表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

702/737

崩れる空気、零れる正体

「アンジュ、ポンセ、タンドール。今までのことを纏めて報告書にしておいてください。ギルド用と、アリ中将の分です」


 クロはそう指示を出しながら、自身の端末を操作する。直後、これまでの行動データがアンジュたちの端末へ送られていき、それに合わせるようにアヤコたちも解析した内容を共有し始めた。次々と転送されていく情報量に、アンジュたちの表情がわずかに引きつる。


「ブラックガーディアンで作業してもいいですよ。もうここには用はないですので」


 さらりと言うクロに対し、受け取ったデータの量を見たアンジュたちは思わず額に汗を滲ませる。だが、その場を代表してタンドールがきちんと頷いた。


「わかりました。ところで、シゲルさんたちはこれからどうします? 戻られるなら、キャンピングカーを運転しますが」


 タンドールがそう尋ねると、アヤコがちらりとクロを見る。


「クロ、もう少しいてもいいかな。少しデータを整理したいし」


「いいですが、データ整理ならついでにアンジュたちにやらせますが?」


「社長……」


 クロのあまりにも当たり前のような言い方に、ポンセが呟くように苦笑する。すると今度は、ウェンが横から口を挟んだ。


「そのデータじゃないよ。コピーした企業の設計データとかのこと」


 しかも、軽くウインクまで交えた堂々たる言い方だった。


 クロはその返答に苦笑しつつ、ふと、おや、と思う。


 いつもなら、こういう時こそすぐに苦言を挟んでくるはずのジュンが、まったく反応していなかったからだ。


 不思議そうに視線を向けると、ジュンはそのやり取りにまるで気づいていないかのように、ただ黙って宙域図を見つめていた。消沈した表情は隠しようもなく、先ほどから視線だけは画面へ向いているのに、その中身を本当に見ているのかどうかも怪しいほど、気持ちが沈んでいるのが分かる。


「ジュン?」


 クロが声をかける。


 しかし、反応はない。


 その様子に、クレアが仕方ないと言いたげに小さく息をつくと、クロの肩からひらりと飛び降りた。とことことジュンの膝元まで歩いていき、そこで組んでいた手に軽く噛みつく。


「いった!」


 ようやくジュンが声を上げ、反応を見せる。驚いた顔のまま手元を見ると、そこにはもう噛んだままではなく、すでに離れてやれやれとした顔を向けているクレアがいた。


「クロ様が呼んでますよ」


 静かに、だが少し呆れを含んだ声音だった。


 ジュンはその言葉に押されるように、クロのもとへ戻っていくクレアを目で追い、それからゆっくりとクロへ視線を向ける。視線が合う。


「ショック、ですか?」


 クロが真っ直ぐに尋ねると、ジュンはすぐには答えなかった。


「……お父さんから聞いて、ある程度は覚悟していました」


 噛まれた手をさするような仕草を見せながら、ぽつりと漏らす。だが、その手は次第に止まり、いつの間にか拳が作られていく。指先に力がこもり、白くなるほど強く握り締められていた。


「ですが……ここまで……」


 そこから先の言葉が出てこない。


 目の前に突きつけられた現実は、覚悟していたはずの範囲を明らかに超えていたのだろう。内戦が仕組まれたものだとは聞いていた。裏で糸を引いている者がいることも、アリ中将との話で知っていた。だが、ここまで流通も金も情報も、人の命までもが誰かの掌の上で回されていたとなれば、そう簡単に受け止めきれるものではない。


「なに。これからです」


 悲観に沈みかけたジュンへ、クロはきっぱりと言い切った。


 迷いのない声音だった。


「遅い早いを言っても仕方ないです。全ては始めた者たちの責任です。ジュンがそこまで悲しむ必要はない」


「しかし!」


「しかしも何もないです。大丈夫」


 クロはそう言って、少しだけ微笑んだ。


 慰めるために無理に作った笑みではない。根拠があるからこそ出せる、静かな確信を含んだ表情だった。小柄な身体のまま、けれどその言葉だけは場の誰よりも揺らがない。


 ジュンは思わず言葉を失う。


 クロはそんなジュンを真っ直ぐ見つめ返したまま、はっきりと告げた。


「私が来ました。もう大丈夫ですよ」


 大きな声ではなかった。だが、その言葉は不思議なほどまっすぐ会議室に通った。ただ事実を述べただけのような静けさが、かえって絶対的な頼もしさを帯びている。


 しん、と場が静まる。


 その空気を破ったのは、アヤコだった。


「ジュンさん。クロは、その、色々と常識がないけど、安心してください」


 胸を張り、自信を滲ませながら、やけにはっきりと言い切る。


「なんせ、バハムートだし。きっと解決しますよ」


 その言葉に、今度はクロが固まった。


 ぴたりと動きが止まる。


「バハムート? その子供ではなく?」


 ジュンの問いには疑いがあった。


 クロ自身が、バハムートの子供だと言っていた。その本人が、実はバハムートそのものだというのだから、すぐに呑み込める話ではない。まさか、と思う気持ちは当然あった。


 だが同時に、どこか納得しかけてもいた。


 これまでの行動を思い返せば、むしろそう考える方が自然だったからだ。規格外の戦闘力。あまりにも常識の外にいる振る舞いの数々。その全部が、今さらになって別の形へ繋がり始めている。


 アヤコはそんなジュンへ、迷いなく頷いた。


「クロはバハムートそのもの。だから、どんな事も破壊してのけるよ」


 堂々たる断言だった。


 ジュンは驚いたまま、だがどこか納得も滲ませながらクロを見る。


 その視線の先では、クレアがやたら誇らしげに胸を張り、尻尾をぶんぶん振っていた。まるで自分のことのように得意げな顔。


 それとは対照的に、クロは目を閉じ、何とも言えない顔をしていた。


 頭痛でも堪えるような、諦めと脱力が入り混じった表情だった。


「アヤコ。お前、クロが正体を隠してるって忘れてねぇか?」


 シゲルが呆れた声を出す。


「あれ? 言ってたんじゃないの。頻繁に転移や別空間を使ってるから、てっきり言ってるものかと」


「そこはバハムートの子供で通すって話だったじゃねぇか」


 シゲルはアヤコを指差し、半ば馬鹿にするように笑いながら突っ込む。


 アヤコはそこでようやく、しまった、という顔をした。


 だが、もう遅い。


 言葉は綺麗に会議室へ響き渡り、誤魔化しようのない形で共有されたあとだった。


 沈んでいた空気は、別の意味で一気に崩れる。


 アヤコがそろそろと周囲を見回すと、ウェンもエルデもこちらを見てにやにやしていた。スミスは小さく苦笑し、アンジュたちは何も言わず、ただそっと視線を外していた。


 だが、それでも今この場には、さっきまでとは違う妙な温度が流れ始めていた。深刻な話の最中だというのに、肝心なところで台無しにしていく。それがまた、いかにもこの面々らしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