【十九】-3 決着
「拾い物ありなんだね?」
巨剣の軌道から身を翻し、
エルシアはそのまま地面へ降り立つ。
足元へ落ちていた二本の武器を、両手で拾い上げた。
一本は、先ほど投擲に使ったもの。
もう一本は、最大出力の斬撃を受けた衝撃で、
ノーマンが落としたもの。
ノーマンの武器で、
トマホークの二刀流を形成。
それをエルシアがやれば──
「うわっ、何このダサい刀身……」
だが、剣聖から鬼気が急速に喪われ、
彼女の手から、二本とも反射的に放り投げられた。
ノーマンの武器は、
刃物を使う才を代償として捧げたことで、
特別製にせざるを得なかった。
刃を潰し、ほとんど鈍器同然の形にする。
そこへ回転を加えることで、
ようやく威力と切断性を持たせ、
何とか武器として成立させている。
忍者としてのノーマンには、
マッチした武器。
しかし、エルシアには。
剣を宝石のように愛でる彼女には、
耐え難いほど醜い代物のはずだ。
彼女が武器を捨てた隙に、
ノーマンは大地へ突き刺さったオフィスライトの柄へ、左手を掛けた。
「血骸……!」
全身の血管が、悲鳴を上げる。
すでに限界など超えている。
それでも、足を大地へ食い込ませ、
左腕と背筋、全身の筋肉を総動員する。
振り回す必要はない。
ただ、持ち上げるのだ。
ほんのわずかでいいから。
地面へ食い込んでいた切っ先が、
僅かに浮かび上がった。
『オフィスライト・リフティングチャレンジ達成を確認。
武装継承イニシエーション通過。
所有権継承プロトコル完了。
ループライト家武装継承者、ノーマン・ロストを認識。
使用者に適合する形態へ再構築いたします』
「……?」
心当たりのないことを言われ、眉を顰める。
電子音声と、ほとんど同時だった。
オフィスライトが崩れ始める。
一室分あった過剰な重量を、
不要なパーツとして一息に吐き出した。
巨大な刀身が分解、圧縮され、
鋼鉄の部品へ組み替えられていく。
そして、無数の部品が、ノーマンの右肩へ殺到した。
失われた右腕の付け根を覆い、
金属が肩へ食い込み、
神経を探るように接続されていく。
ほんの一瞬。
新たな義腕となって、
ノーマンの右肩へ収まった。
右手の指を動かす。
違和感がない。
まるで失った右腕が、
そのまま戻ってきたかのように、
思考した通りに動いた。
「……そうか。すでに継承者として選ばれていたんだね。
私の時には、そこまで辿り着く前に全壊していたけれど」
エルシアはすぐには踏み込まない。
目を細め、突然現れた義腕を値踏みするように眺めている。
自分が武装継承者として選ばれたのが、
どのタイミングだったのかはわからない。
地下室で話をした時かもしれない。
さっきの戦いの時かもしれない。
あるいは、ずっと前かもしれない。
「ロマンチックなことを言いますが……
貴女との思い出を胸に。
貴女の父の《遺産》を腕に。
そして、この歴史の貴女が教えてくれた武器で──
今こそ、貴女を超えます」
まったく予想外に手に入った、
新たな右腕。
ノーマンは改めて、
エルシアが放り投げた二本のトマホークを拾い上げる。
左手に一本。
新たな右の義腕に、
もう一本。
今のエルシアは、
クロノポイントによって再現された鋼鉄装甲を纏っている。
だが、忍法・粒子破壊で停止させたナノマシンは、
まだ再起動していない。
少なくとも今この瞬間、ナノマシンを再構成し、
新たな刃を生み出すことはできない。
「私は剣士なんだ。
誇りには代えられない」
そう言って、弾き飛ばされた愛剣を取り戻そうと、飛びつく。
だが、エルシアはいつだって、
エルシア・ループライトだ。
「そのトマホークを捨てた時点で、俺の勝ちですよ」
手元に剣がないなら、
ただのポンコツだ。
「……腕が手に入ることは予想していた?」
「貴女が俺の武器を捨てた所から、全部予想外でしたが、俺は忍者だ」
二振りのトマホークを構える。
刃は、意図的に潰してある。
剣聖には魂すら感じ取れない代物。
剣とは呼びようのない武器。
この歴史のエルシアに助言され、
使い始めた武器。
それによって培った技で、
今、剣聖に──
「千赤忍法奥義────斬!!」
左右のトマホークが、
エルシアを覆っている鋼鉄装甲へ次々と叩き込まれる。
狙うのは、エルシアの命ではない。
彼女を殺せば、救おうとしてきた全てが無意味になる。
ならば、殺さずに示すしかない。
自分には、彼女の願いすら乗り越えて、
未来を選べるだけの力があるのだと。
刃物ではない。
鈍器同然の鉄塊を、
血骸による膂力と回転で叩きつける。
一撃。
二撃。
三撃。
鋼鉄の装甲が、
次々と砕け散る。
装甲の砕けた脇腹へ足裏を当て、
エルシア自身の勢いを横へ流し、
体勢を大きく崩す。
殺すためではない。
次の一撃を、
確実に叩き込むために。
そして最後。
なお胸元に残っていた、
クロノポイントの鋼鉄装甲へ。
新たに得た右の義腕を伸ばし、
大きく回転させたトマホークを、
縦に振り下ろした。
「君の勝ちだ。流石は、私の──」
最後の一撃が、
胸元の鋼鉄へ届く、その刹那。
その言葉こそが、
決闘の決着だった。
続きを言い切るよりも早く、
ノーマンの技が、
鋼鉄の剣聖を打ち砕いた。




