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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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拠点の運び方

【お休みのお知らせ】

明日からお休みをいただきます。

再開は5月4日(月)を予定しております。

ご不便をおかけいたしますが、何とぞよろしくお願いいたします。

 ワームホールが消える。


 それに合わせるように、デストロイヤーも完全に消え去り、その場に残ったのは、セイクリッドラゴンだったもののわずかな残骸だけだった。砕けた装甲片が静かに宇宙を漂い、かつて黄金の聖神の象徴として威容を誇っていた機体は、もはや見る影もない。


 その中で一つ、紋章の入った装甲の破片が、ゆっくりとバハムートの前へ流れてくる。


 威厳を示す最後の名残のようなその破片を、バハムートはおもむろに手に取った。


 指先で摘ままれた破片は、あまりにも軽い。思わず、ふんと鼻を鳴らすと、次の瞬間、一気に握りつぶした。


 金属が悲鳴を上げるような音を立ててひしゃげ、さらにフレアが灯り、装甲片は一瞬で塵へと変わった。


 紋章も、威光も、名誉も、誇りも、何もかもを含めて、最後には指の間からこぼれる灰にすらならず、宇宙へ消えていく。


 バハムートは背後を振り返る。


 そこには、すでに避難を終えた戦艦の姿はなかった。


 神との会話を聞かれていないことを確認すると、ようやく小さく息を吐く。そして、思いきり伸びをした。戦闘の緊張を振り払うように背を反らし、元の大きさへ一度戻した翼も、疲れを取るようにぱたぱたとゆっくり動かす。


 黒い巨躯に似つかわしくない、どこか気の抜けた仕草だった。


 面倒ごとを押しつけられた気分だった。


「う~~ん。神に絡まれる。これも女神のせいなのか? それならビンタを追加したいな」


 まるで迷惑な客に絡まれた店員のようなことを考えていると、端末に通信が入る。


「クロ君! 無事なのか!」


 飛び込んできたのは、タイソンの声だった。


 真っ先に発せられたのは、戦況ではなく安否を問う言葉だった。


 クロを気遣うように尋ねるタイソンに、バハムートは思わずマスクの下で笑みを浮かべる。


 真っ先に無事かと聞かれたことが、少しだけ嬉しかった。つい先ほどまで面倒な話を押しつけられていた反動もあったのだろう。ただ自分の無事を案じる声が、妙に心に沁みた。


「タイソン大佐、久しぶりですね。私は無事ですよ。こちらは片付きました」


 クロは何事もなかったように、タイソンへ言葉を返す。


 その口調に揺れがないことが、かえってタイソンを安堵させた。


「そうか……遅くなって申し訳ない。今、予定ポイントに辿り着いた」


 短い謝罪の中に、安堵と悔しさが滲んでいた。タイソンの性格を思えば、なおさらだった。


「大丈夫ですよ。あまり強くなかったですし、想定外のことはありましたが、それも終わりましたし」


 クロは軽く答える。


 だが、その「あまり強くなかった」が、どれほど常識外れの感想かは本人だけがわかっていない。


「……あれだけの戦力に、強くないとはな」


 タイソンはクロの言葉に、苦笑いするしかなかった。


 通信越しでも、呆れと安心が入り混じったような顔をしているのが想像できた。二つの艦隊戦規模の脅威に加え、途中からはデストロイヤーまで絡んでいたのだ。それを「あまり強くなかった」で済ませるのだから、苦笑いするしかない。


「あまり残っていなかったですが、黄金の聖神やマルティラ軍の戦艦などを、そちらのポイントの方に逃げるようにしましたが、どうなってます?」


 そんなタイソンの気持ちを知らず、クロは気になっていたことをそのまま尋ねる。


 逃がしたというよりは、生き残る道としてそこへ追いやったに近い。この場に残っても無駄に死ぬだけだと判断したからだ。


「包囲して投降を促していた。今、それを受け入れて武装解除に入るところだ」


 タイソンの返答は簡潔だったが、状況は十分に伝わった。


「地上はどうなってます?」


「そちらは、もうすぐ終わるだろう。ユウタの敗北は伝えた。これにより黄金の聖神は終わるだろう」


 その言葉を聞き、マルティラⅡでの戦いは一段落したのだと、ようやく現実味を持って胸に落ちてくる。


「後は任せてもいいですかね」


「もちろんだ。ありがとう」


 タイソンの最後の言葉には、心の底からの敬意と感謝が滲んでいた。


 バハムートはそれを聞き、思わずまた笑みを浮かべる。戦いそのものは終わっても、その後始末まですべてを背負う気はない。


 通信を終えたバハムートは、再び視線を巡らせる。


 そこには、残骸が漂い、静まり返った宙域の中に、中継基地アルクシスだけがぽつんと残されていた。墜ちれば大災害を引き起こすはずだった巨大構造物が、今はもう自分の物も同然のように、ただそこに漂っている。


「さて」


 バハムートはアルクシスへと近づくと、その表面を軽くぽんぽんと叩いた。


 叩かれた外壁から鈍い感触が返ってくる。小惑星をくり抜き、基地として整えられた巨大な塊は、すでにバハムートの頭の中で別の姿へと変わり始めていた。


 これをアステロイド群まで運び、レッドラインに取り込ませる。


 そうして、秘密ではない秘密基地という名の拠点にするのだ。


 頭の中ではすでに、内部をどう整えるかまで思い描かれていた。必要なものを揃え、使いやすく改修し、そこから威風堂々と飛び出していく。


 考えれば考えるほど、胸が少しずつ弾んでいった。


「カッコいい! 後は、レッドラインに運ぶだけ……」


 そこまで言って、ふと首を傾げた。


 戦うことも壊すことも、止めることもできる。だが、こうして巨大な小惑星をどうやって安全に、しかも誰にも疑われることなく運ぶかまでは、特に考えていなかった。


「どうやる?」


 そこで、ぴたりと動きが止まる。


 バハムートはしばらくその場に佇み、本気で考え込む。宇宙空間に浮かぶ巨体と、小惑星級の中継基地。その取り合わせは壮大なのに、やっていることは妙に地味だった。


 引っ張るか。


 押すか。


 別空間に仕舞うか。


 どれもできはする。だが、雑にやれば壊れるし、別空間に仕舞えば目立ち過ぎる。結局、いちばん単純な手に戻ってしまう。


 しばらくの沈黙ののち、バハムートはぽつりと呟いた。


「転移しよう。問題になったら、アリ達にごまかしてもらおう」


 結論は、あまりにも単純だった。


 そう言うと、アステロイド群に佇むレッドラインの方角を見定め、アルクシスへと両手を当てる。


 そして、そのまま転移し、姿を消した。


 バハムート本人にとっては、それが一番早くて、一番確実だった。


 視界が切り替わる。


 次の瞬間、バハムートの目の前には、アステロイド群に隠れる基地型ゴーレム、レッドラインがあった。


 だが、ここでアクシデントが起こる。


 転移してきたアルクシスは、その大きさゆえに周囲の隕石や小惑星へぶつかり、あちこちを欠けさせてしまう。鈍い衝撃音が連続して響き、岩塊が砕け、破片が四方へ散っていく。


 その光景を見た瞬間、バハムートの動きがぴたりと止まった。


「ああ! やっちゃった!」

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