハハハ、素晴らしいぞ! この一体感、この疾走感! 我らこそ真の騎士だ!」


 アドレナリンで飽和したフランベルの脳裏には、もはや恐怖の感情の一つもない。



 *  *  *  *



 〈ペリシア藩王国軍 歩兵方陣〉


 「敵騎兵なおも接近中! 距離200m、速度40km! 」


 重装騎兵達は鋭い騎兵槍を一直線に突き出していて、鎧が日光を浴びて輝く様子はまるで津波のようだ。


 正方形の方陣の外側では、膝をついた近衛兵がハリネズミのように長槍を四方に突き出し、接近する敵を拒絶している。そして、槍の壁の内側には火縄銃兵が整列し、近衛兵の肩越しに銃の狙いを定めていた。


 「ギリギリまで引きつけろ! いいか、合図があるまで発砲は禁止だ! 」


 火縄銃の装填時間は40秒であり、恐怖に負けて遠くから撃ってしまえば、高速で接近する騎兵に対して再装填は間に合わない。

 逆に近すぎると、撃った敵が倒れる前に慣性で突っ込んできてしまう。

 タイミングを少しでも誤れば全滅だ。


 兵士達の顔には冷や汗がにじみ、膝はガクガクと震えてしまっている。


 重装騎兵の真の恐ろしさは、その速度と重量だ。

 装甲と騎士を乗せた馬の重量は800kgと自動車に匹敵し、その運動エネルギーを巨大な騎兵槍の先端のただ一点に集中させて突撃してくる。まさに、触れるだけで吹き飛ばされると言うわけだ。


 さらに騎士が跨った重装騎兵の全高は3m近くあり、ペリシア藩王国軍の歩兵達はちょうど上から見下ろされる体勢になる。

 敵が近づく中、攻撃することも逃げることもできない状況で、兵士達が恐怖を感じないわけがない。




 ついに両軍の距離は50mまで近づき、騎士達は大声でバトルクライを叫びながら愛馬を最大まで加速させる。


 「全騎襲歩! Montjoie Saint Denis! (守護天使よ、我らの王を守りたまえ!) 」


 この時フランベルは勝利を確信していた。フランベルだけではない、全ての騎士達がこの恐ろしい集団の衝撃に抗しうる者などいないと信じていたのだ。


 そしてそのまま騎士達は、ペリシア兵の瞳が見える位置まで肉薄する。


 だが次の瞬間、戦場に強烈な発砲音が響き渡った。

 ペリシア藩王国兵が放った弾丸は、まるで一つの塊のように騎士の隊列に衝突する。


 弾丸で体を貫かれる者、馬を殺されて地面に叩きつけられる者、倒れた味方の死体で転倒する者もいる。

 さらに不運なことに北部領主軍の軍馬達は火薬の轟音でパニックを起こしてしまっていた。もう隊列を維持することもできない。


 フランベルの愛馬にも鉛玉が襲いかかり、フランベル自身も空中に投げ出された。そして彼の視界で天と地がグルグルと回った後、フランベルの意識はあっけなく途切れる。


 戦場に44騎分の死体を残して北部領主軍は壊滅し、一帯にはペリシア藩王国兵の歓声が響き渡る。一足先に逃げ出した領主もエレミア率いる追撃部隊に捕縛された。


 



 



第1章を最後までお読みいただきありがとうございます。

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