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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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レッドライン帰還準備

 焼肉を楽しんでから数日。


 クロは基地型ゴーレムであるレッドラインの内部構造を考えたり、時折ギルドを訪れて現状を確認したりと、慌ただしく動いていた。


「内部は、かなり整ってきましたね」


「元がよかったので、そこまで大きくは変えていません。とりあえずこのまま使用を続けて、必要に応じてまた調整していければと思います」


 クロはアレクを伴い、クーユータが収容されているレッドライン内部のドックを、無重力のまま移動していた。


 元が軍用だったこともあり、ドックは広い。しかも数が多い。そこは、クロにとって予想以上に都合がよかった。


「クーユータもランドセルも、ドック内で分離と合体ができます。それに、バハムート本体も無理なく収容できる。これは大きなメリットですね」


 アレクの説明に、クロは周囲を見回しながら満足そうに頷く。


「上部ドックをランドセル用。中段ドックをクーユータ用。下部ドックをヨルハとバハムート本体専用に変更しました」


 アレクが説明しながら手を上げ、合図を出す。


 すると、上部階層と下部階層が静かに稼働した。頭上ではランドセルがドックアームによって固定され、下部ではバハムートとヨルハが鎮座している。


「これなら、クーユータだけを使用することもできますし、バハムートだけを外へ出すこともできます。もちろん、ランドセル単艦での運用も可能です」


 アレクがもう一度手で合図を出すと、ランドセルを固定していたドックアームが外れた。


 次の瞬間、ランドセルは静かに降下し、クーユータのドッキング部分へと滑るように接続されていく。固定機構が順に噛み合い、わずかな振動とともに合体が完了した。


「かなりいい出来ですね」


「はい。修理や補給も行うことができます。ただ、現在は物資がありませんので、戻ったら買い揃える必要がありますね」


 アレクが再び合図を送る。


 合体していたランドセルがゆっくりとクーユータから離れ、上部ドックへと戻っていく。ドックアームが再び展開され、ランドセルをしっかりと固定すると、階層部分が静かに閉じていった。


「エクスフラックは隣のドックにあります。最初に鹵獲したフラッシェルも、戻ったらこちらの整備ドックへ移動させましょう。ヴェルカス三機も含めてここで改装すれば、シゲルさんたちの手を煩わせることはないはずです」


「さすがに、製造までは無理ですか」


 クロが少し残念そうに言うと、アレクは素直に頷いた。


「そうですね。戦艦クラスの新造は無理です。ただ、思っていた以上に設備が残っていました。データがあれば、パーツ類の制作までは十分可能です」


 そこで、アレクの説明に少し熱が入り始める。


「内戦をテスト場として使っていた関係で、ここには製造区画があります。生産速度はさすがに専用工場には劣りますが、設計データと材料さえあれば、小さい物なら小型ドローン。大きな物なら、戦艦の一部パーツ程度までは生産可能です」


 クロはその言葉に目を細め、改めてレッドラインの内部を見渡した。


 ドック、整備区画、補給スペース、そして限定的とはいえ製造区画まで備えている。


 中継基地アルクシスではあるが、その内部は、もはや中継基地の一言では片づけられないほど整っていた。


「……思った以上に、便利な貰い物でしたね。これを墜とそうとしていたとは、勿体ない」


「はい。ですが、こちらとしては儲けものです」


 アレクは周囲を見回しながら、少しだけ表情を明るくした。


「製造データのライセンス料は高額ですが、正規ルートでメーカーから購入すれば、ここで生産できます。初期費用は重いものの、長い目で見れば十分回収できるかと」


「売ることも?」


「可能です。ただし、その場合は別に販売ライセンスが必要になります」


 アレクは端末を操作し、簡単なライセンス区分をホロディスプレイに表示する。


「自分たちで使うための製造ライセンスと、外部へ販売するための販売ライセンスは別扱いです。前者だけならまだ現実的ですが、後者まで取るとなると、審査も費用もかなり重くなります」


「なるほど。作るだけならまだ現実的でも、売るとなると一気に面倒が増えるわけですね」


「はい。ですが、正式な手順を踏めば商売にもできます」


 アレクの声には、わずかな期待が混じっていた。


「この設備をきちんと運用できれば、補修用パーツの自給だけでなく、将来的には小型ドローンや汎用部品の販売も視野に入ります。もちろん、法的な処理とライセンス管理が前提になりますが」


「……お金はかかりますが、使い方次第ではかなり化けますね」


「はい。とりあえず今は、改造パーツの生産あたりが現実的でしょうか。アヤコさんのドローン改造にも使えますし、うまくいけば個人ブランドの立ち上げも視野に入りますよ」


 そう言うアレクの表情には、先ほどまでとは違う熱があった。


 単なる鹵獲品の管理ではない。使い方次第で、今後の活動そのものを支える設備になる。そう考えれば、目の前にある製造区画は、ただの機械の集まりではなく、未来の可能性そのものだった。


