黒翼と牙の分岐点
スケイリスターは、迫り来るRF群へ真っ直ぐ躍りかかった。
左手に持つフォトンバスターを構えると同時に、薙ぎ払うように砲撃を放った。緑の閃光が一直線ではなく広がるように走り、その軌道上にいた数機のRFをまとめて呑み込んでいく。呑まれた機体は耐える間もなく爆ぜ、火花と残骸を散らしながら次々と墜ちていった。
その直後、敵機からの反撃が一斉に始まる。
「スケイル。機動」
アレクの声と共に、スケイルウイングが大きく広がった。
次の瞬間、翼を形成していた装甲板が一斉に切り離される。黒い翼の内側から露わになったのは、白い翼だった。漆黒の外装の下に隠されていたそれは、意外なほど鮮やかで、戦場の中ではかえって異様に映る。そして分離した無数の装甲板――『スケイル』が、スケイリスターの周囲を漂うように展開した。
「スケイル。オートガード」
その一言と共に、スケイルが一斉に行動を開始する。
迫り来るビーム、実弾、ミサイル。次々と飛来する攻撃に対し、厚い装甲板が自律的に動き、射線へ滑り込むようにして防ぎ始めた。受け止め、弾き、逸らし、爆発を肩代わりする。まるで機体の周囲に幾重もの移動盾が張り巡らされたようだった。
スケイリスターは、その防護を纏うように前進しながら、今度はバックキャノンを放つ。背部武装から撃ち出された砲撃は重く鋭く、敵機を確実に捉えていく。回避が遅れたRFは、そのまま撃ち抜かれ、爆散した。
敵機もすぐに判断を切り替えた。遠距離からの攻撃では削れない。そう見たのか、隊列を変えながら一気に接近戦へ移ってくる。
「スケイル。セイバーモード、切り裂け!」
命令が飛ぶ。
その瞬間、周囲を漂っていたスケイルの縁から光刃が一斉に展開した。盾だった装甲板が、そのまま刃へと変わる。無数の浮遊刃と化したスケイルは、迫るRFへ向けて一斉に躍りかかった。
撃ち落とそうと迎撃の火線が走る。だが、すでにそれが無駄だという事は証明されていた。ビームも実弾もスケイルを止め切れず、そのまま貫かれ、爆発する機体が出る。
ビームサーベルを抜き、辛うじて一枚と切り結んだ機体もあった。だが、次の瞬間には別のスケイルが死角から滑り込み、その腕を切り落とす。生じたわずかな隙を逃さず、残る刃が機体の胴を無残に断ち切った。
またある機体は、急にスケイルの姿が消えた事で一瞬だけ動きを止める。次の瞬間、その視界を埋めたのは緑の閃光だった。フォトンバスターの一撃に呑み込まれ、何も出来ないまま光の中へ沈んでいく。
一方的だった。攻防と呼ぶにはあまりにも差が大きく、勝敗はあっけないほど早く決した。
「エルデ。こちらアレク。ヨルハさんに、後ろは気にしないでいいと伝えてくれ。俺が止める」
『ようやく呼び捨てっすね。了解っす、伝えるっす』
エルデのどこか興奮した声が返り、通信が切れる。
アレクは、自分の口から自然に出たその言葉にわずかに目を瞬かせたが、すぐに前を向いた。
レーダーには、また抜けてきたRFの反応。そして、大きく回り込むように進んでくる戦艦の反応まで映し出されている。数はまだ多い。だが、臆する理由にはならなかった。
スケイルを翼へ戻す。黒い装甲板が次々と背へ集まり、再び巨大な翼の形を取っていく。その動きを確かめながら、アレクは前方を見据えた。
「俺は、腐っても元Aランク。この程度、スケイリスターならやれる!」
そう言い切ると同時に、迫る戦艦群から砲撃が放たれる。幾筋もの光が空間を裂き、真っ直ぐにスケイリスターへ殺到した。
だが、アレクは怯まない。
「スケイル、発動」
再展開したスケイルが一斉に前へ出る。厚い装甲板が幾重にも重なり、飛来した砲撃を真正面から受け止めた。閃光と爆炎が連続して咲く。だが、その向こう側でスケイリスターは揺らがない。防ぎ切ったのではない。受け止め、押し潰し、無効化したのだ。
「それに、反則級の社長の鱗を使わせてもらってるんだ。出来ない方がおかしい」
自嘲気味にそう言いながらも、その声には確かな自信があった。
次の瞬間、スケイリスターが跳ぶ。
黒き機体はその勢いのまま、抜けてきた部隊へ一直線に食らいついた。その動きは重装の見た目に反して鋭く、まるで獲物へ食らいつく猛禽のようだった。戦場の空気が一変する。エクスフラックを狩り取るはずだった部隊は、今や逆に、黒い死神に狩られる側へ回っていた。
ヨルハは困惑していた。
「ぐっ……一気に食い破り、殲滅したいが……」
だが、ここで前に出過ぎればエクスフラックが危険に晒される。それが分かっているからこそ、思い切った踏み込みが出来ない。思うように戦えないもどかしさが、胸の内でじわじわと苛立ちへ変わっていく。
本来なら、正面から食い破って終わるはずだった。にもかかわらず、物量と統率の前に一気に叩き潰す形へ持ち込めない。さらに、護るべき者がいるという枷が、自分でも気づかないうちに戦い方を狭めていた。
「私が食い止めなければ!」
気がつけば、思考はその一点へ偏っていた。突破する事でも、潰し切る事でもない。ただ止めなければならない。その意識ばかりが強くなり、本来の荒々しくも鋭い戦い方が鈍っていく。
そうしてヨルハは、知らぬ間に自ら苦しい戦いへ入り込んでいた。




