【十七】-2 再会
チク
タク
胸より下げた懐中時計。
沈黙していた《遺産》クロノポイントが、
時計の針を刻む。
……おい。
絶望的な状況が到来したことを悟り、
ノーマンは自暴自棄な笑みを浮かべた。
……冗談だろ?
パトリックの運命を強引に捻じ曲げた時と同じだ。
死に向かう運命にある者を救い、
歴史へ大きな変化を齎そうとすると、
猿の手めいた懐中時計が悪意を持って試練を与える。
巨大な時計盤が、
エルシアの身体を包み込んだ。
その瞬間、全身を縛っていた強固なワイヤーが弾け飛ぶ。
周囲に展開する時計盤めいた四枚の鏡。
旋回する鏡面から、秒針と長身が根元から落ちる。
それら全てが、籠手となり、足甲となり、脚甲となり、
次々にエルシアの身体に打ち付けられ、はめ込まれていく。
機械そのもののような鋼鉄の装甲が、
彼女の全身を覆った。
そして、時計盤を通過するにつれて、
エルシアの手足がしなやかに伸びていった。
幼い少女だった外見が、
完成された成人女性のものへ変わる。
成長した彼女の目が、
ゆっくりと開いた。
そこには、明確な理性が宿っている。
だが、この歴史の彼女が見せる、
いつも暢気で眠たげな眼差しではない。
切れ長の瞳と、
研ぎ澄まされた怜悧な美貌が表に現れていた。
クロノポイントは、
不可能な願いが成就したと思わせて、
最後には願った者を願う前と同じ絶望へ突き落とす。
歴史を変えようとした者には、
前の歴史で最も大切だった者の人格を再現し、
試練として立ちはだからせる。
それが、今回は彼の知る
エルシア・ループライトの姿と人格を取って現れた。
かつての戦友と同じく、異形の機械躯体となって。
「よく頑張っているね、ノーマン」
この状況で、会いたくはなかった。
いつ、どこであろうと、
敵としてだけは絶対に再会したくなかった。
まして、右腕を失い、
身体の内側まで焼かれた今、
あの最強の剣聖と戦うことなど、
想像したくもなかった。
だが、それとは別に、
どれほどシステムが用意した別人だと分かっていても、
彼の知る「彼女」そのものが完成された姿で顕現したことで、
抑えきれない感情の高まりもあった。
また、あの美しく成長した至宝に会えたのだと。
恐怖や焦燥だけでない、歪な狂喜に震える喉を絞って、声を出す。
「会いたかったです……!」
「私もだよ」
でもね、と、
彼女は容赦なく続ける。
「君には、私を諦めてもらうんだ」




