表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議な女 上田ユウ  作者: 上田ユウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/13

No.10 幸福への入口

ユウには、ある知人がいた。


彼女はとびぬけた美人でもなく、不美人でもない。


いわば平凡な女性だった。


父は普通のサラリーマン、母はパートで働き、妹とともに四人家族で育った。


高校を卒業すると同時に英会話教室に通い始め、その教師だったアメリカ人と結婚し、


ニューヨークに渡った。


英語には苦労したが、やがて永住権を手に入れ、ホテルの受付で働くようになった。


夫とは一回り以上年が離れていたが、言い争うこともなく、仲睦まじく二十数年を過ごした。


だが転機は突然やって来た。


まず夫が失業し、さらに自分が子どものできにくい身体であることを知った。


年齢を重ねると受付の仕事から外され、裏方に回される。


収入は減り、家賃の安い住居へと移らざるを得なかった。


貯蓄は殆どなく、生活費はすべて彼女の肩にのしかかった。


落ち込むには十分すぎる状況だった。


その頃の彼女との年に一度のやり取りは、短い言葉にとどまった。


「元気です。あなたはどう?」


「円満に離婚しました。元夫も独身を謳歌しています」


――どんな幸せそうに見える人生にも、山と谷がある。


彼女の決心は寝耳に水だった。


ユウは心の中で、彼女はきっと帰国するだろうと思った。


ところが数年後に届いた絵葉書は、想像を超えるものだった。


「今ラスベガスです。夜のベラージオの噴水ショーは見事よ! あなたにも見せたい。


次回はフランスに行く予定。またお便りします」


人の幸不幸は、どこに潜んでいるのか分からない。


裏方に回された過失物取扱所での仕事が、やがて彼女の未来を大きく変えることになったという。


ある日、初老の男が財布を落としたと慌てて駆け込んできた。


「カードはすべて止めたから心配ない。だが、中にあった亡くなった娘の写真だけはどうしても


取り戻したいのです」


彼女は日本人らしい真面目さと情の厚さをまだ失っていなかった。


そこに、遠慮がちな微笑みが加わった。


男は連絡先を残し、深々と頭を下げて去っていった。


大抵の依頼はここで終わる。 


二日経っても、その財布は見つからなかった。


彼女は、このままにしておけなかった。


上司に掛け合い、一枚の張り紙を出す許可を得た。


驚くほどあっさりと許可が下りたのには、あの初老の男の正体が関係していた。


彼は名の知れた会社の社長だったのだ。


何も知らない彼女は あたかも自分自身が落とし主であるかのように張り紙を記した。



――視力のよいあなたへお願い致します。

 

亡くなった女友達の写真を 二日前落としてしまいました。

 

もし拾われた方がいらっしゃいましたら、過失物取扱所へお届けください。

 

心より感謝申し上げます。――



ホテルの入口ドアに掲示されて間もなく、写真は届けられた。


彼女がトイレに立ったわずかな隙に、誰かがそっと置いていったらしい。


写真が見つかった事を連絡先へ知らせたとき、初めて彼女は男の素性を知った。


それからの生活は、まるで夢のようだったとのこと。


妻と離婚し、娘を亡くした社長は、日本人の細やかな気配りと温かさに深く心を打たれ、


彼女を実の娘のように大切に扱った。


――人の運命は、生き方次第で姿を変える。


もしかすると、誰にも素晴らしい未来に通じる扉が、どこかに用意されているのかもしれない。


「そのうち日本へ旅行に行くかもしれないわ」


電話で彼女はそう言って笑っていた。


彼女の未来がどのように広がっていくのか。


是非とも見てみたい。


会える日をユウは楽しみに待っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