乙女心への三連撃
お休みありがとうございました。
本日より更新を再開いたします。
サッカー、熱かったですね。
悔しい結果ではありましたが、ブラジル相手にあそこまで戦ったことを誇らしく思いました。
これからも『バハムート宇宙を行く』をよろしくお願いいたします。
「オンリーワンに?」
「ええ。ダリの師匠に、オンリーさんを推薦しまして。今、そのテスト中です」
真っ赤になった頬をさすりながら、クロはアヤコの真正面に正座し、事の経緯を説明する。
アヤコはクロの前で仁王立ちになり、クロから語られる説明にじっと耳を傾けていた。
「それで。なんで私が呼ばれたの?」
不思議そうに尋ねるアヤコに、クロの声が少しだけ小さくなる。
「オンリーさんのファッションショーに、出てもらいたく……」
その瞬間、アヤコは両腕を交差させ、体の前で大きくバツ印を作った。
明らかな拒絶。
「いや。行かない」
「ですよねー」
分かり切っていた答えに、クロは安堵したようにほっと息を吐く。
「クロだけでいいじゃない」
「私も嫌ですが……ダリの手前もありますし、クレアとエルデも味方に引き込まれていて……逃げられません」
悔しそうな声に、アヤコは仕方がないと言いたげに小さく頷いた。
けれど、そこで当然の疑問が浮かぶ。
「そこに私までって、なんでそういうことになったの?」
「それはですね……」
クロはそこで、淡々と事の経緯を説明した。
オンリーがアヤコにもインスピレーションを受け、制作した服があること。そして、それを着てもらいたいだけでなく、ショーにも出てほしいと言っていること。
さらに、クレアもエルデもアヤコの綺麗な姿を見たいと期待していること。
そして何より、クロ自身もすでに逃げ道を塞がれ、もう逃げられないと悟り、諦めて帰って来たこと。
それらを、クロはできるだけ感情を交えず、事実だけを並べるように説明した。
「それは……ありがたいんだけど……ね」
アヤコは少し顔を赤くしながらそう言うと、今の自分の姿を確認した。
身に着けているのは、オンリーワンでクロに買ってもらったジャンプスーツだ。汚れても綺麗に落ち、作業着としての機能性も高い。それでいて、見た目にも女性らしく、綺麗に見える。
クロがいない時、ウェンにも褒められ、羨ましがられた。
それでも、あの時メイドたちに整えてもらった姿と比べると、自分でやる今の形は、まだ似合いきっていないように思えてしまう。
だが、そんな自分の姿も努力をする過程も、実はかなり気に入っていた。
それに合わせ、髪をまとめるワックスも少し高くて良い香りのするものに変えている。もちろん、そのことは内緒だ。
そんなふうに自分の姿を見返しているアヤコを見て、クロは勝手に話が終わったものと思い込み、安堵したように立ち上がった。
「そうですよね。今のままで十分だと思いますし」
「ん?」
クロの一言に、アヤコはわずかな引っかかりを覚え、少しだけ顔をしかめる。
だが、クロは犠牲者が増えずに済みそうだという安堵感から、アヤコの空気が変わったことに気づいていなかった。
「そのジャンプスーツも、以前とたいして変わらないですし」
その一言が、アヤコの乙女心に綺麗なジャブを入れた。
毎日、きちんと変えている。
しかも、それはクロに買ってもらったものだ。
「私が言うのもなんですが、洋服には無頓着ですし」
続けざまのストレート。
クロにだけは言われたくない。
アヤコの顔が、だんだんと引きつっていく。
「それに、あまり似合わないかもしれませんしね」
最後に、見事なアッパーが乙女心のど真ん中に入った。
少しでも可愛くしようと、作業の邪魔にならない範囲で努力している。髪も整え、あの時の姿になれるよう努力し、香りにだって気を使っている。
それなのに、クロはまるで分かっていない。
乙女心をことごとく殴られ見事にダウンを喫し、アヤコの顔は、笑顔のまま固まっていた。
その背後では、見えない怒気がゆらりと揺らいでいる。
「では、私は戻り……」
そこで、クロはようやく気づいた。
なぜか、アヤコが怒っている。
(何か変なこと、言っただろうか?)
「あの……」
「ちょっとそこで待ってて」
心当たりのないクロは、どう尋ねようか迷っていた。
だが、それよりも先に、アヤコの口から拒否を許さない圧を帯びた声が漏れる。
「ちょっと待ってて」
そう言うと、アヤコはリビングを出て店舗の方へ向かった。
しばらくして、店番をしていたアンジュと一言二言交わす声が聞こえる。そして数分も経たないうちに、アヤコは笑顔で戻ってきた。
その笑顔を見た瞬間、クロの背筋に嫌な予感が走る。
「……その、私は戻りますよ?」
クロはなぜか確認するように言うと、すぐに転移しようとした。
だが、その肩をアヤコの手がしっかりと掴む。
「私も行く」
「へ?」
「ワタシモイク」
「……はい」
同じ言葉を繰り返すアヤコの笑顔が怖くて、クロはそれ以上何も言えなかった。
言われるがまま承諾し、アヤコを連れて転移する。
その後。
店舗側に残っていたアンジュは、シゲルに頼まれていた解体済みの部品を梱包しながら、深くため息を吐いた。
「社長。自分が言うのもなんですが、さすがに今のはないと思いますよ」
ぽつりと漏れた呟きに、棚を掃除していたレッド君も、深く、深く頷いていた。




