賞金額の現実
エルデの存在についての記載が抜けておりました。
該当箇所を修正いたしました。
申し訳ございませんでした。
アリとデビット、そして着替えのためにジュンは会議室を出ていく。
残ったのは、クロとクレアにエルデ、そしてアレクだけだった。
先ほどまで大勢いたせいか、人が減った会議室は急に静かに感じられる。ホロディスプレイの残光だけが薄く揺れ、ついさっきまでの張りつめた空気が、今は少しだけ緩んでいた。
そこでようやく、アレクが口を開く。
「社長、報告いいですか?」
今までほとんど黙っていたアレクがようやく話し始めたことに、クロは頷きつつ軽口を返した。
「喋りましたね。よく今まで黙っていられましたね」
「いやいや、あの流れでは割って入れませんよ。それより、アウトローたちの賞金額についての話です」
アレクは苦笑を浮かべながら、ずれかけた空気を仕事へ戻すように言う。そして端末をテーブルへ置くと、ホロディスプレイに総合計の金額を映し出した。
「一、十、百、千、万、億……約2億Cですか。思ったより多いですね」
クロは指で単位を数えながら、思わず緩みそうになる口元を手で隠す。
予想をはるかに超えた金額だった。
目の奥に素直な喜びが滲み、口元もどうしても緩む。それを見たクレアもまた嬉しそうに尻尾を振り、きらきらした目でクロを見つめた。
「クロ様、やりましたね!」
「大儲けっす!」
クレアは喜びにあふれ、尻尾を思いきり振る。エルデも手を叩きながら、ウキウキした目でクロを見ていた。
「ええ。これで秘密基地計画も進みそうですね」
小さく、だが確かな喜びを分かち合う三人の姿は、さっきまで内戦や黒幕の話をしていたのが嘘のようだった。巨額の報酬は、それだけ現実的な意味を持っている。拠点、設備、備蓄、動かせる選択肢。金はそのまま自由度へ繋がるのだ。
だが、その喜びに割って入るように、アレクがひどく言いづらそうな顔をした。
「社長……喜んでいただいているところ、大変申し訳ないのですが……」
「なんです……なんですか、その顔は?」
アレクの表情を見た瞬間、クロの胸に嫌な予感がよぎる。
その微妙な表情に、せっかく上がった気分が、次の一言で地面に叩き落とされる未来が見えてしまった。
「その……少ないんです……これ……」
絞り出すような声だった。
クロは思わず固まる。
クレアもそれを感じ取ったのか、先ほどまでの嬉しそうな顔から少しだけ表情を変え、アレクをじっと見つめた。威嚇とまではいかないが、ぴんと張った気配がそこにある。
一方で、エルデは少ないという感覚がすぐには分からず、むしろ十分高いのではないかと首を傾げていた。数字だけ見れば大金だ。だからこそ、クロとクレア、そしてアレクの間に流れた空気との差が、余計に不思議だった。
先ほどまで喜びに満ちていた三人を前に、アレクは少し気まずそうに続ける。
「その、大物はほとんどおらず、一番高くて3000万Cの海賊です。しかも、ほとんどが名前も知られていない連中ばかりなんですよ」
そう言いながら、アレクは別の一覧を表示する。
ずらりと並ぶ賞金首のリスト。海賊、組織名、個人名。その横に金額が表示されている。だが、元の額には斜線が引かれ、その隣に新たな金額が並んでいた。
そして、そのほとんどが減額されている。
その落差に、クロもすっと冷静さを取り戻した。
浮かれていた頭が、一気に現実へ引き戻される。
(よくよく考えれば、あれだけいた奴らの総額がこの程度のはずがないな)
数はいた。
しかも、ただのごろつきではなく、この星系の裏側に長く潜り込んでいた連中だ。にもかかわらず、全体を合わせて約2億Cというのは、やはり妙だった。大物がいないにしても、これだけ綺麗に減額が並ぶとなれば、そこには別の理由があると考える方が自然だった。
「どういうことです?」
クロは怪訝そうにアレクを見る。
アレクは少し考えるように間を置いてから、自分の推測を口にする。
「恐らくですが、長年活動がなかったため、減額されたのだと思います」
そう言うと、今度はギルドの仕組みについて説明を始めた。
「アウトローたちの賞金額は、その時々に起こした事件や被害を参考に算出されています。こいつらの場合、長年この星系に潜伏し、しかも軍属に偽装して過ごしていた。ギルドは定期的に危険度、活動履歴、直近被害を基準に賞金額を見直しています。潜伏が長く、近年の被害確認がない者は、どうしても優先度が落ちるんです」
淡々とした説明だった。
仕組み自体は単純だった。賞金は過去の悪名だけで固定されるものではない。今どれだけ危険か、今どれだけ捕える価値があるか。そこまで含めて変動する。長く表で動かず、目立った被害報告も出ていなければ、たとえ元は高額でも下げられていくのだ。
それでも、一覧の中に突出して高額な者は見当たらなかった。
アレクはさらにリストを指し示す。
「逆に、減額されていないものは、新規でこの星系に流れてきた連中だと思われます。どれも額は低めで、しかも個人が多い。いずれも犯罪を起こしたあと逃亡中という記録ですので、追われてこの星系へ流れ着いた可能性が高いですね」
クロは表示された一覧を見つめる。
名前も聞いたことのないような連中が並び、その額も突出してはいない。つまり、ここに巣食っていたのは宇宙規模で名を轟かせる大物集団というより、表から零れ落ちた連中の溜まり場に近かったのだろう。
それでも、数がいれば総額は膨らむ。
だが、一人ひとりの価値として見れば、想定よりだいぶ低い。
「……つまり、見た目の人数ほど美味しくないってことですか」
クロが静かに言うと、アレクは苦い顔で頷いた。
「はい。総額だけ見れば大きいんですが、内容で見ると、期待するほどの大物案件ではないです」
クレアはそこで、少し不満そうに尻尾を揺らした。
「ぬか喜びでしたね……」
「ええ……ぬか喜びでしたね……」
「いや、十分だと思うっすけどね」
エルデが思わず突っ込むように言う。
だが、クロもクレアもその言葉には反応しなかった。さっきまで秘密基地計画がぐっと進むと浮かれていた分、その落差は大きかったのだ。
クロは表示された2億Cの数字を見つめたまま、小さく息をつく。
嬉しいはずだった。実際、大金ではある。拠点づくりに回せる余裕が増えるのも確かだ。だが、想像していたような一気の前進ではないと分かってしまうと、どうにも素直に頷けなかった。




