第7話:届かぬ身分2
レイモンド 6 歳、オレリア5歳の頃。
レイモンドの初恋について
父に連れられて出席した、ある貴族の結婚式で、幼い頃のオレリアとレイモンドは出会った。
レイモンドの父は、結婚式が執り行われる教会についた途端、顔なじみのお得意様への挨拶まわりに行ってしまった。
商会の後継者でもないレイモンドには、難しい話は回って来ないので、四六時中父の後ろを着いて回る必要はない。
しかしながら、眩しい太陽の光を浴びた砂浜のような、少し癖のあるハニーゴールドの明るい金髪。
そして、突き抜けるように鮮やかで、知性を感じさせる涼しげなアクアマリンブルーの瞳を持つ美少年は、そこにいるだけで自然と衆目を集める。
ご贔屓になってくれそうな貴族を見つけた父に呼ばれた時だけ、明るく元気に挨拶をして店に遊びに来て頂けるよう宣伝すれば、店のマスコットとしての仕事は上出来である。
開場したばかりでまだその役も回ってこないため、暇を持て余したレイモンドはウェルカムドリンクを受け取って、結婚式前の時間を潰すために教会裏にある庭に移動することにした。
拡大する商会の次男として生まれたレイモンドは、将来的に家業を手伝うために日々様々な教育を受け始めたばかりだが、本人の強い好奇心もあってその成長は目覚ましい。
勉学は長男を凌ぐほど優秀で、商会が展開する店に連れていけば、常連の貴族夫人たちに可愛がられているうちに、自然と高額商品を購入させるほどの商売上手だ。
芸術的な感性や感受性も豊かで、その方面での才覚は、努力というより持って生まれた才能が大きいと言わざるを得ない。
そのせいもあって、父親はこういった社交の場には、生真面目で口下手の長男よりも、コミュニケーション上手で可愛らしいマスコットにもなるレイモンドを連れて歩くことが多かった。
両親からは期待の言葉を掛けられることも多いけれど、レイモンドは自分を器用貧乏な質だと思っており、何でもできる割に何にも執着することができない飽きっぽさを、幼いながらに持て余していた。
そんなレイモンドにも、唯一気を抜いて過ごせる時間があった。
一族からは平民の中で商魂逞しく生き残ることを望まれているが、レイモンドはその実、女性的感性が豊かで、きれいなもの、美しいものを見るのが大好きだ。
この海辺の街は、街全体も綺麗なところが多く、教会は観光名所として有名なだけあって外観も庭も美しく整えられており、レイモンドはひとりになるやいなや、早速教会内を探索することにしたのだ。
色とりどりの季節の花や、目に優しいハーブの緑など、教会の裏は見事に手入れされた庭が広がっていた。
眼の前のひとつひとつを丁寧に観察するレイモンドは、少し先の道にいる人に気づかなかった。
トンッと、肩に何かが触れ、レイモンドはハッと意識を戻して、そちらに視線を向けた。
「ごめんなさい、お花を見るのに夢中になっていました」
レイモンドの前に、オレリアは唐突に現れた。
潮風になびいて、朝のひかりのように透き通る、絹のようなプラチナブロンドの髪。
太陽のように暖かく、蜜のようにかがやくトパーズアンバーの瞳。
色素がうすく、すらりと伸びた華奢な手足に、春の桜のように可憐に染まる頬と唇。
僕の瞳とおなじ、アクアマリン色の、ふわふわで可愛らしいワンピース。
鈴を転がすような、透明感のある美しい声。
「海の、女神さま」
「・・・?」
レイモンドの呟きが聞こえなかったようで、オレリアは不思議そうに、少しだけ首を傾げた。
その仕草だけで、レイモンドは全身に衝撃が走り、時間がとまったように目の前の女の子から目が離せなかった。
「こちらこそ、ぶつかってしまってすみませんでした。っあ、あの、はじめましてっ、ぼくはレイモンドといいます。」
「はじめまして。私はエストラード子爵家の娘、オレリア・エストラードと申します。よろしくね」
運命的に出会ったその子は、オレリア・エストラードという子爵家のご令嬢なのだという。
早咲きのバラがほころぶような、初々しく可憐な笑顔を見せる彼女に、レイモンドはひと目で初恋に落ちた。
貴族の令嬢と、商会の次男坊の平民。
身分の差は誰の目にも明らかだったけれど、レイモンドはオレリアの記憶に残りたくて、今後も何とか接点を持ちたくて、少しでもオレリアに会話を楽しんでもらえるように頭をフル回転させて、結婚式までのひとときを過ごした。
その後、お互いの父親が迎えに来て、教会内で結婚式に参列している間も、教会の前の石階段を降りてくる新郎新婦を祝福している間も、レイモンドの瞳にはオレリアしか映っていかなった。
憧れの眼差しで新婦を見つめ、瞳を輝かせるオレリアを見て、レイモンドはウエディングドレスを着た未来のオレリイアを思い浮かべた。
貴族令嬢のオレリアと、平民のレイモンドが結ばれる未来は、かなわない。
その事実に胸がきゅうっと痛くなり、得も言われぬ焦燥感に駆られた。
けれど、オレリアがおとなになって、結婚式でウエディングドレスを着るとき、その隣に立つのは自分でありたい。
誰よりも美しいオレリアに、世界一美しいウエディングドレスを着せてあげたい。
ぼくが、オレリアを幸せな花嫁にしてあげたい。
「お嫁さん、とってもきれい」
胸の前で両手を合わせて、オレリアは花嫁に見惚れながら呟いた。
オレリアとの出会いは、レイモンドにとって雷に打たれるほど衝撃的だった。
その瞬間からオレリアは、レイモンドの心の中だけで文字取りミューズとして刻まれた。
何にもかえがたい執着心が芽生え、レイモンドは生まれて初めて、心のなかで夢を抱いた。
まずもって、オレリアが身につけるドレスは、自分の店で買ってもらいたい。
そしてそのドレスをつくるのは、自分でありたい。
誰よりも、オレリアに似合うドレスをつくる自信がある。
彼女のためなら、何だってできる。
そこそこで満足してる場合じゃない、あらゆることを最高レベルでこなす男になる。
死ぬ気でお金を稼いで、爵位を買おう。
最速で爵位を手に入れて、オレリアに結婚を申し込む。
それで、もしも受け入れてもらえたら、その時は世界で1番幸せにする。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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