悪魔と契約しました。
あれ、ここは?
意識が覚醒し、自身に起こったことを思い出す。
たしか、俺は信号無視の車に轢かれ死んだんだ、と……我ながらあっけない最後だったと思うが、起きてしまったことは仕方がないし、何より自分は死んでしまった。
(そう、俺は死んだはずなのに……なんでこんな真っ暗な空間にいるんだ)
死んでしまった者がどこへ行くかは死んだ者以外は誰も知らない。生きていた頃は死んだ者はその後どうなるのだろう、どこへ行くのだろうと興味を持ったこともある。天国か地獄が存在するのならそこへ行くのではないか、だから俺もそのどちらかに行くのではないかと思ったのだが。
(明らかに天国ではないな。じゃあ、もしかして俺は、地獄に来てしまったのか!? )
先程も言った通り、俺が今存在しているこの空間は真っ暗で何もない。
誰かいないのか、何か触れられる物はないか辺りを探してみたが、残念なことにひと一人見当たらず、もっと残念なことに俺は動かせる手足がない。
正確に伝えると人間の形をしていない、鏡を見て確認したわけではないが、顔や胴体、手足、何一つあるという感覚がない。
(さっきから異様な浮遊感。もしかして俺、魂だけの存在になってる?)
今の自分の姿かたちを確認したいが、この真っ暗な空間に鏡や自分を確認するための便利な道具はない。
(おい、貴様)
ん?何か聞こえたか?
でもこんなただ真っ暗な空間に誰かいるわけもないと、ただの空耳かと判断しこのありえない状況を理解しようとごちゃごちゃになった頭の中を整理する。
(おい、おい!貴様この俺を無視するとは……いい度胸だな)
なんだようるさいな。
俺は今自分が置かれているこの状況を理解することで忙しいのだ。
それに、ただの空耳かと思っていたのだが随分とはっきり聞こえてくるものだ。
(おい!!)
(ああーーー!もう! うるさいな!!今こっちは忙しい……)
あまりにもしつこいその声に我慢ならず振り向き、俺は驚愕する。
(……え?)
(ふむ。やっとこちらを見たか……
久方ぶりに誰かと話せると思い呼んでおったのに)
俺の目に映るその声の正体。
姿は人の形をしている……だが頭の脇には二本の角、背中には悪魔のような翼が生えて見える。
どう考えても今俺の目の前にいるこいつは人間じゃない。
目の前のこいつから滲み出る禍々しいオーラが俺の思考を鈍らせる。
震えが止まらない、こいつはこの世に存在していいものじゃない。
(……て、おい貴様! 聞いているのか!?)
(は、はい!! )
(むう……なにもそんなに怖がらなくても)
無理言うなこの馬鹿め。
気付いているのかわからないがこいつから放たれるオーラがさっきから針のように俺の肌に伝わってきて痛い。
(あ、あのあなたは誰ですか? 申し訳ないんですけど、ここがどこか自分が今どの状況なのかもわからないんですよ……)
覚悟を決めて聞いてみる。
俺はどうしてここに来たか、その経緯を目の前の悪魔?に話した。
*
(ふうん、なるほど。 つまり貴様は異世界から来たと言うのだな?)
(あれ? あまり驚かないんですね)
(ふふふ、転生者は貴様以外にもいる、今更驚かぬよ。 しかし、貴様はどうやら肉体を持たぬまま転生したようだな)
(普通は肉体を持って転生するんですか?)
この悪魔"ヴァルハラ"が言うには、転生者は俺以外にも存在しているらしく、その中にはこの世界を救う者や支配する者を誕生させるための儀式が行われていると言っていた。
俺のように肉体を持たない転生者は珍しく、ほかの転生者は皆肉体を持ち、この世界に生まれた時に授かる贈り物。【ギフト】という能力が与えられ、そのギフトがどういうものかは人それぞれらしい。
(なるほど……だいたいの話は理解しました。えっと、つかぬことを聞きますが、ヴァルハラさんは何故ここに?)
(よく聞いてくれた!! 実はな、昔世界征服をしようと人間どもの国を襲ったのだ。そしたらなんと! 返り討ちにあってしまいこの空間に封印されてしまったのだ! )
(……つまり、封印されてからずっとここにいたと?)
(うむ!かれこれ千年はここにいるな)
せ、千年……桁外れな数字を聞き俺は驚きを隠せない。
しかしこの悪魔結構いいやつなんじゃね?と思わせるぐらい俺の話を聞いてくれる。
さっきから俺の世界の話など少年のように目を輝かせている。
(えっと、じゃあヴァルハラさんはこの空間から出られないんですか?)
