動き出す新店舗
遅くなりましたが、『バハムート宇宙を行く ノアの歩み』を更新しました。
本当に更新が遅くなってしまい、申し訳ございません。
お待ちいただいている皆様には感謝しかありません。
少しずつにはなりますが、これからも更新していきますので、よろしくお願いいたします。
そうして改装の進捗について話し合っているうちに、エアカーは目的の店へ到着した。
店の正面には、大きなホロディスプレイ看板が取り付けられている。ただし、そこに店名はまだ表示されていなかった。光を落とした看板は静かに眠っているようで、これから始まる店の姿を、じっと待っているようにも見えた。外壁の一部にはまだ下地色が残っており、改装が完全には終わっていないことを物語っていた。
「着いたっす!」
エルデは声を弾ませ、飛び出すようにエアカーから降りた。
その勢いにアレクが呆れたように目を細め、クロたちも苦笑しながら後に続く。
店の内装作業は、先ほど報告があった通り、ほとんど終わっていた。残っているのは外装の塗装くらいで、建物の中からはすでに新しい店としての空気が漂い始めている。
クロたちは裏手に回り、関係者専用入口の前で足を止めた。
クロが端末を掲げると、小さく解錠音が鳴る。ドアをスライドさせて中へ入ると、そこはバックヤードになっていた。まだ商品は並んでおらず、広い空間だけが静かに広がっている。
奥にはクロたちの専用スペースへ続く階段があり、その横には、まだ明かりの灯っていない事務室兼休憩室があった。
クロたちはそのまま二階へ上がり、会議室へ向かった。
中に入ると、そこにはサクラたち一家の姿があった。机の上には業務用の端末が並び、複数の書類データがホロディスプレイに表示されていた。新店舗の商業登録と並行して、ジャンクショップ側の事務も整理されていた。
「お疲れ様です。進捗はどうです?」
クロが声をかけると、サクラたちはそれぞれ顔を上げた。
ダイコとシュミーは特に疲れた様子もなく、落ち着いた表情をしている。だが、サクラだけは明らかに疲れ切っていた。
「クロさん、お帰りなさい。私の方は問題ありません。ジャンクショップ側の事務は引き継ぎましたので、シゲルさんからは、あとは任せたと丸投げされています」
そう答えたダイコは、心機一転したのか、以前よりも髪を短く刈り上げていた。明るい茶色に整えられた髪のせいか、表情まで少し引き締まって見えた。
「私の方も、クロさんたちの事務関係の引き継ぎをアンジュさんから受け取り、完了しています。ただ、クロさんたちの金庫番としては少し怖さを覚えますね。この金額は」
シュミーもまた、雰囲気が少し変わっていた。ゆるくウェーブのかかっていたピンクの髪は今ではすっきりとまとめられ、仕事の邪魔にならないよう後ろで団子状に結ばれている。
その二人に対して、サクラだけは見た目こそ大きく変わっていない。だが、その表情には疲労が濃く浮かんでいた。
「クロ。私はもう駄目」
机に片肘をついたサクラが、力なくそう呟く。
「なんでコロニー行政局に税務管理局、商業組合、改装後の安全審査まで、手続きがこんなにあるのよ~」
情けない声で嘆くサクラに、クロは少しだけ申し訳なさそうに目を逸らした。
任せた側としては頼もしい限りだが、任された側にしてみれば、たまったものではないのだろう。机の上に表示された書類とホロディスプレイの数が、その苦労を何より雄弁に物語っていた。
「サクラ。泣き言を言わない」
ダイコが、やんわりとした声で注意する。
「そうよ。もう少しじゃない」
シュミーも励ますように声をかけた。
だが、その優しげな言葉を聞いたサクラは、少しだけ不満そうに二人を見つめる。疲れ切った顔のまま眉を寄せる姿は、どこか拗ねた子どものようでもあった。
「なんか最近、お父さんもお母さんも、私に厳しくない?」
疑うようなサクラの視線に、ダイコは素直に頷いた。
「今まで少し甘やかしすぎていたからね。ダリ君もいるんだ。これからは、しっかり姉らしく頑張りなさい」
穏やかな声だったが、その言葉には父親としての確かな意思があった。
サクラは反論しようと口を開きかけたが、すぐに閉じる。ダリの名前を出されると、さすがに何も言い返しにくいらしい。
「……それを言われると弱いんだけど」
小さくぼやくサクラに、シュミーはふふっと柔らかく笑った。
「なら、もう少し頑張れるわね」
「お母さんまで……」
サクラは机に突っ伏しそうなほど肩を落としたが、その声からは本気の嫌悪は感じられなかった。
「家族になったんですよね」
クロは近くの椅子に腰を掛けながら尋ねる。
すると、ダイコは少し照れたように頭を掻いた。
「はい。ダリ君本人も了承してくれました。シゲルさんにもお手伝いいただいて、登録上の名前も変わっています。ダリ・ヒコノ。私たちの新しい家族です」
その言葉には、まだどこか慣れない照れと、それ以上に深い喜びが滲んでいた。
「そうですか。では、頑張らないといけませんね。サクラ」
「……お姉ちゃんか。頑張るしかないかな」
サクラは小さく息を吐くと、改めて気合を入れるように背筋を伸ばし、再び書類へ向き直った。
「ところで、そのダリは?」
クロが尋ねると、シュミーが穏やかに答える。
「秘密基地の方にいますよ。専用の作業室をもらえたことが、よほどうれしかったみたいで。今、一生懸命頑張っています」
そう言いながら、シュミーはサクラの手伝いを始めた。ダイコも直接書類に手を出すことはないものの、必要な資料を呼び出し、横から静かにサポートしている。
サクラはまだ少し不満そうにしていたが、先ほどより手の動きは軽くなっていた。
クロはそんな三人の様子を見て、ふっと表情を和らげる。
「ダリの様子を見に行ってみますか。アレクたちはどうします?」
クロが振り返って尋ねると、アレクは少し考えるように視線を落としたあと、静かに答えた。
「俺はこの後、買い物に行こうかと。訓練施設の設備を、もう少し整えたいです」
訓練スペースの図面を思い出しているのか、その声にはいつもの落ち着きの中に、少しだけ真剣な響きが混ざっていた。
「俺も同行します」
タンドールもすぐに同意する。設備を整えるとなれば、実用面の確認も必要になる。アレク一人に任せるより、二人で見た方が確実だろう。
クロは納得したように頷くと、今度はポンセへ視線を向けた。
「そうですか。では、ポンセは?」
「俺は店の内装などのチェックですね。細かいところを、もう一度見ておきます」
「お願いします。アンジュは?」
クロが続けて尋ねると、アンジュは軽く姿勢を正した。
「自分はジャンクショップの方の店番です。シゲルさんが少し外す予定なので」
「わかりました。では、ここはそれぞれ予定通りに動きましょう」
クロがそうまとめると、全員がそれぞれ小さく頷いた。




