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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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偽物と力

「まず初めに確認するけど。クロ、君は転生者だな」


 ユウタが真っ直ぐに見据えたまま問う。先ほどまでの穏やかさはなく、試すような視線だけがそこにある。


「そうですね」


 クロは否定しない。素直に頷く。隠す意味も、今さら誤魔化す理由もなかった。


「ならわかるだろ? お前も神に好きに生きていいと言われたんだろ。だから俺は好きに生きてる」


 そう言うと、ユウタは椅子から立ち上がる。動作は静かだったが、どこか見せつけるようでもあった。


 そしてポケットに手を入れ、一丁のビームガンを取り出す。


 クロはそれを見て、眉をわずかに動かした。


 本物には見えない。


 細部は甘く、質感は軽い。武器というより、子供向けの玩具にしか見えなかった。


「最初は使えないクソな能力だと思ったよ。俺が神から貰ったのは、偽物を本物に変える力」


 吐き捨てるように言いながら、ユウタはそのビームガンのトリガーを引く。


 乾いた、軽い音。


 飛び出したのはスポンジ弾だった。


 力なく壁へ当たり、ぺたりと落ちる。


「こんなの、何に使えるかってな」


 自嘲気味な笑み。


「こんな田舎も田舎の惑星に転生して、与えられたのはこんな使えない力だ。ひもじかったよ。養護施設に入れられたが、そこには自由がない。内戦の影響で娯楽も少ない。何もない。息が詰まるような毎日だった」


 ユウタの声は淡々としている。だが、その奥には長く澱んだ苛立ちが沈んでいる。


 その手に、ふわりと光が集まり始めた。淡い輝きはゆっくりと強さを増し、玩具のビームガンへと吸い込まれていく。


「だから、俺の力で終わらせようとした。革命軍に入った。なけなしの金で買ったみんなのプラモデルを、こんなふうに本物にしてな」


 光が収まる。手の中のビームガンは、形自体は変わっていない。安っぽい意匠もそのままだ。


 だが見た目は一変していた。銃身は鈍く光を反射し、質感は重く、先ほどまでの軽薄さが消えている。見ただけで“本物”だと判る。


 ユウタはそれを持ち直し、再び引き金を引いた。


 今度は乾いた音ではない。鋭い発射音とともに、ビームの光が一直線に壁へ突き刺さる。


 確かに、本物。


 クロはその変化を黙って見ていた。


「だが、本物に変えるにも限度がある」


 ユウタが低く言う。


 壁は無傷だったが、ビームガンは撃った瞬間、銃身が裂けた。ひびは一気に走り、グリップが砕け、内部機構が床へ散らばる。


「元が粗いと役に立たないな」


 ユウタは何の未練もなく、小さく呟き、その破片を靴先で踏みつける。ぱきり、と軽い音がした。


 そして何事もなかったかのように席へ戻り、ゆっくりと腰を下ろす。


「だから俺は、この力を見せつけて上り詰めた。この地位まで」


 胸を張るでもなく、ただ事実を述べるような口調。


 クロは少しだけ首を傾げた。


「それが何だと? 全く意味が解らないのですが」


 返答は冷ややかで、遠慮がない。


 ユウタが語った過去も、力の説明も、クロにはまだ一本の線として繋がらない。


 内戦を長引かせること、神を名乗ること、宇宙に名を刻みたいという欲求が、どう結びつくのか。


 クロには、その肝心な部分が見えない。


 だからこそ、率直に切り捨てる。


「貴方がどう生きてきたかや、能力も興味ない」


 クロは真っ直ぐユウタを見つめ、はっきりと言い切る。


「多くの人を不幸にし、私利私欲を満たしている。何故です? その力があれば、早々に内戦を終わらせ、この星系を手に入れた上で平和にすることも出来たはずです」


 静かな声。だが、その一言一言には容赦がない。


 ユウタの事情を汲む気も、語られた過去に同情する気もない。


 その言葉に、ユウタの目がわずかに細まる。


「……そう思うかい? なら世間知らずだね、クロ」


 小さく息を吐き、呆れとも憐れみともつかない視線を向ける。まるで、何も知らない子供でも見るかのような目だった。


「何をするにも、まずは金。それに人脈だ」


 そう言うと、ユウタは足をテーブルに乗せ、椅子をわずかに傾けて天井を仰ぐ。先ほどまでの整った立ち居振る舞いを崩し、わざと品のない姿勢を見せる。その変化すら、どこか計算の内に見えた。


「金は何とかなるかもしれない。だが人は金だけでは動かない。たとえ支配できても、一人では維持はできない。それは前世の独裁者の末路を知っていればわかるでしょ」


 その言葉には、妙な現実味があった。


 力だけでは国は回らない。恐怖だけでは統治は続かない。頂点に立つだけならまだしも、維持するには金も、人も、仕組みも要る。


「だから神になった。前世の知識と経験を活かし、黄金の聖神を設立。信徒を増やし、金を得る」


 ユウタは椅子を揺らしながら、淡々と語る。まるで自分に言い聞かせるようでもあり、積み上げてきた理屈を一つずつ確認するようでもあった。


 クロは何も挟まず、ただ黙って聞いている。


「信徒が増えれば人脈が広がり、地盤は固まる」


 そう言って、揺らしていた体を止める。


 天井へ向かって両手を伸ばし、そのまま強く握り締めた。何かを掴み取るような仕草。


「やっと手に入れた俺の場所を、俺の夢を、お前は止めろと言うのかい?」


 握っていた手をゆっくり下ろし、視線を天井からクロへ戻す。


 その目は冷え切っていた。射抜くような圧を帯び、先ほどまでよりもさらに真剣な表情を浮かべている。


 だがクロは、その視線を受けても揺れなかった。


「私の受けた依頼は、長引く内戦の調査がメインです」


 あくまで淡々と。


 感情をぶつけ返すでもなく、ただ事実として答える。


「ならいい」


 ユウタは小さく頷くと、テーブルから足を下ろして座り直した。指先で肘掛けを軽く叩き、わずかに視線を落とす。


 そして何かを決めたように、真顔で言葉を継いだ。


「そうだ、お前も仲間になればいい。同じ転生者同士、金も地位もお前に与える事が出来る」


 その声色は先ほどよりもわずかに熱を帯びている。勧誘というより、確信を押し付けるような響きだった。


「その類まれな身体能力に、巨大な機体。そこに俺が支えれば――この星系も、帝国すら手に入る」


 野心を隠さない言葉。


 金。地位。力。


 転生者という共通点すら、彼にとっては取り込むための口実に過ぎない。


 ユウタはまっすぐクロを見つめていた。その瞳の奥には、拒絶されるなど考えていない傲慢さと、自分の描く未来だけを信じる強さが混ざっている。


 白と金に包まれた部屋の中で、その欲望だけがやけに生々しく浮かび上がっていた。

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