(いや、出られるぞ?そもそもこんな封印解くの、俺であれば造作もないことだ!)
(……じゃあなんで千年もここに?)
(俺の魔力は普通の人間にもわかるぐらい強大でな。この空間から出てしまえば、俺の封印が解けたことを自分から言ってしまうようなものだからな)
なるほど、ヴァルハラが言いたいことはわかった。
封印を解いてこの空間から出てしまえば、世界でヴァルハラが復活したことはすぐ知れ渡る。つまり、また封印しようと動く国が出てきてしまうということか。
(あ!いいことを思いついたぞ!)
(……一応聞きます)
(むう、貴様慣れてきて俺の扱い軽くない?)
(そんなことないです。早く話してください)
(……まあいいだろう。貴様、俺と一緒にこの空間を出ないか?)
ヴァルハラが思いついたいいこととは、用意してくれた依り代に俺が入り、その依り代に入った俺の体の中に入ってこの空間を出ると言ってきた。
俺の体の中に入る理由は、ヴァルハラが世界に出たらまた大騒ぎになることは間違いない。しかし、精神体となり俺の中に入れば魔力は抑えられ封印が解けたこともバレることはないそうだ。
なんとも都合がいい感じだが、魂だけとなった俺のために依り代になる体を作ってくれることは感謝しなきゃいけないな。
しかし……
(なんで俺の依り代が女なんだよ!?)
(うるさいぞ! 男の体の中に入るなんて俺は嫌だ!それに、貴様のために用意してやったのだ。つまらぬことで騒ぐんじゃない!)
このくそ悪魔め。
ヴァルハラが用意した依り代を見て俺は目を疑った。
なんでかって?……だってこいつが用意した依り代女の子なんだもん。
見た目は、まあかわいい。多分十四、五歳の女の子だろう。しかし見たところ人間ではないよな?だってヴァルハラと一緒の角と翼が生えている。
ヴァルハラはこの女の姿が嫌ならこの空間から出してあげないと抜かすのだ。
(はあ、わかった。ありがたくこの依り代の中に入るよ)
(おお!俺は精神体として貴様の中に入るが、何か困ったことがあるなら呼ぶといい!)
(そういえば、この空間はどうやって出るんだ?)
(ああ、そうだったな。大事なことを話忘れていた)
*
(……は? ちょっと待て、それはチートすぎんだろ!?)
ヴァルハラが作ってくれたこの依り代。
とてつもない性能となっているらしい。何がと思うだろうが、この依り代どうやらヴァルハラの能力を引き継いでいる。つまり俺もヴァルハラと同じ能力を使える、俺だけでこの空間からも出れるということだ。
(ははははは!この俺様が作ったのだからな、それぐらい当たり前だ!)
(うん、なんかお前が封印された理由がわかった気がするよ)
(……さて、そろそろこの空間から出るとするか。貴様には感謝するぞ)
(な、なんだよ……急にかしこまるなよ、調子狂うなあ)
ほんとこの悪魔は調子が狂う。しかし依り代まで用意してもらってしまったが、こいつ本当にいい奴なのではないか?
前世では親友と呼べる者はいなかった。気を許せる人なんて家族ぐらいだったし、過去にいじめられていたこともあった。
だがこの悪魔と喋るとなぜか心の底から笑わずにはいられなかった。
*
(うん、なかなか動きやすいなこの体)
俺はヴァルハラにお礼を言われたあと依り代の中に入った。
まさか自分が女になるとは思わなかったが、意外と快適であることにびっくりした。
(そうだ、外に出る前にこのリングをつけておけ。これは貴様の魔力が外に漏れることを防ぐアイテムだ)
依り代の中に入った俺にヴァルハラは銀色で外の中心には赤色の石が埋め込まれているリングを渡してきた。
(これをつければ貴様が外に出ても魔物とバレることはないだろう。その角と羽は収納できるしな)
(え、じゃあお前がつければよくね?)
(嫌だ!俺の顔はどうせバレてるのだ。魔力を抑えてもいつかはバレる)
なるほどな。だからそこで俺の協力が必要なわけか。
(わかった。色々とありがとうな、助かるよ)
(ふふっお礼を言うのはまだ早い。貴様にはやってもらうことがあるのだからな)
ーーは?




