【十八】-2 選択
彼女の言葉は、
正しいように思えた。
クロノポイントによって再現された彼女には、
この試練の仕組みに関する知識まで、あらかじめ与えられているのだろう。
だからこそ、自らの死が何を終わらせ、
何を救うのかまで理解している。
しかし、それで「はい、そうです」と受け入れられるわけがない。
「俺がそれを受け入れると、本当に思っているんですか?」
「思えない。だからこそ、君に選ばせる必要がある。
わかるよね? それが、願いを叶えようとする者が得る教訓だ。
考えるんだ。君が、何を成すべきかをね」
過去へ遡ってから、
何ができたのかを考える。
ループライト父娘に、
幸福な時間を持たせることができた。
パトリックと出会い、
本来よりも早く更生させ、
より大きく成長できる可能性を与えられた。
先代剣邪による被害を、
本来よりも早い段階で食い止めることもできた。
そして今、エルシア自身が命を絶てば、
剣邪の継承そのものまで断ち切れる。
このままエルシアを死なせれば、
少なくとも剣邪によって世界が滅ぶ未来は、
回避できる可能性が高い。
それならば、いいのかもしれない。
かつて、世界と人々を守るために集った仲間たち。
荒野の世界で、立場を超えた絆によって結ばれた集団。
彼らが今度こそ生き残れるなら。
皆が大事にしている人々も、
生きていられるのなら──。
そう考えていると、
エルシアが握っている剣が、
白銀の輝きを放った。
クロノポイントが再現した、
彼女が愛用していた家宝の剣。
在るべき物が、
在るべき者の手にある。
前の歴史を生きていた時も、
こうして再び現れた今も、
彼女はノーマンの先で舞っている。
「嫌です」
「それなら、君は、この世界の、この星のユダになるよ。
妄執に囚われた、裏切り者に」
「言わせておきますよ。
事実になるかもしれませんし」
「君は、私一人を──」
「俺が強くなります。
貴女の想像を超えるくらいに。
それでいいでしょう?」
その言葉に、エルシアは眉を上げた。
意外な言葉だったらしい。
「てっきり、私のためなら
世界が滅んでも構わないと悪ぶるんじゃないかと思っていたよ」
「今の歴史のエルが言ってたんです」
パトリックを弟子にする時、
ノーマンを取られると反対していたエルシアが、
意見を翻して受け入れたことを、思い出す。
「世界中に惚れられたら、俺が彼女を……まあいい。
世界中の馬鹿と凡夫とモヒカンを踏み台にして、頂点に立つ貴女でいてほしいんです。
貴女を引き立たせるために、世界には存続してもらいます」
「……変なの」
苦笑して、エルシアは首を振る。
そのまま声を出して笑い始めそうだった。
「……私にとって、君は自由な翼だった。
何者にも縛られず、遠く広い空を飛び、どこまでも可能性を広げていく。
私は、君の背中に、自由に生きたいという私の願いを託していたつもりだった」
「それは口に出してほしかったですね。
最初から、帰ってくるつもりでしたもん」
「そうだね……それなら」
首筋へ押し当てていた家宝の剣を離し、
改めてノーマンへ向けて構える。
ノーマンにとっての英雄が、
静かに呟く。
「私に示してごらん。
君が、私の願いさえ置き去りにできるくらい、
強くなれるんだってね」




