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銀河鋼神アルスマグナ  作者: 謎埴輪
第一章:双子星に眠る陰謀
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19.王女の帰還

どうにか今週も投稿できました。

よろしくお願いします。

 エクスタリアⅠ行政府。首都キャメリアンの概ね(・・)中央あたりにある、石造りの建物である。

 アウラによるレクチャーによると、王族に選ばれた一族は、王宮と呼ばれる行政府内の居住区画に居を移し、王族の名にふさわしい高級な生活を送るのだという。

 本来贅沢などする必要も無いのだが、VIPの中には貧相な暮らしをしているものにもてなされることを嫌う、メンドクサ……独特の感性をお持ちの方もいらっしゃるため、いつしかそういうことになったのだという。

 そしてその行政府は今、上を下への大騒ぎの渦中にあった。

 無理も無い。セレモニーを行うためにしっかりとスペースのとられた正門前にて今、妖精の羽根の様なものを広げた異形の巨人が、地面から人一人分ほどの隙間を残して浮いていたのだ。

 予兆は存分にあった。行政府に勤めるものたちは、高空を高速で飛行するアンノウンが首都の防空圏に現れたという情報と、その情報をもたらした軍部から、彼等の持つ規定の権限を用いた緊急事態宣言を聞いた。

 次の報告は哨戒のため上がった戦闘機も、本格的な迎撃のため上がった戦闘機隊も振り切られ、しかししばらくの後レーダーから消えたというもので、報告を聞いた者たちは皆一様に胸をなでおろした。もっとも、行方がわからない以上、不安を孕んだ現実逃避にも似ていたが。

 しばらく何も起きないことを確認し、ひとまず危機は去ったのかと、おっかなびっくりすくめた首を伸ばしたところで、鳴り響くアラームとともに告げられたのは、もっと深刻なものだった。


 ――キャメリアン直上三千メートルに再度アンノウン出現。出現とともに高速で降下――


 正に悪夢である。しかも予想着弾地点(・・・・・・)をつかむ暇すら与えず、それは行政府上空に飛来し減速。今に至るのだ。

 もちろん行政府守備隊は即座にアンノウンを包囲し、スキャンをかけようとするのだが、航宙機のようにシールドが張られており、内部を見通すことができないでいた。


「……あれは……なんだ?」


 それは誰の口から漏れたのか。だがその芸の無い感想は、間違いなくその日行政府とその近辺にいたものの、共通認識であるといえた。

 それは明らかに人型をしていた。

 広げた三対の羽根は、半透明ながらも淡い緑色の光を放っていた。

 それは明らかに異形だった。


『……皆さん、聞こえますか。(ワタクシ)はアウローラ=ディ=フォーティカ=エクスタリア……』


 しかもそれは、しゃべったのだ。聞き覚えのある声で、聞き覚えのある名前を。

 この場にいるほとんどのものが生還を望み、しかしその生存を絶望視した一人の女性の名を。


『私は、この機体の持ち主であるバンディットに命を救われ、こうして戻ってまいりました』


 警戒レベルを落とせないまま唖然とする守備隊を尻目に、その声はなおも呼びかけを続ける。

 もちろん守備隊は、唖然としつつも固まっているわけではない。いかに聞き覚えのある声で、聞き覚えのある名を告げたからといって、命令もなしに包囲を解けるものでもない。

 彼等は自分たちの中にある想いを押し殺し、内心では包囲を解いて姫様を迎え入れたい衝動を抑え込みながら、責任者(上官)からの次の命令を待つ。

 そしてついにそのときが、異形の内外ともに待ち望んだときがやってきた。

 警備隊員たちの人垣を割って、スーツを着た男が一人姿を現したのだ。

 そして開いた口からは、口調に似合わない大きな声が響き渡る。隊員の一人が、ホロタブを用いて拡声器の役割を果たしているのだ。


「行政府警備局長、アンザイだ。本当にそちらに、アウローラ殿下がいらっしゃるのか?」


 それは恐らく誰にとっても、待望の言葉だった。

 アンザイと名乗ったスーツの男は、包囲網の一歩内側に踏み込み、拡声器を使って異形に向けて呼びかけたのだ。


『バンディット、シン=カザネだ。少し包囲を下げてくれ。そうすればこちらも殿下をつれて降りられる』


 アンザイに応えたのは、異形より響く若い男の声だった。

 だがその声に、アンザイはすぐに答えを出すことができなかった。

 確かに今異形から告げられた言葉は、自分も含めてこの場の誰もが待ち望んだ言葉であるとも言える。

 だが今しがた聞いた殿下の声が、できの良すぎる合成音声で無いと、誰が言えるだろうか。

 彼にも職責というものがある。その職責から考えれば、「騙されちゃったてへぺろ」ではすまないことなどいくらでもあり、そして今はその際たる場面であるといえる。

 だがしかし希望もある。目の前の異形は、己の姿を誇示するような動きをしつつも、哨戒機にも迎撃隊にも一発も撃っていないのだ。例えその理由が、撃つ必要が無いからであったとしても、ここまで不戦を貫くのは何らかの事情があるとも取れる。

