向日葵の原石
「クロねぇ。自分のこと、見てほしいっす!」
クレアの次に、クロの前へ駆け寄ってきたのはエルデだった。
ショートカットの金髪は、ダイヤモンドたちに磨き上げられたことで、陽光を受けた麦穂のように艶やかに輝いている。その一部に混じる黒い色も、以前よりはっきりと映え、明るい金色の中で不思議なアクセントになっていた。
耳元には、小さな向日葵の髪飾り。肩には柔らかな黄色のカーディガンを軽く羽織り、その下には淡い黄色のワンピースが揺れていた。
胸元には控えめなレースとリボン。腰で結ばれた細い帯が、ふわりと広がるスカートの形を整えている。足元には白いワンポイントのアンクレットと、少しだけヒールのある黄色のパンプス。背伸びしすぎない可愛らしさがあった。
全体としては、田舎道に咲く向日葵のように明るく、素朴で、けれど丁寧に磨かれた装いだった。
普段のクロと同じようなジャケット姿とはまるで違う。
そこにいるのは、元気で、少しおてんばで、けれど初めて自分の可愛さに触れた少女の姿だった。
だが、一番クロを驚かせたのは、動くたびにワンピースの色が変わって見えることだった。
正面から見れば、淡い黄色。
斜めから光を受けると、向日葵の花弁のように鮮やかさを増し、さらに裾が揺れるたび、柔らかな金色や虹を含んだような光が一瞬だけ走る。
まるで、エルデ自身の元気さに合わせて、布が表情を変えているようだった。
「この服、凄いっす! 軽くて、色が変わって見えるっすよ!」
エルデはその場で軽く回り、ワンピースの裾をふわりと広げてみせる。
明るい笑顔。
弾む声。
陽射しを受けた向日葵のように、その全身から楽しいという気持ちがこぼれていた。
「それは凄いですが……」
クロはエルデの高すぎるテンションに、額へ手を当てる。
嬉しそうなのはわかる。
似合っているのも、よくわかる。
けれど、元気よく動きすぎるせいで、本人が思っている以上に身体も衣装も大きく揺れていた。
「エルデ。少し落ち着きなさい……胸元まで大きく揺れています。もう少し、ゆっくり動きなさい」
「えっ?」
エルデはきょとんとした顔で、自分の身体を見下ろす。
その仕草すら無防備で、クロはますます眉間にしわを寄せた。
「もう少し、ゆっくり動きなさい。せっかくの衣装なのですから」
「うっす! わかったっす!」
返事は元気だった。
だが、元気すぎる。
エルデは今度こそ落ち着こうとしたのか、背筋を伸ばし、ゆっくりと一歩踏み出す。
すると、ワンピースの裾が光を受け、淡い黄色から柔らかな金色へと変わった。
その変化に、クロは思わず目を細める。
「……本当に、よくできていますね」
クロの呟きに、エルデの顔がぱっと明るくなる。
「似合ってるっすか?」
「ええ、よく似合っています。元気なエルデらしくて、とても素敵ですね」
その言葉を聞いた瞬間、エルデは嬉しさを隠しきれず、また少し身体を揺らしそうになった。
だが、寸前で動きを止める。
クロに言われたことを思い出したのだろう。
代わりに、エルデは少し照れたように笑い、両手でワンピースの裾を軽くつまんでみせた。
「へへっ。なら、よかったっす」
その姿を見て、ダイヤモンドは満足そうに微笑む。
「エルデ様には、『旧世界の田舎道に咲く向日葵の原石』というコンセプトでご用意いたしました。明るさ、素朴さ、成長、そしてこれから磨かれていく可能性。そのすべてを表現しております」
「旧世界の田舎道に咲く向日葵の原石……長い。ですが――」
クロはその言葉を聞き、改めてエルデを見る。
確かに、そこにいるのは完成された淑女ではない。
けれど、だからこそ眩しい。
まだ自分の魅力を扱いきれていない、不器用でまっすぐな少女。
その明るさを、衣装が丁寧に受け止めていた。
「なるほど。エルデらしいですね」
「クロねぇにそう言われると、嬉しいっす!」
今にも飛び跳ねそうになるエルデを見て、クロは静かに片手を上げた。
「落ち着きなさい」
「うっす!」
元気よく返事をするエルデ。
だが、その笑顔は先ほどよりも少しだけ落ち着いていた。
自分のためだけではない。
クロに見てもらうため。
そして、少しだけ自分を好きになるため。
エルデはその場で小さく胸を張り、黄色いワンピースを揺らさないよう、今度こそ丁寧に立ってみせた。
「さすが……オンリーワン様に認められた方々でございます」
ルビーが、クロの腕の中にいるクレアと、少し照れながら立つエルデを見つめ、うっとりと呟く。
「そうですね。クロ様は普段からお持ちの美しさが際立ち、エルデ様は天性の明るさがより鮮やかに引き出されています」
サファイアもまた、クロとエルデの姿を見比べながら、静かに目を輝かせていた。
同じオンリーワンの手による衣装でありながら、まったく違う魅力が立ち上がっている。
クロの装いは普段着に近い。けれど、だからこそ芯のある強さと、静かな美しさが前に出ていた。
エルデは、まだ自分の魅力を扱いきれていない。けれど、だからこそ眩しい。向日葵のような明るさが、衣装によってさらに鮮やかに咲いていた。
「ふふ。クロ様も、クレア様も、エルデ様も……オンリーワン様の衣装をまとう姿として、本当に素晴らしいです」
ダイヤモンドは感動したように微笑む。
そして、クロの腕の中で幸せそうにしているクレアへ視線を向けた。
「できることなら、このまま皆様に定住していただきたいほどでございます」
「定住はしませんよ」
クロは即座に答えた。
その声には、わずかな警戒が混じっている。
だが、メイドたちは誰ひとりとして悪びれない。
むしろ、その反応すら美しいものを見るように、静かに微笑んでいた。
「では、本命を」
その空気を破るように、後ろからエメラルドの声が届いた。
「本命?」
クロが振り返る。
その問いの答えは、すぐ目の前にあった。
新作を始めました。
タイトルは、
『魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~』
です。
魔王と勇者、二人の物語を描いていきます。
もしよろしければ、お楽しみください。




