閃光の奥
たった一体と大部隊の戦いは、バハムートが放った二つの必殺技によって、すでに趨勢が決していた。
バハムートは無傷のまま、その場に悠然と立っていた。
対するユウタたち――黄金の聖神は、ほぼ壊滅状態だった。
戦艦は六隻程度しか残っておらず、席持ちもテンダーとアンガーのみ。その他の者たちは皆、塵となって消えていった。
マルティラ軍は後方に展開していたこともあり、黄金の聖神ほどの被害ではない。だが、それでも残った戦艦は十数隻程度にまで減らされている。
もはや、この場に残った戦力でバハムートを止められる可能性があるとすれば――ユウタが乗るセイクリッドラゴンしかなかった。
「ずいぶん減りましたね。先ほども言いましたが、降参するなら今ですよ」
「ぬかせっ! 弟の仇!」
クロの言葉に真っ先に反応したのは、テンダーだった。
両手の粒子キャノンをクロのいる疑似コックピット目掛け、雄叫びとともに突撃しながら撃ち込んでくる。
だが、バハムートはその攻撃を片手で受け止めた。
「ふざけるなぁぁぁっ!」
なおも止まらず正面から突っ込んでくるテンダーを、バハムートは羽虫でも叩き落とすように、ただ一振りする。
次の瞬間、小さな爆発音とともに、テンダーの乗るRFは粉々に砕け散った。
「テンダー!?」
アンガーの怒声が、遅れて宇宙へ響く。
だが、クロはそれを意にも介さない。
「いい加減、現実を見なさい。もう十分わかったでしょう。貴方達では敵わないんですよ」
「……確かに。だが、これで終わりだ」
ユウタがそう言った瞬間、アルクシスの巨大なブースターに火が入る。
低く唸るような振動を響かせながら、巨体はゆっくりと、だが確実に速度を上げ、地表に向けて進み始めた。
その進路が意味するものを察し、空気が一変する。
「どうします? 止めないと被害が出ますよ」
勝ち誇った声音で告げるユウタに、バハムートは苛立ちを吐き捨てるように視線を向けた。
「よくもまあ! 余計な真似を!」
壊すだけなら簡単だ。だが、それでは意味がない。傷を増やすつもりも、落とさせるつもりもなかった。
直後、黒い巨体が一気にアルクシスへ向かって駆ける。
それを止めるようにアンガーや残った部隊が動こうとした。だが、ユウタのセイクリッドラゴンが前に出て、その動きを制する。
「ユウタ様! 何故止めるんです、今がチャンスですよ」
「……まだだ」
薄笑いを浮かべたまま、ユウタはアルクシスを両手で止め始めるバハムートへ視線を向ける。
「やっぱりな。壊したくないんだろ?」
愉快そうに目を細め、吐き捨てるように続けた。
「だったら、それがお前を縛る鎖になる」
ユウタの考えを裏付けるように、バハムートは真正面からアルクシスを受け止めていた。
巨大なブースターが唸りを上げ、押し潰すような推力が加わる。だが、バハムートは退かない。両腕でアルクシスを押し、地表へ向かおうとする推力を真正面から受け止める。
次の瞬間、バハムートの翼がひときわ大きく羽ばたいた。
重く荒々しい衝撃が宇宙へ広がり、アルクシスはゆっくりと、その速度を落とし始める。
「今だ。背後から集中攻撃開始だ」
ユウタの号令とともに、セイクリッドラゴンが再び翼を大きく広げる。
そこから放たれた黄金の光が、残った戦艦とRFを先ほど以上に神々しく包み込んだ。淡く見えた光は一瞬で濃さを増し、残存戦力へと力を流し込んでいく。
「数が少なくなった分、多くの加護を集中できる。性能は先ほどとは比べものにならないほど上がってる」
「さすがユウタ様! 残ったやつら、俺様に続け!」
アンガーが吠える。
その声に呼応するように、残ったRFと戦艦が一斉に動き出した。
セイクリッドラゴンもまた、その巨体を誇示するように進み、バハムートの背後へと位置を取ると、次の瞬間、翼から無数の光の槍が生み出された。
さらに尾部が分離し、両手へ収まる。そこから形状が変わり、長大で重厚な、金色に輝くバスターライフルへと変形した。
アンガーたちもセイクリッドラゴンを中心に陣形を整えていく。
まるで、この一撃にすべてを賭けるかのように。
「クロ、終わりだ」
「終わり? それよりアルクシスを止めなさい。このままだと落下位置がずれて、あなたの本部に落ちますよ」
「問題ない。そうなれば、君のせいだ。テイルバスターライフル、フルチャージ。神ノ槍ケラウノス、発射」
「全員、ユウタ様に続け! 攻撃開始ィ!」
号令と同時に、黄金の加護をまとった砲火が一斉に解き放たれた。
翼から生み出された光の槍が、間断なく降り注ぐ。無数の光条は尾を引きながら一直線に飛び、バハムートの背へ殺到した。
さらに、テイルバスターライフルが巨きな閃きを吐く。
収束された黄金の奔流は、空間そのものを引き裂くような勢いで放たれ、真っ直ぐにバハムートの背へ叩きつけられた。
そして、アンガーたちもまた、先とは比べものにならない火力で同時に撃ち込む。
加護によって底上げされた砲撃、ビーム、粒子の奔流が一点へ集中し、黒い巨体を呑み込むように炸裂した。
「ははははははっ! クロ、バイバイ!」
ユウタの勝ち誇った声が、直撃したはずの一点へ向けて放たれる。
炸裂する光は幾重にも重なり、眩い爆光となって周囲を染め上げた。
閃光は視界を白く塗り潰し、遅れて押し寄せた衝撃が宇宙空間へ荒々しく広がっていく。
その中心は、なお白く灼けついたまま何も見えない。
バハムートの姿は、爆ぜる光の奥に呑まれたままだった。




