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第2話:嫁入り支度2

◇ ◇ ◇



「それじゃアルマン、明日は王都で人気の演劇を観に行きましょう!それと週末の夜会で、新作のドレスを披露する予定なの、そのドレスに似合うアクセサリーも欲しいわ!」


「っははは、ヴァレリア、気が早いぞ。だが、まとまった金が手に入ったからな。明日は、君が行きたい所を全部まわろう。」


私が伯爵家へ嫁ぐことを聞いた伯母様は、第一声で、待ちきれないといったように満面の笑みで尊礼金の使い道を口にした。


伯父様も、伯母様の言葉を肯定して楽しそうに会話が弾んでいる。


「あんた、行き遅れる前に結婚相手を決めてもらえてよかったじゃない。卑しい盗人の血を引いていても、あなたは子爵家の令嬢だもの。教養も品もないあなたのこと、私は心配していたのよ。アルマンに感謝しなさいね。」


伯母様は嫌な微笑みを湛えて、まだほとんど口をつけていないワイングラスを身体の横に差し出した。


給仕係ではなく、伯父夫妻の食事の間ずっと壁際で控える私に、おかわりを要求している合図だ。


「ご心配おかけして、申し訳ございません。」


伯母様との会話で、謝罪以外の言葉を口にすることは許されていない。


ワインを注ぐためボトルを傾けてグラスに近づけると、伯母様の手から突然、グラスが滑り落ちた。


床に落ちたワイングラスは割れ、中に入っていたワインはほとんど私のお仕着せに掛かってしまった。


「まったくもう、ワイン一つまともに給仕できないなんて、あんたはいつまで経っても居るだけで迷惑をかける子ね。」


控えている給仕係や使用人は他にもいるけれど、誰一人、割れたグラスの後始末に動く人間はいない。


これは、私という玩具をいたぶってストレス解消するための、伯母様のお楽しみの時間。


私を助けるような動きをしたら最後、この子爵家から解雇されてしまうことを皆承知しているからだ。


いつものように淡々と、自分の汚れは後回しにして、私は割れ物の後始末に取りかかる。


「心配といえば、アルマン。明後日には厄介払いできると言っても、この子は爵位まで奪うような人間の子どもでしょう?蛙の子は蛙とも言うし、子爵家の財産を持ち出さないとも限らないわ。私のドレスやアクセサリーが盗まれないか、とっても心配よ」


今まで、この家で私が自由に手に入れられるものは一つもなかった。


だからといって、伯父様や伯母様のものに手を出したことは一度もない。


そもそも爵位だって、お祖父様が後継者を決めただけのこと。


お父様は、決して無理やりに子爵位を継承したわけではなかった。


勤勉で、領民からの信頼も厚く、織匠として領地経営の業務を引き継いでいたお父様は、お祖父様の意思に従っただけ。


片や、領地には目もくれず王都で贅沢を極めていた伯父様は、爵位が手に入らないと知ってからお父様の商売の妨害ばかりしていたことを、私は知っている。


そして、お祖父様が急逝し、両親が亡くなった後、子爵位を得た伯父様と伯母様にとって、私は『お祖父様を唆して爵位を奪った卑劣な人間』の娘となった。


「フンッ…。ヴァレリアの言うとおりだな。おい、お前。わかっているだろうが、お前の身の回りのもの以外、ヴァレリアの物だけでなくこの家の物は何一つ持ち出すことを禁じる。アレクシス!」


伯父様は、執事長を声高に呼びつける。


「はい、領主様」


「俺とヴァレリアは、明日から王都のタウンハウスで羽を休めて来る。俺達がこの屋敷を空けている間に、こいつが子爵家の財産を盗んで出ていかないよう、明後日まできっちり監視しておけ。いいな?」


「承知いたしました。1週間後には、領民が楽しみにしている年中行事がございますが、それままでにはお戻りでしょうか。」


「ッハ!あんな地味でつまらない催し、時間の無駄だ。ひとまず1ヶ月くらいは向こうで過ごす。その間の執務は、お前に任せる。」


「かしこまりました。」


お祖父様の代から執事長を務める壮齢のアレクシスは、表情の読めないいつも通りの真顔で、姿勢を正したまま礼儀正しく伯父様にお辞儀をした。


「ドレス1着でも、宝石一つでも盗んだら、ただじゃ置かないわよ。せいぜい明後日まで、手持ちのボロでも繕って自分で衣装を用意しなさいね。アレクシス、まかり間違っても、この子に子爵家の馬車なんて使わせないでちょうだい。街に行けばいくらでも、乗合馬車があるんだから。」


食事を終えた伯父様と伯母様は、やがていそいそと自室に戻っていった。


子爵家を去る前に落ち着いてお話ができる時間は、おそらくこれが最後だったと思う。


家業のこと、領地のこと、継承のこと。


何ひとつ、はじめから私には関係なかったかのように語られることはなく。


最後のご挨拶もないまま、私は後片付けに取り掛かった。






最後まで読んでくださりありがとうございます。


連載中は週1投稿を目標に、マイペースに更新予定です。


楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価・いいね・感想・☆などで応援していただけると励みになります。


また、短編や短歌も投稿を予定してますので、ぜひそちらも楽しんでいただけると嬉しいです。

https://mypage.syosetu.com/3091622/

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