クロでも敵わぬ人
【更新時間変更のお知らせ】
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
現在、3作品を並行して執筆しております。
できるだけ安定して更新を続けられるよう、更新時間の変更と執筆時間の確保のため、土日をお休みとさせていただくことにしました。
急な変更となってしまい、大変申し訳ございません。
**『バハムート宇宙を行く』**
月曜日~金曜日 8時更新
**『バハムート宇宙を行く ノアの歩み』**
月曜日~金曜日 12時更新
**『魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~』**
月曜日~金曜日 20時更新
土曜日・日曜日はお休みとさせていただきます。
変更したばかりにもかかわらず、再度の変更となり申し訳ございません。
より良い作品をお届けできるよう頑張ってまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
「あらあら。揃っているわね」
その声が響いた瞬間、ルビーたちは一斉に整列し、深く頭を下げた。
そこに現れたのは、オンリーだった。
一歩、姿を見せただけで、舞台裏の空気が変わった。
ブラウンに輝く髪は美しく結い上げられ、簪のような髪飾りで留められている。その簪からは、赤、青、緑、紫と、色とりどりの宝石が垂れ下がり、歩くたびに小さく揺れて光を散らしていた。
あえて乱れたように落とされた髪の一筋でさえ、計算された装飾の一部に見える。
そして、何より目を引くのは、大胆に開かれた肩口と胸元だった。
照明を受けた白い肌は、陶磁器のように淡く輝いている。そこには女性的な艶を錯覚させるほどの繊細さが宿っていた。だが、同時に、鍛えられた男性の身体が持つ芯の強さも確かに宿っていた。
身にまとっているのは、黒と深紅を基調とした、花魁を思わせる着崩しのドレススーツ。
袖は大きく、裾は長く流れ、黒地には金の装飾と紅白の花が咲いている。深紅の裏地が動くたびに覗き、まるで夜の中に炎が揺れているようだった。
だが、ただ艶やかなだけではない。
襟の開き方。袖の落ち方。腰を締める帯の位置。胸元を彩る装飾。足を進めたときにだけ現れる深いスリット。そのすべてが、計算され尽くしていた。
崩しているのに、乱れていない。
艶やかなのに、品がある。
その絶妙な均衡に、クロは思わず目を見開く。アヤコやモデルたちは、うっとりと目を細めていた。
手には、黒地に花柄をあしらった和風のバッグ。
足元には、まるで陶器のような艶を持つ黒い高下駄。高く美しいその足元は、歩くたびに裾を優雅に揺らし、オンリーの立ち姿をさらに大きく見せていた。
オンリーはそこで、くるりと一度回ってみせる。
宝石が揺れ、袖が広がり、長い裾が花のように舞った。
その瞬間、どこかで小さくよろめく気配があった。
モデルの数人が、息を詰めたまま膝を崩しかけたのだ。
露わになったうなじには、視線を奪うほどの危うい色香。
だが、その奥にある肩や背には、男性として鍛え、磨き上げられた力強さがある。
柔らかさと強さ。
妖艶さと威厳。
女性的な美をまといながら、決して女性そのものではない。
すべてが唯一の美として重なり、そこに立つ者を形作っていた。
まさに、オンリーワン。
その名にふさわしい存在が、静かに微笑んでいた。
「さすがというより、もはや芸術ですね」
クロの率直な言葉に、オンリーは口元へそっと手を添え、楽しげに笑った。
「クロちゃん。当たり前のことを言わないの」
その言葉には、圧倒的な自信があった。
けれど、その場にいる誰ひとりとして、否定できない。
それほどまでに、オンリーの姿は完成されていた。
「凄い……本当にさっきまで話していた人? あの時のパレードの姿とも同じ人? どの姿も、全部別人みたい……」
「その、なんか……別次元っすね」
アヤコは放心したように呟き、エルデはもはや考えることを放棄したように、少しだけ棒読みになっていた。
その中で、クレアだけは違った。
負けじとオンリーの傍へ駆け寄り、小さな胸を張る。尻尾をぴんと立て、背中の翼を揺らしながら、自分も負けていないと全身で主張していた。
「ふふっ。クレアちゃんには敵わないわね」
オンリーはそう言うと、優雅に歩みを進める。
その一歩ごとに、裾が流れ、宝石が揺れ、照明の中で黒と深紅の衣装が表情を変えていく。
その姿を見送りながら、クロは近くに控えていたトバラの姿に気づいた。
そして、そっと近づき、小声で確認する。
「あれは……着物なのですか? トバラさんのアイデアですか?」
クロと同じ転生者でもあるトバラなら、何か知っているかもしれない。
そう思って尋ねたのだが、トバラは静かに首を横へ振った。
「いいえ。私めは何も申しておりません。あれは着物ではございません。オンリーワン様が御自ら仕立てられたドレスでございます」
「トバラさんからの助言は、一切なしですか?」
「はい。私めからは一言も」
トバラの答えに、クロは言葉を失った。
少なくとも、トバラが助言したわけではない。
そしてクロ自身も、オンリーに着物や花魁について説明した覚えはなかった。
オンリーがその概念を誰かから教わったとは思えない。
それでもオンリーは、花魁を思わせる艶やかさと、ドレスとしての構造美を、自分の感性だけで組み合わせ、あの完成度へと昇華させていた。
(ヒントもなしに、あれを……)
クロは改めて、オンリーの背中を見る。
軽く考えていた。
ダリの師匠に、と。
けれど今、ようやく理解する。
(もしかして、俺はとんでもなく贅沢なお願いをしていたのでは……?)
できたら頼んでみよう。
そんな軽い気持ちで口にしたはずの願いが、いつの間にか、クロの中で恐ろしいほど重い意味を持ち始めていた。
その視線の先にいるのは、美を知り、美を操り、美によって世界の空気さえ変えてしまう者。
オンリーワン。
その存在が、静かに微笑む。
「さあ、まずはクロちゃんからよ」
ファッションショーは、いよいよ終盤へ差しかかっている。
その最後を飾る花たちをランウェイへ送り出す合図を、オンリーが静かに告げていた。




