爺ちゃんの秘密
「お前にはまだ知らせていなかったが、わしはあるとてつもない物を発明をしたのじゃ」
良太は大きく深呼吸してこれから起こるショックをできるだけ和らげるように息を整えた。
「爺ちゃん、今度は何を作ったの?」
「この発明が世の中に知れ渡れば世界の経済はうまく回らなくなるかも知れん。そんな発明をしたのじゃ」
「どういう発明か教えてよ」
良太はなるべく平然とした表情で言った。
「見せてやろう、フォローミ」
「急に英語使わないでよ」
又江門は工場内の隅の板張り壁の物置部屋に向った。
今まで良太はその小屋を気にもとめていなかった。
黒く変色した板張りのその小屋は四畳半ほどの広さで、中は使われていない工具が壁に掛けられていた。
又衛門はその工具の一つを壁から外し、また壁の掛け金に戻した。すると、床の一部がユックリと開き始めた。
床の中央に底無しの穴がぽっかりと口を開けた。
「これは…」良太はそれを見て絶句した。
突然、その穴蔵に明かりが灯り中が鮮明になった。
階段が何段も底の方に続き先の方が小さな点状で見にくくなっている。それだけ深いという事だ。
「ここを、降りるぞ」
爺ちゃんはサッサと先に階段を降りた。
「どのくらいの深さがあるの?」
「約二百メートルだ」
「二百、爺ちゃんこんな深く穴を掘ったの?」
「とんでもない、ここは戦時中、軍部が地下本部を作ろうとこしらえた地下基地なんだ」
「基地?」
「そうだ。結局穴を掘っただけで終戦を迎えた」
「降りるのはまだいいけど、地上に戻るのは大変だよ」
良太は又衛門の体力を心配した。
「大丈夫だ。昇る時はこの階段はエスカレーターになる。但し昇る時だけだがな」
ようやく下まで降りた二人は、錆び付いた鉄のドアを開けた。
そこは巨大な地下空間だった。東京ドームが二、三個入る広さで天井は百メートルぐらいの高さがあるだろうか。
そんな巨大な空洞の中に丸い建物がポツンと建っていた。
最初プラネタリウムかと良太は思ったが、どうやらそれは人が入る建物ではなく器械の固まりだった。
これは何?と、良太は又衛門に尋ねた。
「これは、これを作る器械さ」
と、言いながら又衛門は床に置いてある木箱を足で開けた。
良太はその中身を見て、何度も瞬きをした。
「これは金?」
「そうだ、これは純金だ。純粋無垢マジリッケの無い金だ」
金色に光り輝くその延べ棒は箱の中にいくつも重なっていた。
「この機械で金を作り上げたの?」
「そうじゃ、これは錬金術十三号じゃ」
「へえー」
良太は丸い銀色の器械を見上げた。
そして、良太は呟いた。
「この器械があれば僕達は一生遊んで暮らせるね」
「そうじゃ、わしは十分に遊んだ。もう後悔はない」
「そうだよ、この木箱にある金だけでも十分なぐらいだ」
「だから、わしはもう遊んだからもうこの器械は必要ない。いずれこの器械は壊すつもりだ」
又衛門は満足そうな顔で言った。
「ええ!どうして壊すの?」
「当然じゃろ、この器械でドンドン金を作ってみろ。世界は金で溢れ金は何の値打もなくなってしまう。世界の経済は破綻するかもしれん」
「でも…」
「わしはこの器械のおかげでいろんな所に行っておいしいものを食べ、ベッピンさんとお付き合いをし、まあ、命の洗濯を思う存分させてもらったよ」
「僕に内緒でそんなことしてたんだ。三か月毎に同窓会があっていつも一週間ぐらい旅行してたのはそう言う事だったの」
「うん、まあ、悪く思うな」
「三か月毎に同窓会なんかあるわけないもんね。しかも、百歳超えの爺ちゃんの同窓生っていったい何人いるんだい」
「一人もおるわけないだろう。いや、一人いた。病院で寝たきりになっておる皐月さんがおったのう」
「しかし、同窓会なんてよくそんな嘘がつけたね」
「お前も今まで、よくそんな嘘を信用していたな」
「はい、はい」
良太は呆れた顔でため息を吐いた。
二人は地上に戻ろうと階段に足を載せた。昇りは階段がエスカレーターになり実に快適だった。
良太はふと首を傾げた。
「爺ちゃん」
「なんじゃ?良太」
「あの金をお金に換えて遊んだんだよね」
「そうじゃ」
「どうやって換金したの」
「そこが困った問題だったんじゃ。あのような刻印の無い金は誰も買ってくれないんじゃ」
「じゃあ、どうやって換金したの?」
「つまり、裏の組織に助けを求めた」
「裏の組織?一体何のこと?」
「正規のルートでない組織に買ってもらったんじゃ。但し手数料がバカ高いがな。正規の買い取り価格の半分も取られるんだ。盗人と一緒だ。まあ、文句は言えないがな」
「爺ちゃんはそんな危ない人達と付き合いがあったの?」
「うん、そこで少し困ったことが発生したんじゃ」
又衛門は今まで誰にも見せたことのない困った顔をした。




