No.13 初雪の朝に(中編)
ユウが高校一年生になった頃のことだった。
授業の途中、突然、校内放送が教室に流れた。
「お知らせします。有名な日本企業の〇〇会社の社長様が来校され、
お話をしてくださることになりました。 全校生徒は、直ちに講堂へ集合してください」
興奮を隠しきれない校長の声だった。
生徒たちは顔を見合わせながら席を立ち、講堂へ向かった。
ざわめきに包まれた会場に、やがて一人の紳士が壇上へ姿を現した。
背筋を伸ばした堂々たる姿。
その人は、ユウでさえ名前を知っている、日本屈指の企業の社長だった。
会場は大きな拍手に包まれた。
社長は穏やかな笑みを浮かべ、生徒たちをゆっくり見渡した。
「今日は、皆さんに一人の人物を紹介したいと思います。」
そう言って壇上の脇に立つ一人の青年を招いた。
「彼は、この高校の卒業生です。 家庭の事情で大学へ進学することはできませんでした。
しかし努力を重ね、今では我が社を支える存在となっています。
学歴だけが、人をつくるのではありません。
どうか皆さんも、自分の可能性を信じ、努力を惜しまないでください。」
青年が一歩前へ出ると、社長は真っ先に拍手を送った。
その拍手は、やがて講堂いっぱいに広がっていった。
ユウも拍手を送りながら、不思議な気持ちになっていた。
母の声が、胸の奥で静かによみがえったのである。
「誰にも、生涯自分を助けてくれる人が、必ず三人は現れます。」
その言葉が、いつまでも耳に残っていた。
放課後、家へ帰る途中、近所の人がユウを呼び止めた。
「ユウちゃん、今日、お宅にすごいお客さんが来ていたよ。」
何事かと思って尋ねると、隣人は興奮気味に話し始めた。
「黒塗りの立派な車が何台も家の前に止まってね。
『こちらのお母さんはどちらへ行かれましたか』と聞かれたから、田んぼじゃないですかって
答えたんだ。 すると、お付きの人が車の中へ『お呼びしましょうか』と聞いたんだけど、
中から『いいえ、帰られるまで待ちます』という声がしたんだよ。」
やがて昼頃、畑仕事を終えたユウの母が、よれよれのもんぺ姿のまま歩いて帰ってきた。
その姿を見つけると、一番立派な車から一人の紳士が降り立ち、まっすぐ母のもとへ歩み寄った。
「先生。」
その一言に、隣人は目を丸くしたという。
「本当に驚いたよ。 あんな立派な人が、深々と頭を下げていたんだから」
話を聞きながら、ユウは言葉を失っていた。
驚いていたのは、隣人ではない。 ユウ自身だった。
昼間、講堂で生徒たちに語りかけていた、あの有名企業の社長。
その人は、母に会うためだけに、この小さな村まで足を運んでいたのだった。
その日、社長はユウの家で母と二人きりになり、長い時間を過ごしたという。
しかし、その席で何が語られたのかを知る者は、当事者以外、誰もいなかった。