 短時間ながら悩みに悩んだ末、ついに彼は一つの決断を下した。


「守備隊は下がれ」


 恐らくは遠目から見えない場所に隠した端末に呼びかけたのだろう。アンザイの言葉に従って、アルスマグナ(異形)を取り囲んでいた守備隊が、機体から距離をとり始めた。

 物々しい装備の守備隊が十分に下がったところで、ついに異形の外見に変化が起きる。

 胸部装甲が開き、中から人が降りてくる。ただしその人数は、ただの一人だった。

 その体系は、見るからに中肉中背の細マッチョ男で、明らかに女性的な丸みとは無縁なシルエットである。

 男の言葉を信じていたわけではないが、彼が殿下を伴って降りてくるものと思っていたアンザイは、裏切られたような気がして知らずに奥歯をかみ締めていた。

 感情が制圧命令を出そうとするのを必死で止めていたそのとき、異形の背中側からざわめきが聞こえていることに気づく。そして一拍遅れて飛び込んできた無線に、思わず耳を疑った。


「……それは……本当か?」


 アンザイの耳に飛び込んできた報告。それは、異形の背中からも人影が降りてきたというものだった。

 しかもその人影は二人分。一人がもう一人を肩に担ぐようにしているというものだった。

 その姿には誰もが心当たりがあった。素直さに定評のある(ひと)であったため、日常的な風景とまでは行かなかったが、どうしようもなく虫の居所が悪かったり、体調を崩して体力を温存したいときなどに、こんな情景を目にしたことがあったのだ。


「殿下ッ!!」


 たまらず誰かが叫んだ。声の方向からすると、おそらくは後ろから状況を見守っていた、侍従の誰かなのだろう。見れば予想通り侍従の一人が、駆け寄ろうとしたところを止められたのか、守備隊員に抑えられながらももがいているのが見える。

 しかしアンザイと彼の率いる守備隊の職責は、うかつに口を開くことも、ましてや駆け寄ることなど許さない。


「……包囲は継続。狙撃手は、あの男をマーク。殿下が本物だと確認でき次第確保……いや、武装解除を要請(・・)しろ」


 下りてきたメイドロイドと、その肩から下ろされた三人目を睨むように見つめつつ、アンザイは通信機に呼びかける。

 三人目は明らかに少女だった。ヘルメットを被っているため顔はまだ見えないが、その体つきは明らかに少女のそれだし、宇宙服のデザインも王家専用のものだ。

 自称バンディットの言葉通り、もし降りてきた者がアウローラ殿下であるならば、この捕り物は穏便に終わるはずだ。だがもし、あれが偽者だとわかったら?

 この場で偽者とわかるような、そんなお粗末な細工はしないだろうが、こちらは腐っても守備隊である。王族のライフデータくらい持っているし、遠目からは判別できなくとも、近づいて網膜なりDNAなりを見れば、本人確認はすぐにできる。

 もし彼女が偽者だったなら、手足の二・三本は覚悟してもらう。直接口に出しこそしなかったが、そんな言葉が背中から響くような、凄みとも妖気とも取れる何かをにじませながら、その迫力に内心で退いている守備隊とともにそのときを待つ。

 そして、ついに少女がヘルメットに手をかけ、その隠された正体を白日の下にさらした。


「……おお……」


 驚きの声を漏らしたのは誰だったか。

 侍従か、守備隊の誰かか、いやもしかしたらアンザイ自身だったかもしれない。

 やさしい光をたたえた流れるような金髪。未だ幼さが残るものの、それすら魅力に変える優雅な微笑み。

 そこには、恐らくエクスタリア国民のほとんどが、心の底から望みながらも諦めざるを得なかった、エクスタリア王家第二王女の姿があった。


「守備隊の皆様。ご心配をおかけしました」


 少女のカーテシーとともに、鈴が鳴るような心地の良い声が響く。その声は後ろに控えるメイドロイド――恐らくお付きのタラッパだ――と、シンと名乗った自称バンディットが持つタブレットから聞こえる。だが目の前の少女が発している声だということは、その場にいるものは誰もが確信した。


「殿下ぁっ!!」


 矢も盾もたまらずといった様子で、先程の侍従が殿下へ駆け寄るのが見える。彼を抑えていた守備隊が衝撃に虚をつかれ、押し留めることができなかったのだ。

 これで後数秒もすれば、感動の再会劇が始まるのだろう。

 そんな中、スピーカー代わりのタブレットを抱えていたシンの耳にだけ、一人アルスマグナのコクピットに残ったミリアから、息を呑む声が聞こえた。


「……シン……私にも今……ドレス幻視()えた」


 遅れること何日か、ついに彼と同じ感想を抱くに至ったミリアに対し、シンは「お……おう」と返すのがやっとだった。

 そしてまるで、その返信を合図にしたかのように、包囲網から数名の守備隊がシンたちに向かって駆け寄ってきた。


 時間はキャメリアン時間で午前五時十七分。海辺に程近い首都に、水平線の向こうからのぞく朝日からの、柔らかな光が届き始める時間であった。

活動報告にも書きますが、来週の更新はお休みします。

書き進めるうちに初期プロットから離れすぎ、その場しのぎでは対応しきれなくなったためです。

“なるべく週一更新”をここまで続けてこれましたが、まだ一章も終わらない時点でこんなことになるとは、自分自身非常に残念です。

何とか一週間でプロットを練り直し、エタらないことだけは心がけたいので、どうかお時間をください。

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