断罪の翼が問うもの
お詫び
途中の文章が消えてしまっていたため、追加修正いたしました。
申し訳ございませんでした。
残骸の散らばる戦場の中央へ、バハムートが着地した。ほどなくして、ミカリエスとセフィレイムがその顔の高さまで浮かび、三機が対峙する形となった。
砕けた装甲板、焼けた地面、放置された機体の残骸。戦いの爪痕が色濃く残るその中心で、奇妙な静けさだけが場を支配している。大部隊が周囲に展開しているにもかかわらず、この一点だけが不自然なほど張り詰めていた。
その中で、ミカリエスはひときわ異質な威容を放っていた。
全身は、陽光を凝縮して打ち固めたような黄金の装甲に覆われていた。だが、ただ豪奢なだけではない。胸部、肩部、腰部に至るまで装甲は鋭く重なり合い、流麗さの中へ獰猛さを潜ませている。頭部は王冠を思わせる尖鋭な意匠でまとめられ、その中央で赤く灯る双眸が、まるで獲物を見定める神の視線のように鋭く光っている。
背には、巨大な白い翼が幾重にも広がっている。羽毛のように見えるそれは実体のある装甲翼であり、一枚一枚が刃のような鋭さを秘めながら、神々しさすら感じさせる白を湛えていた。さらに腰の後方からは黄金の鎖にも似た細長いユニットが幾本も垂れ、揺れるたびに冷たい金属音を響かせる。その姿は天使を模しているようでいて、祈りではなく断罪のために造られた異形そのものだった。
右手には長大なランスじみた武装を携え、左腕から肩へかけての装甲もまた、近接戦を前提にした重厚な作りになっている。美しい。だが、その美しさは見る者を安堵させる類のものではない。近づけば切り裂かれると本能が告げる、冷たく研ぎ澄まされた美だった。
クロは疑似コックピットを出た。すると、ミカリエスの頭部にあるコックピットも開き、そこから白いパイロットスーツを着たジャッジが姿を現した。
「話がしたいと聞いて来てみれば、随分な歓迎ですね。ところで、そのRF、元はプラモデルですか?」
クロは少し嫌味を交えながら、同時に純粋な疑問も投げかける。
それに対し、ジャッジはわずかに苦笑して答えた。
「ええ。元はフルスクラッチのプラモデルです。それが奇跡によって本物となった。今の技術を凌駕するRFです。セフィレイムも同様ですよ」
「そうですか。製作者のセンスは素晴らしいですね。……で、この歓迎は何ですか?」
機体そのものへの感想は素直に口にしつつも、クロはすぐに本題へ戻した。
ジャッジは申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、言葉だけははっきりと返した。
「必要な事です」
短くそう答えると、ジャッジはひとつ深く頭を下げた。周囲に大部隊を並べてなお、礼を尽くそうとする。その奇妙な誠実さだけは本物だった。
「クロさん。貴方に依頼したい事があります」
「依頼、ですか」
クロはわずかに目を細める。
この状況で交わされるには、あまりにも不釣り合いな言葉だった。戦場の中央で、大部隊を背負った相手から告げられる依頼。その不自然さが、かえってこの場の異様さを際立たせていた。
ジャッジは頷くと、真っ直ぐにクロを見つめる。
「ですが、その前に、クロさんの力を知りたい。貴方が守れるか。依頼を託せるか。その力を示してください」
静かな口調だった。挑発ではない。試すという意思を、隠そうともせず正面から差し出してくる声音だった。
言い終えると、ジャッジは躊躇なくコックピットへ乗り込む。白いパイロットスーツの背が装甲の内側へ消え、すぐにハッチが閉じた。
「後方の味方艦を守り抜けたら、クロさんの勝ちです。向かわせるのは無人機ですので、遠慮なく」
次の瞬間、ミカリエスのツインアイが鋭く光を帯びる。
それは会話の終わりを告げる合図であり、同時に、ここから先は言葉ではなく力で語れという宣言でもあった。
クロもすぐに疑似コックピットへ入る。
「ヨルハは部隊の撃破を。アレクはすぐさま出撃。ジュン、エルデは無理をするな。危なくなったら逃げろ」
短く、だが迷いのない指示が飛ぶ。その声を受け、それぞれが即座に動き出した。
バハムートの肩から飛び出したヨルハは、そのまま迫り来る戦艦とRFの群れへ向かって駆ける。黒い影が一気に加速し、戦場の空気を裂くように前へ躍り出た。
「行きますよ。プラズマカノン!」
「ビームランチャー!」
ほぼ同時に、ミカリエスとセフィレイムからバハムートへ向けて砲撃が放たれる。重く唸るようなエネルギーの奔流が一直線に突き進み、残骸の散らばる戦場を白く灼いた。
爆光がバハムートの巨体を呑み込む。
だが、真正面からそれを受けてもなお、バハムートは微動だにしなかった。ただその場に佇み、黒き巨体で砲撃のすべてを受け止めている。その姿は防いでいるというより、最初から脅威として数えていないと言った方が近かった。
「この程度ですか?」
クロの声は静かだった。侮りでも虚勢でもない。ただ事実を確かめるような、冷たい響きだった。
それに対し、ジャッジの声もまた落ち着いていた。
「いえ。この程度では困りますよ」
その返答には、まだここから先があるという確信が滲んでいた。
「なら、今度はこちらから。絶対に避けて下さいね」
そう言うと、バハムートは鋭く拳を繰り出す。
放たれた拳は真っ直ぐにセフィレイムへ叩き込まれた。だが、セフィレイムはその巨拳を紙一重で躱し、滑るように軌道を外れる。重いはずの機体とは思えない、洗練された回避だった。
「ブレードソーサー!」
回避と同時に、セフィレイムの背後から小型の高速回転ドローンが射出される。幾枚ものビーム刃を展開したそれらは、唸りを上げながらバハムートの拳へ殺到した。切り刻むつもりなのだろう。だが、結果はまるで違った。
刃は黒い拳へ触れた瞬間、切断どころか傷ひとつ刻めないまま弾かれ、そのまま衝突して爆ぜる。火花と爆炎だけが散り、バハムートの拳はなおも揺るがなかった。
「轟雷砲」
セフィレイムが離脱した直後、今度はミカリエスが動く。
巨大な白翼を広げると、その周囲に雷光が奔り始めた。空間を軋ませるような稲妻が次々と生まれ、黄金のランスの切っ先へ収束していく。光は凝縮され、唸り、暴れ狂う雷そのものが一撃へ変わっていく。
そして、それは一直線にバハムートへ放たれた。
だが、バハムートもまた即座に応じる。
「フレア」
黒き力が前方へ解き放たれる。
轟雷と漆黒の力が真正面からぶつかり合った瞬間、空間が大きく震えた。激突した衝撃は閃光となって弾け、互いの力を削り合いながら、やがて相殺されるように消えていった。
残ったのは、戦場を吹き抜ける衝撃の余波と、さらに濃くなった緊張だけだった。三機は睨み合い、次の一手だけを待つように対峙していた。




