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銀河鋼神アルスマグナ  作者: 謎埴輪
第一章:双子星に眠る陰謀
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23.急転を告げるもの

大変長らくお待たせしました。

今回もよろしくお願いします。

 父親が妙にこじらせていたことを知り、衝撃を受けたアウラであったが、父娘の時間はまだ終わらない。というか、彼女としては終わらせてはならないと思っている。

 幸いにしてまだ時間はある。ここでアウラが、攻め手を変えた。


「お父様のお気持ちは、わかりました。それでも……それでも! 私は……初代様のお気持ちを……大切にしたいのです!」


 否。攻め手も何も無い。ただ単に諦めきれず追いすがっただけだった。

 その証拠に先ほど祖父のことを思い出して一度は消えた涙を、今度はしっかりと目じりに溜め込み、この話し合いの中で初めて感情あらわに声を荒げた。


「私は初代様の……いいえ、初代様たちの苦難は記録でしか知りません。それでも、生まれた星を追われ、このエクスタリアを探すに至った経緯を知っています。またあのときの苦難を、今度は全ての国民に課すと、言うのですか!?」


 アウラの詰問は、進むにつれて感情がこもっていく。最後など、声量が控えめなだけで、悲鳴といってもいいくらいだ。

 だがそんな圧力に等しい訴えを受けて、アドリアーノはしかし少し困ったような苦笑を浮かべた。


「……アウラ。待ちなさいアウラ。当時とは、銀通連もまだ発足していなかった当時とは、状況が違う。覇権主義を掲げる国などほとんどないし、その類の中で一番アグレッシブなアルカデアはエクスタリア(ここ)からは遠い。海賊だって、本格的にちょっかいをかけてくるのは、産業が軌道に乗った後だろう。だがその前に、こちらは防衛施設を充実させる。無論一朝一夕にできるわけではないが、それでも比較的短期間で整うだろう。銀河にまともな法すらなかった当時とは、何もかもが違う。お前の危惧もわからなくはないが……それでも初代様達の苦労を、今の国民に負わせるようなことは、起こさせなどしない」


 最初は幼子を諭すようだった口調も、存外に長回しとなった台詞が終わったときには、自らの決意表明のような、力強いものへと変わっていた。

 それは言葉だけではない。その瞳に宿る輝きも、全身から立ち上る気配も全て、彼自身が行う決意を表しているようにも見えた。


「すまないアウラ。少し力が入ってしまった」


 長まわしの台詞で、自身の感情にも一区切りついたのだろう。アドリアーノはぬるくなって久しいコーヒーを一口飲み下し、ばつが悪そうにため息をつく。

 吐いた息には確かに、雄弁に語った残り火ともいえる熱がこもっていた。同時に頬を染める別の熱――例えば娘の前で熱弁をふるった羞恥とか――も、少しだけだがこもってるように自覚したのは、恐らく気のせいではないだろう。

 そんな恥ずかしさを取り繕う意味も僅かに込めて、彼はさらに口を開いた。


「とはいえ、だ。お前は昔から初代様大好きだからな。理を説こうが利を示そうが納得はしきれんだろう? だから……」


 そこで言葉を切ると、執務机の上で手を動かす。おそらくはそこにコンソールがあり、そこで何らかの操作を行ったのだろう。

 操作の結果はすぐに発言した。執務室にあるどの椅子からでも見える位置に、突如として大きなスクリーンが展開されたのだ。


「これ……は?」


 スクリーンに映し出されたのは、滞留した岩塊(デブリ溜り)だった。この場で映し出すのだから、別の星系のものとは考えにくい。すなわちエクスタリア近郊なのだろうが……。

 いや待て。何かがある。映像は暗くてよくわからないが、岩塊の切れ間からのぞく、何か巨大なものが。


「……見えるかアウラ。これが……今必要な力、だ」


 岩塊が慣性か何かで移動し、ついにその奥へと光が当たる。そうして姿を見せたそれ(・・)を見たアウラは、完全に言葉を失った。

 その茫然度合いは強く、表情が驚愕に染まる娘を見たアドリアーノから、ドヤ顔で放たれた言葉すら届いていないほどだ。

 明らかに宇宙船とは異なる外見をした、左右に広く上下に長いシルエットを評して、彼女の口から一つの言葉がついて出る。


「これは……宇宙要……塞?」


 その可憐な唇からでた言葉の最後が疑問系だったのは、画像の中に見える〝推定宇宙要塞〟の形状に違和感があったからだ。

 とはいえ画像の中にある異物は、比較対象がないことからスケール感が狂っており、その異物(・・)の大きさを図ることができない。故にどんなトンデモな見た目でも、それはまだ〝推定宇宙要塞〟なのだ。