「それは楽しみですね」


 クロもまた、少しだけ目を細める。


 アヤコがこの設備を見たら、きっと目を輝かせるだろう。シゲルも文句を言いながら、結局は細部まで確認し始めるに違いない。


 その光景を想像し、クロは小さく笑った。


「戻ったら、一度お父さんとお姉ちゃんにも見てもらいましょう。……余計な物まで作り始めそうですが」


「その可能性は、かなり高いですね」


 アレクが苦笑する。


 だが、その声にも嫌そうな響きはなかった。


 レッドラインの内部に漂う静かな機械音の中で、二人はしばらく、まだ形になっていない未来の話を続けていた。


 そして、とうとう帰る日が来た。


 クロは管制室の一番高い椅子に座り、膝の上のクレアを撫でながら、レッドラインへ声をかける。


「準備はいいですか」


「はい。問題ありません」


 スピーカーから返ってきたのは、クロとよく似た声だった。


 クロはわずかに眉をひそめる。


「やはり、声を変えません?」


「創造主であるバハムート様の声です。私はこの声がいいのです」


「わかりづらいです。変えなさい」


 きっぱりと言い切られ、しばらく沈黙が落ちる。


 やがて、しぶしぶという気配を滲ませながら、レッドラインの声が変わった。


「これでどうですか?」


 今度は、クロの声を少し男性寄りにしたような音声が管制室に流れる。


 クロは短く目を閉じ、諦めたように息を吐いた。


「……まあ、良いです」


 そう言ってから、ちらりと前の席を見る。


 そこでは、エルデがしょんぼりと沈み込んでいた。頭を操作パネルの上に乗せ、だらりと腕を垂らしている。いつもの元気はどこにもなく、背中まで丸まっていた。


「エルデ。いつまでもいじけない」


 クロに注意され、エルデはのっそりと顔を上げる。


「クロねぇ……でもっす……」


「でもも何もありません。ジュンは来ません」


 クロがぴしゃりと言い切ると、エルデはさらに肩を落とした。


「一緒にコロニーに来ると思ったっすのに……」


 その声には、本気で残念がる響きがあった。


 クロは軽くため息を吐く。


「気持ちはわかりますが、もう拗ねない。前を向きなさい」


 叱られたエルデは、ようやく身体を起こし、しぶしぶ前を向いた。


「それに、ジュンはまだやることがあるから一緒には行けないと、ちゃんと言っていましたよね。フロティアンからの調停団の対応などまだまだやることがあるって」


 クロの言葉に、エルデは唇を尖らせる。


「わかってるっす。でも、わかってても寂しいものは寂しいっす」


 その素直な返事に、クロは少しだけ表情を和らげた。


「なら、次に会った時に胸を張れるように、こちらはこちらで頑張りましょう。成長がないと、逆に呆れられますよ」


「それは嫌っす」


 エルデは勢いよく顔を上げると、ぐっと拳を握った。


「よし、頑張ってジュンを驚かすっす!」


 ようやく元気が戻ったところで、クロはアレクへ視線を向けた。


「アレク。周囲はどうです?」


 声をかけられたアレクは、すぐに周囲の確認へ入る。


 ホロディスプレイに映るセンサーには、特に反応はない。広がっているのは、静かな宙域と、レッドラインの内部を満たす低い機械音だけだった。


「大丈夫です。いつでも行けます」


「了解です。では、転移します。いきなりコロニーへ戻る前に、まずは無人宙域で周囲を確認しましょう」


 クロがそう告げた瞬間、レッドラインごとその場から姿が消えた。


 向かった先は、フロティアン国の一角。


 以前、ディープグランドを潰した宙域だった。


 バハムートブラスターの影響で、周囲には何も残っていない。残骸も、施設も、艦影もない。ただ、広すぎるほどの虚空だけが広がっている。


 そこに、レッドラインは静かに転移した。


「周囲確認」


 クロの声に、アレクたちが確認へ移ろうとする。


 だが、その前にレッドラインの声が管制室へ響いた。


「周囲に反応はありません。誰にも見られることなく転移できました」


 アレクたちが各端末を確認する間もなく、レッドラインは即座に答えた。


 その反応速度に、クロは思わず苦笑する。


「これ、本当に人手がいらなくなりそうですね」


 索敵、状況確認、各区画の管理。今まで人が確認していた作業の多くを、レッドライン自身が即座に処理してしまう。


 その様子に、クロは少しだけ感心したように息を吐いた。

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