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不思議な女 上田ユウ  作者: 上田ユウ


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17/31

No.17 見えなかった未来(前編)

友が死んだ――。


もう二十年も前になるだろうか。

ユウは歯科医院の待合室で彼女と出会った。

名前も知らぬまま交わした何気ない会話だったが、そのわずかな時間が、

不思議なほど二人の距離を縮めた。


彼女は秋田で育ち、集団就職で上京したという。

都内の会社で事務員として働いていたが、田舎育ちの実直な性格ゆえに、

都会の人間関係にうまく馴染めなかった。

人に気を遣いすぎるたびに心をすり減らし、やがて人と関わることそのものに

疲れ果ててしまった。


そんなある日、ふらりと立ち寄った教会で、ちょうど神父の説教が始まっていた。

彼女は、初めて神父の姿を目にした瞬間、身体に電流が走ったようだった、

と後にユウへ語ってくれた。


神父はすでに六十歳を迎えていた。 彼女はまだ二十歳。

親子ほども歳は離れていた。

それでも、半年も経たぬうちに二人は結婚した。

神父は、自分が彼女より先に召される日を覚悟していたのだろう。

彼女に手に職をつけるよう勧め、看護の道へ進ませた。

彼女は専門学校へ通い、看護師の資格を取得した。

やがて女の子と男の子に恵まれ、穏やかな日々が流れた。


しかし、娘が小学校へ上がる頃、神父は静かにこの世を去った。

ユウと出会った頃、彼女はぽつりとつぶやいた。

「去年、夫が亡くなったばかりなの」

その言葉を口にした時の、寂しさを押し隠したような微笑みを、

ユウは長い間忘れることができなかった。


それから彼女は、よくユウの家を訪ねてくるようになった。

二人で簡単な昼食を囲み、取りとめのない話をして帰っていく。

そんな穏やかな時間が、いつしか二人の日常になっていた。

不思議なことに、ユウはこれまで一度も彼女の未来を見たことがなかった。


ところが、昨年、最後に会った日のことだった。

ふいに、ユウの脳裏を一筋の閃光が走った。


*******************

彼女が、二人の子どもと暮らしている――。

ただ、それだけの光景だった。  

*******************


その時は深く考えなかった。

だが今思えば、それが彼女にまつわる、唯一見えた未来だったのかもしれない。

気がつけば、もう半年も彼女と会っていなかった。

いつもならメールか電話で連絡を取り合っていたのに、その頃はどちらにも

返事がなかった。

よく考えてみれば、ユウは彼女の家さえ知らなかった。

「そのうち招待するわ」   彼女はいつも、そう笑っていた。

そして昨日、突然一本の電話が入った。

受話器の向こうから聞こえたのは、彼女の娘の声だった。

「母が亡くなりました」

あまりにも静かなその一言に、ユウは言葉を失った。

受話器を握る指先から、ゆっくりと力が抜けていく。

あの日、脳裏をよぎったあの光景が、今になって胸の奥で静かに疼き始めていた。



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