 余談だが、銀河通商連合発行の用語辞典において、宇宙要塞の定義とは以下のようになっている。


 定義1・一ヶ月以上無補給単独で運用が可能であること

 定義2・戦艦(七百メートル級以上の通称)二隻分を超える火力を有すること

 定義3・最小単位艦隊(重巡一隻駆逐三隻)の補給拠点として、一ヶ月以上運用が可能であること


 つまりそれなりの火力と、それなりの大きさを兼ね備えた宇宙拠点こそが、宇宙要塞と呼ぶに足るものなのだ。

 そこまで明確に考えたわけではなかったが、アウラはここに来てようやくその違和感に気づく。


「あのお父様。これ……要塞では、ありませんよね? どちらかというとその……開拓史で見た、宇宙拠点に近いような……」


 娘からの指摘を受けた国王だが、正にわが意を得たりと言いたげに、そのドヤ顔に満足げな笑みを浮かべた。


「その通りだ。大型タンカーを三隻、戦艦級の艦二席、重巡級の艦四隻、駆逐級の艦二隻をつないだ……武装ステーション、といったところだな」


 言いつつ行われた手元の操作によって、スクリーン内の武装ステーションが色分けされる。

 それによると、恒星間輸送船(大型タンカー)を左右に二隻並べ、下にタンカーをもう一隻、上には両舷に要塞砲を取り付けた戦艦を発令所代わりに一隻、もう一隻の戦艦は要塞砲をこれ見よがしに備えて尻尾のように下へ伸ばされている。

 重巡級の艦は、基部となったタンカーの周辺に配置され、外周部をつなぐ円環の支えとなり、残る駆逐級の艦は、前後に接続された重巡の鼻先に配置されている。

 これは今のアウラの言葉通り、もはや宇宙開拓史にしか残っていない、宇宙拠点そのものである。複数の船をつなぎ合わせることにより、スペースの都合上農業船や工業船など単一の機能を持たせざるを得ない移民船団を、効率よく運用する開拓時代の知恵である……のだが。


「……その……随分とその……全艦個性的な形を、しているのですね」


 大型輸送船(タンカー)はまだいい。あれは元々、貨物室()にエンジンと居住区を付け足したようなものだ。それが多少シルエットが変わったところで、「まあそんなものだろうな」以上の感想は出てこない。

 だが他の艦は明らかに、通常とは異なる形状をしていた。

 組まれた輸送船の上に積まれた戦艦級は、涙滴型を縦に割ったような姿をしており、ぶら下がるもう一隻の戦艦級も同じ形状だ。そのシルエットは正に、二隻を底面であわせれば、一隻の戦艦が作れるように整えられてるかのようだった。

 これは直方体のブロック状になりがちな、銀通連の艦としてはかなり珍しい。どちらかというと、段階的に火砲を並べて斉射の火力を上げる、アルカデア神帝国あたりの艦のように見える。

 四方に配置された重巡級もまた個性的だ。ステーションを周回するリングを支えるためか、普通の重巡よりも縦長の印象を受ける。スクリーンに出た解説によると、新たに艦を追加連結した際の、固定リング兼動力伝達路ということだが、そんなことを言われてもピンと来ない。

 そしてついに出てくる真打は、前後にある重巡の舳先から伸びる二隻の駆逐級だ。艦首が大きく広がって、さらに凹型をひっくり返したように、大きな板状のものが張り出している。何でもここには、マスドライバーが取り付けられており、駆逐級の艦首からはバーチャルカタパルトの技術を用いた、力場の砲身(バーチャルバレル)が展開できるようになっているというのだ。

 目の前に浮かんだコンソールからそこまでの情報を目にしたところで、アウラは何かに気づいて顔を父親へと向けた。


「待ってくださいお父様。戦艦が二隻も……」


 出てきた疑問は当然のものであった。エクスタリアでは宇宙軍の保持する戦力に限りがあるはずだ。それは今しがた国王自身が語ったものである。

 いくら条約に正義なしとはいえ、締結されれば守ることが前提となる以上、制限されているというならば戦艦を二隻も放出すれば余裕はなくなるはずである。しかし父親が余裕ぶっていられるというのは、それだけ戦力に余裕があるということではないのか。

 戦艦二隻を放出しても、それでも余裕があるならば、もしかしたら彼の言う〝不平等〟な条約などないのではないだろうか。


「わが国は、あの忌々しい条約のおかげで、重巡級までしか運用できん。あれはチェーバ准将より無期限で借り受けた、退役前の練習艦だ」


 満足げに放たれた父親の種明かしに、アウラは唖然とする。戦艦さえ持つ大規模な海賊に柔らかい腹を見せ付ける条約にももちろんだが、こんな方法で条約を遵守していると主張するための抜け道を作らなくてもいいではないか。

 そういえば外遊に出る直前、スクールの講師が「条約とは、調印前はいかに有利にするかに心を砕き、調印後は抜け道を探すことに腐心する」といって、クラス内で笑いあっていたものだが、実際に目の前でトンデモレベルの抜け道を披露されると、笑おうにも笑えない。その立場からは間違いなく叩き落されている。そんな彼女の様子は、気力とともに何か大切なものが抜け落ちてしまったかのようだ。

