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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
日常と暗い影

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新店舗への道

 クロたちはギルドを出ると、そのままアレクたちが住んでいた建物へ向かうため、新しく購入した中古のエアカーに乗り込んだ。


 バンタイプのエアカーは、外見こそ少し古びていたが、車内は思った以上に広かった。クロたちの人数で移動するには、ちょうどいい広さである。


「クロねぇ、自分、助手席がいいっす!」


 子どものようにはしゃぐエルデに、クロは小さく苦笑した。


「どうぞ」


 その一言を聞くなり、エルデはいの一番に助手席へ飛び込み、窓をいっぱいに開けた。外から流れ込む空気に、短い髪がふわりと揺れる。


「俺が運転します」


 アレクが運転席に乗り込むと、クロは中央の席に腰を下ろした。その隣にはタンドールが座り、最後列にはアンジュとポンセが並んで乗り込む。


 全員が座ったことを確認してから、アレクは静かにエアカーを発進させた。


 エアカーがゆっくりと走り出すと、エルデは我慢しきれなくなったように、思わず窓から顔を出した。


「あ~~~~……」


 エルデは口を大きく開けて、風の感触を楽しんでいた。流れ込む風に頬を押されながらも、その表情は実に楽しげで、まるで初めて乗り物に乗った子どものようだった。


 その様子を横目で見たアレクが、呆れ混じりに注意する。


「危ないからやめなさい」


「でも、面白いっすよ。師匠」


 悪びれた様子もなく答えるエルデに、アレクは小さくため息をつき、クロは思わず苦笑した。怒るほどのことではないが、油断すれば本当に落ちかねない。そう思わせる程度には、エルデの身の乗り出し方が大胆だった。


 クロは少しだけ視線を柔らげたあと、気持ちを切り替えるように端末へ目を向けた。


「エルデも、ちゃんと聞いていてくださいね。それで、店舗の改装はどの程度まで進んでいます?」


 クロの問いに、タンドールがすぐに姿勢を正した。


「内部の改装は、ほとんど終わっています。元がエアカーショップだっただけあって、そこまで大きく手を入れる必要がなかったのが幸いでした。ただ……」


 タンドールは端末を取り出し、ホロディスプレイを展開する。空中に淡く浮かび上がったのは、店内の図面だった。店舗スペース、作業場、搬入口、倉庫。各区画に細かな注釈が加えられており、改装の進捗がひと目で分かるようになっている。


 エアカーの窓の外では、コロニー内の景色がゆるやかに流れていた。通路脇の看板や立体駐車場の灯りが次々と後ろへ流れていく中、助手席のエルデだけはまだ窓に張りついたまま、楽しそうに外を眺めている。


「ただ?」


 クロが促すと、タンドールは少しだけ困ったように眉を下げた。


「作業場だけは、アヤコさんの意見がかなり強く反映されまして……その、結構な金額が発生しています」


 気まずそうな報告だったが、クロは思わず笑った。


「そこは、まあいいです。予算の範囲内ですよね?」


「はい。そこは厳守しています」


 タンドールが即座に答える。その声には、管理を任された者としての緊張と、きちんと守ったという自負が混ざっていた。


 前方では、アレクが視線を外さずにエアカーを操作している。車体がゆるやかにカーブを曲がったところで、後ろの席からポンセが身を乗り出し、ホロディスプレイの一部を指し示した。


「あと、追加で盗難センサーの配置変更と、排水浄化システム。それから、高性能空気浄化システムを制作ブースに導入しています」


「今ついているものでは駄目なんですか?」


 クロが首を傾げると、ポンセは少しだけ考えるように視線を図面へ戻した。


「駄目というわけではありません。ただ、用途が違いますので、専用のものを入れた方がいいとアドバイスをいただきました。予算内に収まっていたので、導入しています」


「わかりました。他に変更点は?」


 クロが確認するように尋ねると、今度はアンジュが静かに口を開いた。


「変更点ではないのですが、不思議がられました。特に、居住スペースを潰すことについては疑問を持たれましたね」


 アンジュが端末を操作すると、ホロディスプレイに表示されていた図面が二階部分へ切り替わった。


「一階は店舗と作業場、ミニドローンのレース場、バックヤード、それから事務所兼休憩スペースです。二階は貸し出し用の制作ブースと、バックヤード側からしか入れない会議室、訓練スペースなどですね。あと……謎のドアがあります」


 表示された二階部分には、本来なら居住スペースとして使われていたはずの区画が残っていなかった。生活感のある部屋はすべて消え、店と作業場、そしてクロたちの専用スペースへと作り替えられている。


 その中で、ひとつだけ用途の分からない扉があった。


 図面上ではただのドアにしか見えない。だが、周囲の部屋割りから妙に浮いており、そこだけ説明を避けるように、簡素な表示だけが残されていた。


 アンジュはそこを指し示しながら、少し困ったように眉を下げる。


「特にこのドアはなんだと、かなり不思議がられました。どう説明すればいいのか、正直かなり悩みましたよ」


 クロはホロディスプレイに映る謎のドアを見つめ、少しだけ目を細めた。


 たしかに、何も知らない者から見れば不自然だろう。


 壁に取り付けられただけの、意味のないドア。開いたところで、その先にあるのは壁しかない。


「まあ……そこは、説明できませんからね。転移用のドアにするためですと言っても、分からないでしょうし」


 クロが苦笑気味に言うと、アンジュは深く頷いた。


「はい。なので、遊び心で付けた飾り扉だということで、なんとか納得してもらいました」


「なるほど。無難ですね」


 クロはそう言って頷いたが、その声にはわずかな笑みが混ざっていた。


「クロねぇ。もうおもちゃ屋は開店っすか?」


 エルデは少し興奮した様子で、ホロディスプレイに映る図面を見つめていた。店舗スペースやミニドローンのレース場が並ぶ図面は、見る者によってはただの改装計画に過ぎない。だが、エルデにとっては、これから始まる楽しい騒ぎの予告図のように見えているらしい。


「まだですね。登録や細かな手続きが要りますので。その辺りは、サクラたちに任せていますよ」


 クロは落ち着いた声で答えたが、エルデの期待に満ちた顔を見ると、少しだけ口元が緩んだ。

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