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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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黒翼が戦場へ食い込む時

 バハムートたちの戦いが始まると同時に、ヨルハたちの戦いも幕を開けた。


 ヨルハは、エクスフラックへ向かう部隊の迎撃に入る。


 遠距離から降り注ぐ戦艦のビーム砲。追いすがるように飛来するミサイル。さらに間断なく仕掛けられるドローンの特攻攻撃。だが、ヨルハはそんな猛攻にも臆することなく、全身にストームアーマーを纏ったまま敵陣の中央を食い破るように突き進んでいく。


 放たれた攻撃はことごとくストームアーマーに阻まれ、ヨルハ本体には一切のダメージが通らない。爆炎が立ち上ろうが、閃光が炸裂しようが、その黒い巨体は揺らぎすら見せなかった。


 だが、そこでヨルハの勢いがわずかに鈍る。


 今まで相手にしてきたアウトローたちのような、散発的で雑な攻撃ではない。目の前の敵は統率が取れていた。厚みのある弾幕が絶え間なく重なり、間合いも進路もきっちり管理されている。その整った攻撃の連なりが、さしものヨルハの勢いを削いでいく。


 さらにRF部隊は、無暗に接近せず一定の距離を保ったまま包囲を完成させた。ひとつを追えば別の機体が射線を通し、飛び込めば外側が引いて陣形を崩さない。崩しにくい、無駄のない動きだった。


「鬱陶しいですね」


 ヨルハは低く唸るように吐き捨て、迫る機体を爪で切り裂いていく。だが、相手もまた上手く距離を取る。まとめて薙ぎ払える位置へ固まらず、常に散りながら射線だけは重ねてくる。そのせいで決定打を一気に叩き込めず、ヨルハは少しずつ翻弄されていく。


「なら、これで」


 次の瞬間、ヨルハの口内に黒い炎が溢れた。禍々しく揺らめくそれは、熱ではなく存在そのものを削り取るような危うさを孕んでいる。


 ヨルハはそのまま体を捻り、回転しながら周囲一帯をまとめて薙ぎ払うように狙いを広げた。


「フレアブレス」


 言葉と共に放たれた黒き奔流は、包囲していたRF群を一気に呑み込む。逃れる暇もなく触れた機体は次々と消し飛び、黒炎の軌跡だけを残して周囲の空間が大きく抉られた。先ほどまで鬱陶しいほど重なっていた包囲網は、その一撃で吹き飛ばされる。


 だが、それで終わりではなかった。後詰めがすでに前進していたのだ。


 消えた穴を埋めるように、後方から新たなRFが再び囲み始める。しかも今度は、正面から抑えるだけではない。ヨルハが薙ぎ払った隙を突くように、背後へ抜け出ようとする機体まで現れ始めていた。


 数を削っても、すぐ次が出てくる。潰しても潰しても食らいついてくるその執拗さに、戦場の圧はさらに濃さを増していく。


 傷ひとつ負っていない。だが、統率の取れた攻撃は確かにヨルハの足を止めていた。


 そのヨルハを抜けてきたRFへの対処のため、エクスフラックも動き始めていた。


『アレクさん。RFが接近中っす! 数は14!』


 黒いパイロットスーツに身を包んだアレクは、ヘルメットの内側に響くエルデの声を聞き、一度だけ目を閉じる。


 そして、ゆっくりと開いた。


 その表情には緊張感があった。だが同時に、わずかな笑みも浮かんでいる。恐れていないわけではない。それでも、戦える状況に身を置いた事で、闘志が前へ出ていた。


「すぐさま射出してくれ」


 そう言うと、アレクはぐっとアームコンソールを握り直した。


『カタパルトオープンっす。リニア起動』


 次の瞬間、コンテナが宙へ浮かび上がり、そのままカタパルトへ固定される。各部ロックの作動音が短く重なり、射出準備が一気に整っていった。


『いつでも行けるっす!』


「アレク、出る!」


 その言葉と共にフットペダルを踏み込む。


 瞬間、コンテナに装備されていたブースターが一斉に点火した。カタパルトの直線加速に、ブースター自身の推力が強引に重なり、機体は弾き出されるように前方へ射出されていく。


「ぐっ……!」


 体が強烈にシートへ押しつけられる。慣性緩和が働いていても、内臓ごと後ろへ引かれるような重圧までは消し切れない。


「それでも、きついな……!」


 それでもアレクは歯を食いしばり、正面を見据えた。


 次の瞬間、思考操作でコンテナをパージする。


 小さな爆発音と共に、外殻が弾けるように四散した。その中から飛び出したのは、漆黒の機体だった。全身を包む黒い装甲に、機体そのものを覆い隠すような硬質の外装が重なり、その姿はまるで闇そのものが形を成して飛び出してきたかのように見える。


『あれが……』


 ジュンが息を呑んだ、その直後だった。


『秘密兵器っす!』


 エルデの興奮した声が、ヘルメットの内側へ弾むように響く。


 アレクはその声を聞き流しながら、機体の状態をひとつずつ確認していく。


「スケイルウイング、オープン。フォトンバスター起動。バックキャノン正常。粒子エンジン、戦闘起動確認」


 言葉にするたび、各部の反応が返ってくる。


 全体を覆っていた翼状ユニットが左右へ展開する。開いたそれは、幾重にも重なった漆黒の装甲板が連なる巨大な翼へと変わった。一枚一枚が羽というより刃に近く、鋭さと重厚さを兼ね備えている。その輪郭はどこかバハムートを思わせた。


 頭部には、天へ突き上げるような二本の角。双眸は妖しく緑に輝く。バハムートを思わせる竜の意匠を核にしながらも、こちらは王者というより、戦場に現れた死神のような冷たさを帯びていた。


 黒い装甲には赤いラインが走り、胸部装甲は厚く鋭い。腰から脚部にかけての線は流麗でありながら、切っ先を思わせる殺気を宿している。


 左手には高出力のフォトンバスター。背部武装も低く唸りを上げ、粒子エンジンが戦闘用の出力へ移行していく。眠っていた兵器が、ひとつずつ目を覚ましていくようだった。


 その姿は、黒い翼を持つ魔竜を人型へ無理やり押し込めたようでもあり、バハムートの威容を別の方向へ研ぎ澄ませた異形でもあった。王の風格ではない。暴力と死を予感させる、静かな恐ろしさだった。


 アレクは操縦桿を握り込み、口元にわずかな笑みを浮かべる。


「いけるな。スケイリスター」


 名を呼ぶその声音には、不安よりも確信が強く滲んでいた。


 黒きRFはその名に応えるように、鋭く加速した。アレクの口元には、わずかな笑みだけが残っていた。

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