 そうして頭の天辺辺りから、現在絶賛抜けてはいけないものが抜けている最中の娘を尻目に、アドリアーノの舌鋒は止まらない。


「今はまだこの程度の大きさでしかないが、最終的にはもっと大型化する。重シールド艦も配置して、アルカデアの艦隊すら退ける小型要塞を多数有する、強靭な戦力を有した星系とする。これはその、第一歩なのだ」


 言葉と同時にカメラがズームアウトし、ワイヤーフレームで作られたエクスタリア星系の全景データへと変わる。そこには、複数のラグランジュポイントに、いくつかの宇宙コロニーと思しき施設と、それを守るように複数の宇宙要塞が映し出されていた。

 おそらくはこれが理想形で、目標形なのだろう。見れば画面のそこかしこに映る宇宙要塞も、先程見た武装ステーションに比べて、随分と立派に見える。

 モニターに浮かぶ未来図を、アウラはただ呆然と眺めることしかできないでいた。


「アウラ。このままエクスタリア(我々)の未来の話をしたいが、時間は無限ではない。公務の話をしたいのだが、いいかね?」


 アドリアーノの言葉に、アウラは呆けたままだが頷いた。

 まだ彼女には、公務のためといわれれば反応できるくらいには、思考は残っているようだ。


「この後の演説の原稿案ができたと報告が来た。ちょうどいいからここで渡してしまおう。一通り目を通してくれないか?」


 その言葉を聞いてアウラは慌てて胸元のブローチに手をかざす。その動作とともに、彼女の目の前に小さなホロタブが出現した。

 そのままホロタブを操作して、目的のフォルダにあった文書ファイルを開き、現れた文書に目を通す。先程とは違った意味で、執務室に静寂が訪れた。


「お父様……一つ聞いてもいいでしょうか?」


 静寂を破ったアウラの声からは、戸惑いが色濃く出ていた。

 ここまでの動きから、恐らく出てくるのは、演説の原稿についてであろうか。アドリアーノは、そんな甘い考えのものと、脳内でまとめた想定質問集を開きつつ、小さく頷いた。


「ここまでのお話ですと、答えになっていません。もう一度聞きます。エクスタリアで何が起きているのですか?」


 娘の口から発せられた言葉に、彼は眉根を寄せた。


「それは先程説明したではないか。エクスタリアの資源開発を始める――と。その説明では不満なのか?」


 そのまま答えた声には、心底不思議だとでも言いたげな色に染まっていた。

 もちろん彼からすればそうなのだろう。きちんとした説明をしたつもりの人間に、「答えになっていない」といったのだから、怒らないだけまだやさしいといえるくらいだ。

 だがアウラからすれば、父からもたらされた回答で納得できるわけもない。そんな答えを繰り返されたのだから、むしろ馬鹿にされたのかと怒らないだけ、まだやさしいといえるくらいだ。


「当然です! ……コホン。お父様がおっしゃったのは目的です」


 声同様に激高した心を、咳払い一つで切って捨て、アウラは努めて冷静に問い直す。

 そう、彼女が気づいたのはそこなのだ。先程までは勢いに押されて流されてはしまったが、父親の言葉とここまで起きた〝事〟がつながらないことなど、本来ならば考えるまでもなく気づけるような話なのだ。


「お父様がエクスタリアの資源開発をしたいというのはわかりました。それがなぜ……クーデターに……」


 アウラの言葉から、突然力が抜けた。

 声が震え思考が麻痺し、背中にじっとりと冷や汗をかく。

 別に何かプランがあったわけではない。ただ思いつくまま言葉にしただけだ。

 だがそれが、ただの言葉の羅列でしかなかったそれが、急に恐怖と悪寒を伴ってアウラに襲い掛かる。

 少し考えればわかる話だ。クーデターが、エクスタリアで資源開発を行うために――なぜ結びつくのかは不明だが――起こされたというならば。


 ――自分を殺そうとしたのは、父ではないか――。


 当然この結末に行き着く。自明の理というヤツである。

 そこにたどり着いたとたん、アウラのは言葉を発せなくなった。ただ呻くような声を、上げることしかできなくなっていた。


「……ん? すまないアウラ。少し待ってほしい」


 声に気づくと、アドリアーノがなぜかコンソールへ目を落としている。

 おそらくは何らかの呼び出しがあったのだろうが、少々表情が険しく見える。もちろん理由を察する材料などない。

 そしていつまでも呼び出しを放置するわけにも行かないので、彼は応答のためにコンソールを操作するのだが……。


「おっと」


 確かに聞こえた父の声。それは間違いなく操作ミスに気づいた声だった。

 なぜわかったのか? そんなことは一目瞭然である。なぜなら……。


「ごきげんよう、アドリアーノ=デュート=フォーティカ=エクスタリア。おっと失礼。役職は必要かな、『国王』?」


 先程まで武装ステーション周辺が映し出されていたホロモニタに、半笑いを浮かべた神経質そうなメガネの男が映し出された。

ちまちま少しずつ書いて、ようやく投稿できました。

やめるにせよ続けるにせよ、一章だけは書ききる予定です。

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