三月三日 物理化学全否定
六四日目、五分の五です
床に降りたら気が抜けたのか、へたり込んでしまったよ。
「疲れた…」
「そりゃ、二時間全力出せばそうなるよねー」
ユリカが持って来てくれたドリンクで、水分補給をしながら反省会。
「移動中に重力方向を弄って、軌道変更とかも出来れば変化が出て良いんだけどねー」
そうか、そういやゼロG維持するので精一杯だったな。
落下する方向を変えるまで考えが及ばなかったよ。
「後ー、手や背中とかでも向きを変えられると、尚良いねー」
足にこだわってたね。そう言えば。
「ベクトル反射型シールドとか使うと簡単に向きが変えられるよ?」
それはどのようなモノ?
「物理的な運動エネルギーを、鏡に対する光みたいな感じ反射するシールドだねー」
あー、そうか、それならぶつかるだけで向きが変わるね。そのシールドを展開出来れば、だけどさ。
「こんな感じー」
と言ってノート位のシールドを展開してみせるユリカ。
そして、そのシールドにドリンクを飲み終えたカップを投げつける。
カンという音がして、ぶつかる前の速度と勢いの儘、入射角を反転してすっ飛んでいく。
「反射率を変えるとこんなことも出来るよ」
わたしの飲み終えたドリンクカップを、先ほどと同じようにシールドに投げつけるユリカ。
さっきより大きな音と共に、ぶつかる前の倍近い勢いで吹っ飛んでいくカップ。
「ぶつかる力を倍にして反射するって言う物理現象を増幅しちゃうシールドだよー」
そっか、シールドって、弾くか止めるかって考えてたけど、跳ね返しても良いんだ。
「通過させてねじ曲げるってのもアリだねー」
「二枚使ってシールドからシールドへ転送しちゃうって手もありますよ」
「授業終わったから、見学に来たよ」
ユリカの声に続いて、ルミとユリアの声と共に一同様がゾロゾロと。
ユリカは投げたカップを拾いに行った。
カップ内に残ってて飛び散ったドリンクの後始末も始めた。
メグが指さし爆笑中。
かおり、ルミ、ユリアもプルプル中。
投げなきゃ良いのに… 後片付けが丁寧だ。意外と忠実だな。
あ、みんな決壊した。
ややあって、みんながやっと落ち着いた。
「元々、通常空間の物理法則なんて無視してるんだから、工夫次第でイロイロ出来るよ!」
と、トンデモ発言が。
さつきさん? 物理化学全否定してません??
「そんな事無いよ! 物理化学を越えてるだけだから!!」
「高等部三年になるとー、触りの部分が科目になるよね。超常時空物理科学ーって奴」
さつきに続けてメグが告げる。
何ですか?それ。
「ハイパーレーンが発見されてから解明しなきゃって事で確立された学問だね!」
「その研究結果で、それまでは異能所有者にしか出来なかった重力制御、とか物理シールドとかが、工業技術的に実現出来たんですよ」
「詳しい事は一般人には全く理解出来ないんだけどねー」
と、さつき、かおり、メグからのご説明。
「正しくは[多重次元複合階層空間構造体と時空連続空間平面の構成解析理論]と言って、研究の元になったハイパーレーンから[ハイパーユニバース構成理論]とも呼ばれています。クラインボトル形状を保った余剰次元の多層重複構造が、ほぼ無限数連なった時間空間連続体を変形させてメビウスバンドを構成し、階層次元構造すら圧縮させて「ミュウちゃん。ストーップ!」…はい」
嬉々とした表情で語り始めたミュウの解説をユリカが強引に中断。
非常に残念そうな表情に変わったミュウ。
うん、悪いんだけど、全然言葉が理解出来なかったよ。ごめんね。ミュウ。
「大丈夫。理解してるのは、ミュウとカミーラだけ、です」
アルファが教えてくれた。
「サリーちゃんも開初の賢人も理解してるよ?」
ミュウの反論。…何だ? その賢人ってのは。
最初に光速を突破する技術を開発した研究者達の事だそうです。
「理解出来なくても使える。平気」
ルミの無情な台詞にみんなが頷く。
「研究すると面白いのに…」
「いやー。次元のクラインボトルが、無限に繋がったメビウスバンド時空ーなんて、理解出来ないよぉ?」
ミュウのぼやきにメグの反論。
うん。全然想像出来ないね。って言うか、言葉が既に意味不明。
せめて言葉位は覚えようと四苦八苦してたら、ユリカがわたしを指差し大爆笑中。
なんて奴だ。
意味が判んなくなった所で、休憩を終えて訓練再開。
ユリアとメグがお邪魔虫に加わって、非常に捗りましたとも。練度の上昇…
まあ、おかげでわたしがバテちゃったので、再開から一時間ほどで、本日の訓練は終了となりました。
みんなで揃って帰宅です。
道中、問題の生命体が何時運ばれてくるのか聞いてみたら今夜だった。
おい。大丈夫なのか? それは。
何処にどうやって保管すんの?
「モンゴル高原(仮)中央に隔離保管用の冷凍倉庫があるんだよ!」
「絶対零度で固体化したヘリウムに閉じ込めて安置する事になるね」
さつき、ユリアの重役コンビからお答えが。
ヘリウムって、個体になっても流動するとかなんとか言ってなかった?
「もちろん、固まるまで加圧して状態保存してます!」
その技術、もう魔法とかの領域になるんじゃ無いかな? さつきサン…
「ちゃんと工業技術だよ!?」
ヘー…ソウナンダー
約三名、爆笑開始。
そんなん理解出来るかい!
混乱したままお家に着いた。
私服なんでそのまんまリビングへ。
ウイーがすかさずお茶を持って来てくれる。
ありがたや。
ユリカと二人で、ノンビリ戴きます。
ほうっと一息入れ終わると同時に、ユリカに引き摺られてゲーム部屋へ…
途中、夕飯を挟みつつ、二十一時まで冒険の旅。
其の儘みんなでお風呂に向かってホッコリと。
「ところでー。みんな、課題は大丈夫ー?」
「あああ!!!」×七人
ユリカが爆弾投入。
みんな忘れてたみたいだけど、わたしとユリカ、今日はお休み。
慌てて飛び出して行く七人を見送る残り四名。
「ユリカちゃん…とっくに気が付いてたわよね?」
「夕食後のゲーム始めた時、気が付いたんだよー」
ミュラ姫の問い掛けに答えるユリカ。
んで? あえて此のタイミングまで口にしなかった理由は?
「もしかして、みんな慌てるかなーって?」
「「「ユリカ…」ちゃん」」
満面の笑顔で答えるユリカ。なかなかに酷い奴だ。
じっくり温まってリビングへ向かえば、七人揃って課題をやっつけ中だった。
頑張れ。
「鹿乃子ちゃんも酷い?」×七人
爆笑を始めたユリカを残して、急いで自室へ避難。さっさと寝るに限る。
それでは、おやすみなさい。
六十五日目に続きます




