↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議な女 上田ユウ  作者: 上田ユウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/31

No.18 心残りなく(前編)

ユウには、長く付き合っている友人が何人かいる。

だが、自分に時折未来が見えることは、誰にも話していない。

信じてもらえないと思っているわけではない。

ただ、その力は自分だけの胸にしまっておくべきものだと、いつしか思うようになっていた。

今回は、その中の一人について書いてみようと思う。


彼女の夫は個人事業主として働いていたが、十年ほど前に亡くなった。

その遺産相続をきっかけに、親子の間には深い溝が生まれた。

「老後のお金が不安だったの。だから夫の遺産は全部欲しかったのよ。」

彼女は、そのことを隠そうとはしなかった。

長男は母の考えを受け入れたが、長女は遺留分を主張した。

彼女は弁護士を立て、一年近く争った末、ある条件と引き換えに長女へ遺産を

分け与えたという。

それ以来、娘とは一度も連絡を取っていない。

十年という歳月は、人の心を遠ざけるには十分すぎる長さだった。


その彼女から、ある日突然電話がかかってきた。

「ねえ、銀行に連れて行ってくれない?」    いつものことだった。

前触れもなく電話が鳴り、ユウは一日運転手になる。

彼女は大きめのバッグを抱え、銀行の貸金庫へ向かった。

現金を預けているのだという。

「通帳に入れておくと相続の対象になるからって、弁護士さんに言われたの。」

以前から利用しているらしかった。

貸金庫の重い扉が閉まる音を聞きながら、ユウは何とも言えない気持ちになった。

大切なものを守るための場所。

けれど、その扉の向こうへしまわれているのは、お金だけなのだろうか――。


銀行を出ると、そのまま買い物が始まる。

彼女は店から店へと足を運び、時間をかけて品物を選ぶ。

一方のユウは、果物と少しのお菓子を買えば、それで十分だった。

もともと物欲がない。

だから彼女が迷いながら品定めをする時間は、少し長く感じられた。

やがて店員が段ボール二箱分にもなった荷物を車まで運んでくる。

ユウは黙って助手席の荷物を整え、彼女を自宅まで送り届けた。

それが、月に一度ほど繰り返される二人の日常だった。


時折、長男が顔を見せに来るという。

けれど普段は一人暮らしだった。  寂しくないはずがない。

それでも彼女は、自分の孤独を口にしたことがなかった。

娘の話になることもなかった。

まるで、その存在ごと胸の奥へしまい込んでしまったようだった。


帰り道、ユウは静かにハンドルを握りながら思った。

人は安心を求めてお金を蓄える。  それは決して間違いではない。

老後を思えば、誰だって不安になる。

けれど、人は何を手に入れれば、本当に安心できるのだろう。

あれほどお金を守り続けてきた彼女の表情は、

どこか満たされていないように見えた。


守りたかったものは、お金だったのか。

それとも、失って初めて気づく何かだったのか。

その答えを、ユウはまだ知らなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。