闇組織のヤクザ
「どうしたの。複雑な顔をして。体の調子でも悪いの?」
今まで見たこともない又衛門の顔を見て良太は気遣った。
「良太、この会話の流れで体の調子がどうのこうのはないだろう」
「だって、爺ちゃんのそんな表情初めて見るからさ。いい加減いい年なんだから、色々心配だよ」
「わしの体は五十歳前後と、かかりつけの医者から言われたばかりじゃ。あと十年、二十年は生きて見せる」
「あ、そう。心配して損したよ」
「良太、人生損得で考えるな。損して得とれ、というじゃないか」
「何言ってるの?もういいよ。会話の流れが海の彼方に紛れ込んでるよ」
「良太。実はな、…裏の組織の連中がわしを色々と探りに来たのだ」
「探る?」
又衛門の話はこうだった。
又衛門は月に二、三度の割合で金をお札に変えていた。又衛門の担当者は高橋と言う黒メガネをかけた黒服のいかにも裏の稼業でタップリ稼いでいます…と言う男だった。
高橋は又衛門に尋ねた。
「又衛門さん、一体この金どこから手に入れたんだい」
又衛門は事もあろうに正直に答えた。
「わしが作ったんじゃ」
「作った?ハハハ爺さん金を作る魔法でも教わったんかい?」
「まあそんなところじゃ」
高橋は又衛門はボケた爺さんでどこかで金を拾ったんだろうと推測した。
ところが、毎月定期的に金を持ち込んで換金する又衛門に首を傾げた。
数キロの金をうば車に乗せて持ってくる百歳近い爺さんに興味を持ったのだ。
持ち込んでくる金は正真正銘の純金だ。刻印の無い金、無造作に持ち込んで俺達の言い値で換金する少しボケた爺さん。一体どれだけ金を拾ったのか、いや、ヒョッとすると先祖の隠し財産を処分しているのか。
高橋は思った。
俺たちに換金をせがむのは何か曰くつきの金に違いない。胸まで棺桶に突っかったこのボケた老いぼれに金は重すぎるだろう。俺達が軽くしてやろうじゃないか。
高橋の頭に黒い策略が浮かび上がった。
「つまり、その高橋と言う男が爺ちゃんを付け狙ってきたと言うわけ?」
「そうじゃ。わしが老いぼれで少しボケていると思ったんじゃろう。色んな甘い言葉でわしを誘い金の在り処を聞き出そうとしているんじゃ。最近じゃ、わしの家を突き止め遅くまでわしの様子をうかがっておる」
「そう言えば時折うちの近くで黒い外車が頻繁に止まるようになったね。つまりそう言う事か」
「まあ、命まで狙われているとは思えんが、ただ拷問を掛けられるかもしれん。金の在り処を聞き出すためにな」
「だったら、警察に知らせなきゃ」
「良太!警察に知らせたら色々と聞かれるぞ。そのうち金の存在がばれ、下手すれば地下にある錬金術十三号が発覚する恐れがある。そうなってみろ、金の密造でわしは刑務所行きだ。この老いぼれの老い先短いわしにお前は牢獄に追いやろうとするつもりか」
「だって、そうするしかないじゃないか。警察に知らせなければ、爺ちゃんを誰が守るんだい」
又衛門はジッと黙りこみ良太の顔をウルウルした目で見つめた。
「やめてよ。爺ちゃん、一体何を考えているんだい。…大体分るけど」
「お前はわしのたった一人の血のつながった曾孫じゃないか。わしを見捨てるのか」
「ようやく分かったよ。爺ちゃんがあの赤いボディスーツを作った目的は、僕にあの服を着させて爺ちゃんを守らすためなんだね」
「まあ、半分当たってる、だがホントにお前を正義の神にしたかったのだ」
「爺ちゃん、きつい事言うようだけど自分の身は自分で守るんだ。あの赤いスーツ、爺ちゃんが着て奴等と立ち向うんだ」
「ソコまで言うのか良太」
「ああ、僕は普通に生活して普通の人生を歩みたいんだ。今まで、爺ちゃんの言う事を黙って聞いてきたけどこればっかりはハッキリと断る」
「お前はそんなに冷たい男だったのか。悲しいよ爺ちゃんは」
そう嘆いた又衛門は肩を落とした。
突然ピーピーとけたたましい音が何処からともなく鳴りだした。




