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目の前にいる男性の名は赤城北斗さんという人で、私と同じIT関係のお仕事をしているらしい。
赤城さんと呼んでいたら、名字は好きじゃないから名前で呼んで欲しいと言われ、今は北斗さんと呼ばせてもらっている。
お酒の勢いもあってか、話が盛り上がり、時間は何時の間にか朝の2時になっていた。深夜のせいかなんだか少し眠気も出て来たようだ。
「北斗さんと話すの楽し〜!もっとお話ししたい〜!」
この楽しい時間が終わらないように、飲むことで意識を保とうとした私は、何時の間にか店の奥で別のお客さんと話をしている巧ちゃんに向かって大声で注文をしていたようだ。
ほとんどの客が驚いたのかこちらを振り返っているのが目に入ったが、中でもぎょっとした顔をした巧ちゃんは急いで私の方に駆けてきた。
「聖恵ちゃん、急に大きな声出すからビックリしたよ。もう大分酔っ払ってるね?今日はお酒その辺りにしておきなよ。明日が大変だよ?」
巧ちゃんは始めは少し心配そうに私を説得してきたのだが、それでも今日は飲みたい気分なの。いいから早く頂戴と私が強めに言えば、巧ちゃんも対抗するように頑固になっていき、終いには今お冷持ってくるから待っててと背を向けて厨房へ戻ってしまった。
「も〜ビールがいいのに!巧ちゃんてば!ん⁈北斗さんビールは?」
つい隣に座っている北斗さんのジョッキを見るといつから空だったのか、今は何も入っていないようだ。
(もしかして、私と巧ちゃんが結構長くやりあってたから…注文したくても出来かったのかな?)
巧ちゃんに聞こえるように、また大声で注文しようとしたら、急に北斗さんに手を取られた。
「でも聖恵さん、そろそろお酒じゃなくてお茶にしませんか?」
相変わらずニコニコした北斗さんも、私が酔っていると判断したのかお茶を勧めてきた。
「えー。でも、まぁ北斗さんが勧めるなら…。」
北斗さんが巧ちゃんに、やっぱりお茶でと注文すると、巧ちゃんは私の顔を心配そうに見ながらお茶を持ってきてくれた。
私は熱いお茶を渋々受け取りながら、つい北斗さんを見て酔っていたからか、思っていた本音を呟いてしまった。
「でも北斗さんって絶対ITだけで仕事するの、勿体無い気がする。凄くカッコいいから、モデルとか、他にもやりたいことがあったら出来ちゃいそうだもん」
ずずずずと熱いお茶を頬張りながら、ふーとため息を吐いて北斗さんを見れば、北斗さんはそんなことはないと苦笑した。
「それに、俺は今やりたいことなんてそこまでないですし。逆に、聖恵さんは無いんですか?俺よりも聖恵さんの方がいろんな夢がありそう。」
「私の夢ですか〜?」
夢かぁ〜と、私が少し考えこんでいると、気づけば北斗さんは私の額にくっ付きそうなくらいの近い距離にいて、私は何故か瞳を見ることができなかった。
「ほ、北斗さん!」
私が気恥ずかしさにそっぽを向こうとすると、北斗さんは逃がさないというように私の頬に触れてくる。
「そう、例えば大富豪になりたいとか、永遠に美しくいたいとか」
そう言って今度は私の瞳を北斗さんは甘い瞳で見つめてきた。その瞳はまるで映した人を捕らえるようで、何故か私は目を反らせなくなってしまう。
それに、なんだかアレ?北斗さんの瞳が赤い?なんだか瞳を見つめていたら、クラクラと眩暈もしてきた。これがイケメン効果なのだろうか?
「さぁ、素直に言ってごらん、聖恵の夢は俺が何でも叶えてあげる。」
そうして甘い言葉を呟く北斗さんは、まるでお伽話で出てくる、なんでも願いを叶えてくれる魔法使いのようで…。
ボンヤリした意識の中、私は言われるままに、自分の願望を口にしようとした。
「わたし、私の夢は…」
でも何故かこの時、頭の片隅でチリンと鈴の音が聞こえた気がして、私の朦朧としていた意識は、瞬時に酔いが覚めたようにハッキリした。そして無意識の内に身体も北斗さんの胸を強く押し返していた。
「アレ?」
北斗さんはその反応に少し驚きと困った顔をした気がしたが、改めてこの距離の近さに戸惑った私は、顔を真っ赤にさせてしまう。
「もーこの距離恥ずかしいですよぉ。それにな、…なんですか〜⁉ほ、北斗さんが魔法使いみたいなこと言うなんて、ちょっと意外!」
恥ずかしくなった様を隠そうとケラケラと笑った私は、それにイケメンさんは近すぎると目に毒です!なんて北斗さんに調子のいい事を呟いて、再びお茶を啜った。
「聖恵さんは、俺の瞳をみても大丈夫なんだ…」
北斗さんがその時小声で何かを呟いた気がしたが、私は上手く聞き取ることが出来ず、ニコニコしながら北斗さんに微笑んだ。
北斗さんもそれを見てか微笑みを返してくれたが、それを最後に私の意識はそこで途絶えてしまう。
勿論、眠りに落ちる寸前に私が北斗さんを見ながら「あ〜!彼氏欲しい!」と呟いたことやそれを聞いた北斗さんが、その長く美しい指で私の唇にそっと触れていたことは憶えている筈もなく。
「へぇ〜彼氏ねぇ。」
その時、薄れた意識の片隅で赤い瞳を煌めかせた誰かが意地悪く笑った気がした。




