No.5 人生設計
ユウには、臨死体験をしたころに知り合った人物がいる。
当時はまだ何も深く考えず、気楽な付き合いに過ぎなかった。
ユウはその人に、人生設計について得意げに語ったことがある。
子どもを何人持つか。大学までの教育資金。老後の備え。
未来を見据えて計画的に生きるべきだ――そんな話をした。
それから二十年。ある日突然に、その人から電話が入った。
「実はね、あなたにお礼をしたいの。今から来られる?」
誘われるまま足を運んだ先は、立派なマンションだった。
玄関先には、かつての知人がにこやかに立っていた。
部屋に通されると、目に飛び込んできたのは豪奢な調度品の数々。
磨き上げられた家具や飾られた美術品が、部屋の隅々にまで整然と並んでいた。
「私、あなたを目標にしていたの。子どもは二人とも短大を卒業したため、
余ったお金であなたの言った通り、土地を買ったのよ」
ユウは、そんなことを口にしたことさえ忘れていた。
彼女はコーヒーとケーキを運びながら、一段と声を張り上げた。
「その土地がね、昨日・・・億で売れたの!」
誇らしげな笑顔が、部屋いっぱいに広がった。
ユウはその光景をただ見つめながら、胸の奥に言いようのないざらつきを覚えていた。
この二十年――私はいったい何をしてきたのだろう。
ただ真面目に、ただ正しく。
それだけを頼りに歩んできたに過ぎない。
けれど、目の前の彼女は違った。
同じ時を過ごしながら、確かな形のあるものを手に入れ、
誇らしげに微笑んでいる。
その輝きの前で、ユウは自分の歩みを口にすることさえできなかった。
「あなたのおかげで、主人が明日仕事を辞めても心配いらないわ。ありがとう」
そう言うと、彼女はケーキを口に運び、コーヒーを一気に飲み干した。
「ところで、あなたはどうなの? お子さんは?」
一瞬、言葉に詰まったユウは、心の中で「ええい、ままよ」とつぶやき、
二度の流産のことを打ち明けた。
もちろん、臨死体験後に人の運命の影のようなものが見えることについては、
口をつぐんだままだった。
「私、そういう暗い話は嫌いなの。やめましょう」
意外だった。――こんな人間だったのか。
彼女に話すべきではなかった。
お金を貯めると言う事は 別の何かを失うことなのだろうか。
かつての彼女は心温かい人だったはず。
そのあとの会話は、もう何ひとつ覚えていない。
ユウは帰り際、二人の娘にと用意してきた名入りのペンを差し出すと、
彼女は言った。
「あら、これって下の名前のほうがいいでしょ? だって結婚すると、姓は変わるから」
ユウはマンションを後にしながら思った。
――もう、二度とここを訪れることはないだろう。
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ユウは脳裏に閃光の走った光景を思い返していた。
お金持ちの彼女は未だ知らない。
娘たち二人共が離婚し、元の姓に戻る未来を・・・
孤独死を迎える未来を・・・
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楽あれば苦あり、人生は山谷を繰り返すものです。




