守る者の役目
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アルクシスの周囲が欠けた姿を見て、バハムートは思わず頭を抱えた。
「セイクリッドラゴンたちからの攻撃も防いで、ちゃんと護ったのに……」
守り切ったはずだった。最後まで壊さないよう気を遣っていたのに、よりにもよって運ぶ段階で自分で欠けさせてしまった。その事実がじわじわと効いてくる。
今までの努力が少し無駄になったような気がして、バハムートはがっくりと肩を落とした。
「……まあ、中が無事なら問題ないんだが……なんだかな~」
ぶつぶつと嘆きながら、バハムートは後ろで静かに見守っている基地型ゴーレムのレッドラインへ視線を向ける。
アステロイド群に紛れるように佇む巨体は、相変わらず無言のままそこにあった。そこにアルクシスを組み込み、さらに使いやすく整える。その構想自体は間違いなく魅力的だった。
「まあ良い。とりあえず、これでお前の中身が整えられる」
そう言って、レッドラインよりもなお大きいアルクシスの表面をそっと撫でる。
傷ついた外殻も、欠けた岩肌も、今となっては自分の所有物だと思うと妙な愛着すら湧いてくる。少しくらい欠けたところで致命的ではない。そう自分に言い聞かせるように一度頷くと、バハムートはゆっくりとレッドラインの方へ向き直った。
「取り込んで、使える部分と使えない部分を把握して、簡易的に内部を整えておいてくれ」
バハムートが指示を出すと、レッドラインの表面に文字が浮かび上がる。
『さすがに適当が過ぎませんか? それに、大きさがかなり違いますし、必要ですか?』
端的ではあるが、はっきりと抗議の色が見える返答が浮かび上がる。
「いやいや、別にいいだろ。わざわざ専門知識を入れ込んだ端末も渡したし、血石も追加しただろ」
バハムートが反論すると、再び文字が浮かび上がる。
『それは、私とアレクたちで相談し、お腹の中に設備を一から設置していくことが前提でした。ですが、バハムート様は基地そのものを持ってこられた』
その文のあとに、今度は悲しそうな絵文字まで浮かぶ。
『私、要らないじゃないですか。これで良いじゃないですか。折角、頑張って勉強したというのに』
バハムートはしばし沈黙したあと、思わず目を逸らす。
言われてみれば、その通りだった。少しずつ内部を整えていくはずが、丸ごと中継基地を持ってきてしまったのだ。
「いや、要る……要るよ」
言いながらも、どうにも声に勢いがない。
『なぜ、視線を逸らすんですか?』
即座に返ってきた文字に、バハムートは思わず顔をしかめた。
妙なところだけ鋭い。
バハムートは小さく息を吐き、ようやく視線を戻した。
「いいか。確かに、これで基地は完成する。だから、お前の努力が薄れたように見えるのかもしれん。だが、できたら終わりというわけじゃない」
そう言って、バハムートはレッドラインへ手を当て、その表面を優しく撫でる。
「内部は今、揃っただけだ。これからそれを再配置したり、足りなければ追加したりもする」
『……』
(わざわざ文字で無言を示さなくても)
そう思いながらも、バハムートは呆れを飲み込み、まるで拗ねた子供に言い聞かせるように続けた。
「それに、この規模の基地施設だ。手に入れて終わりじゃない。維持して、守って、動かし続ける奴が要る。普通なら大勢の人手が必要になる。けれど――」
そこで、ぐっと拳を握る。
「レッドライン! それをお前は全部できる! 人手など不要だ!」
『!』
浮かび上がった文字が、明らかに反応した。
「確かに、制作の工程は端折った。だが、お前の本番はこれからだ!」
バハムートの声に、徐々に熱が入っていく。
「お前は俺の……いや、俺たちを護る守護者になるんだ!」
その言葉は、先ほどまでの誤魔化し混じりの慰めとは違っていた。
勢い任せではあったが、そこに込められた期待だけは本物だった。アルクシスを手に入れても、それを守り、動かし、整え続ける中心が必要になる。その役目を担うのは、間違いなくレッドラインだった。
しばらくして、レッドラインの表面にゆっくりと文字が浮かび上がる。
『……守護者』
短い一文だった。
だが、その文字には、先ほどまでの拗ねた気配はもうあまり残っていなかった。
代わりに、どこか照れたような、そして少しだけ誇らしげな響きが滲んでいるようにも見えた。
バハムートは、その反応に小さく笑う。
「そうだ。だから落ち込む暇はないぞ。まず、取り込んで、使えるものを把握して、整えてくれ」
『わかりました。皆を守護するため、頑張ります』
浮かび上がった文字には、力強く燃えるような絵文字まで添えられていた。バハムートはそれを見て、ほっと息を吐く。
「勢いだけで説得したが、何とかなったか」
『何か言いました?』
「言ってない」
即座に返ってきた文字に、バハムートは今度こそ苦笑した。
どうやら、機嫌はだいぶ戻ったらしい。




