前触れ
【お休みのお知らせ】
モンスターの卵を集め、太刀を握って狩猟に出かけるため、
一週間ほどお休みをいただきます。
無事に討伐を終えましたら、4月3日より更新を再開いたします。
ご不便をおかけいたしますが、何とぞよろしくお願いいたします。
「報告は以上です。簡易端末は回収済みです」
アレクはそう言うと、ジャケットのポケットから簡易端末を取り出して見せた。
クロはそれを見て小さく頷くと、ふと一つ疑問を口にする。
「そう言えば、宇宙の方は含めないんです?」
クロがふと思い出したように尋ねると、アレクはすぐに頷いた。
「社長の分は、あくまで地上での働きに対する評価でしたので、宇宙は関係ないと判断しました。実際に宇宙での行動はしていませんので」
淡々とした説明だったが、筋は通っている。今回の報酬は、あくまでクロが地上で直接関わった分に限った評価だ。宇宙側の戦果までまとめて換算するとなれば、それはもう別の働きになる。
クロはその説明を聞いて小さく頷く。
理屈は分かった。だが、増える可能性が最初からないと分かると、やはり少しだけ惜しい気持ちは残る。もっとも、それを口にしたところで数字が増えるわけでもないので、クロはそこで深追いしなかった。
話が終わったのを見て、エルデが手を上げる。
「クロねぇ。ファステップとコンテナをしまったってことっすが、自分はこれからどうすればいいっす?」
移動手段がなくなったことで、このまま置いて行かれるのではないか。そんな不安がそのまま声に滲んでいた。
クロはそんなエルデへ視線を向けると、安心させるように小さく微笑み、あっさりと答える。
「ああ、それはですね。アレクと一緒に行動してもらおうかと思ってます」
「自分がですか?」
いきなり名を出されたアレクが驚きの声を上げると、エルデもまた驚いたように声を上げた。
「置いて行くっすか?」
「置いて行きませんよ」
クロはすぐに否定する。
その言い方には呆れもなく、むしろ最初からそう受け取られるだろうと分かっていたような落ち着きがあった。
「移動には小型高速戦艦を使うつもりです。手配はジュンに頼んで、その操艦も任せようかと思っています。エルデは、私たちのサポートをしてもらおうかと。アレクはコンテナBの用意をして、戦艦の護衛です」
淡々とした説明だったが、内容ははっきりしていた。
「クロねぇ。コンテナBってなんすか? そう言えば出発前にも使えって言ってたっすけど」
エルデの問いに、クロはにやりと笑みを見せる。
「秘密兵器ですよ」
そのもったいぶった言い方に、クレアは小さくため息を漏らした。
(始まりましたね。ロマンを語る時みたいな気配です。こういう時のクロ様は、少しだけ面倒になるんですよね)
声には出さないが、その表情だけで十分だった。
対するエルデは、秘密兵器という響きだけで完全に目を輝かせていた。思わず立ち上がると、両手をテーブルに置き、興奮を抑えきれないように体を弾ませた。
「秘密兵器っすか! なんなんす? RFっすか? それとも戦闘機っすか?」
「それは……」
クロの長い間が流れる。
エルデはクロの目をじっと見つめ、言葉を待つ。期待がそのまま顔に出ていた。今にも答えが飛び出してくると信じて疑っていない顔だった。
だが、クロが返したのは――
「秘密です。秘密兵器なんで」
あまりにもそのままの返答だった。
エルデは一瞬きょとんとしたあと、すぐに不満そうに口を尖らせる。期待を煽るだけ煽っておいて、中身は教えない。そのやり方がいかにもクロらしく、だからこそ余計に気になってしまうのだろう。
「気になるっす!」
「気にしていてください。その方が、見た時の反応が面白そうですから」
クロは悪びれもせず、むしろ少し楽しそうに言った。
エルデはますます納得がいかない顔になるが、隣で聞いていたアレクは小さく息を吐き、どこか諦めたような顔をしている。どうせクロがこういう言い方をした時は、何をどう聞いてもすぐには答えない。そういう諦めが、表情にそのまま出ていた。
「う~~うっ……アレクさん! 教えてほしいっす!」
今度はエルデが、助けを求めるようにアレクへ身を乗り出す。
だが、その前にクロが口元へ指を当て、しーっという仕草を見せた。しかも、どこか悪戯を思いついた子供のような笑みまで浮かべている。
「ダメですよ。秘密にしておいてください」
「クロねぇ、酷いっす~~~ぅ」
エルデは半ば泣き真似のような声を上げる。
目の前で繰り広げられるのは、まるで子供同士のやり取りだった。アレクはそんな二人を前に、どう反応したものかと少し頭を悩ませたような顔をしている。一方のクレアは、見慣れたやり取りだと言いたげな目で、ただ静かにその成り行きを眺めていた。
そんな時、会議室の扉が開く。
普段着に着替えて戻ってきたジュンは、クロと同じようなジャケットを羽織っていた。だが、その下には、いかにもアニメに出てきそうな可愛らしいクマのようなキャラクターが描かれたTシャツを着ており、ボトムスにも同じキャラクターがしっかりと描かれている。
軍服姿とは、あまりにもギャップのある予想外な格好だった。
ジュン本人はいたって真面目な顔をしているだけに、その落差が余計に大きい。
そんな彼女は、目の前で子供のように騒ぐエルデと、それを面白そうに止めるクロを見て、思わず本音を漏らす。
「ホントにこれがバハムート……」
ぽつりと零れたその声は、驚きとも呆れともつかない響きを含んでいた。
だが、その呟きは、ちょうど重なったエルデの大きな嘆き声にかき消されてしまう。




