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終末世界の幼馴染主従ラブコメは死に戻りからリスタート  作者: スカンジナビア半島


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【十三】-2 最後

 乗り切ったと思ったら、

 とんだパワープレイを仕掛けられた。

 これまでの底知れないオーラから、

 有無を言わさぬ巨人の迫力に変わっている。


 ノーマンを家に縛るために、

 娘を首輪として使う気なのだ。

 彼女の幸せの為に。


「もちろん君は息子同然だ。

 だがそれは君が息子になったらの話だ。すでになったも同然だから、息子だ。

 娘の剣才を前にしても人として扱う、

 善良かつ娘に愛されている者は君くらいだから、絶対に逃しはしないぞ?」


「あの、落ち着いて聞いてください。

 実は俺の親は忍者ではなくスカベンジャーなんです。

 エルシア様と結ばれるにはあまりに身分が違いすぎます」


「この時代に血筋だの家柄だのは、家畜の交配よりどうでもいいことだろう」


「そんな極端な……」



「エルのことも考えるんだ。彼女が怠けがちなのは、

 性格だけではない。病を患っていた後遺症で、君と刃物以外には力が湧かないんだ。

 君が声をかけなければ、彼女は起き上がる力も出せないだろう。

 そんな娘を君は見捨てると? そんな訳はないな。

 私を"お父さん"と呼ぶ練習を今からしておくといい」



「そ、それは……とにかくこちらの話を聞いてください。」



「何が何でも聞かないよ。

 見るんだ」


 椅子をぐるっと回転させて

 地下空間内を一望させる。


 何が狙いかわからないが、ノーマンとしては学問として

 過去の文明を学んだだけで、ここにあるものの大半を理解できない。

 よく調べれば使い方もわかるだろうか。


「ここにあるものを何に使うかわからないだろう?

 私もまるでわからない。だが、ここの施設はとても小さい機械が自律的に整備してくれるので、

 いつでも使える状態に保たれている。問題は使い方がわからないし、使うのが怖いということだ」


「それを俺に見せて何を……?」


「娘と結婚式を挙げて家を継いだ暁には君にすべてをやる。

 使いこなせば、この世界に玉座を再建するのも夢ではないはずだ」


 リチャードは本気で言っている。

 まだ十三歳という外見年齢の少年に。

 正気を疑うが、相手は素面なのは間違いない。


 この申し出自体は得しかないだろう。

 だが、ノーマンとしては“エルシアと結婚して家を継ぐ”のは、

 避けたいことこの上ない。


 結婚という共同生活を送れば、

 自分とエルシアは共に生きることになる。

 そうなれば、ノーマン・ロストは彼女の縛りになるだろう。


 彼が負傷するとあれだけ取り乱す以上、

 一緒にいれば何度も同じ気持ちを味わわせ、さらには結婚すればより激しい動揺を与えるに違いない。


 エルシア・ループライトは自由で在るべきだ。


 だからこそ、彼女は誰よりも美しい、最も尊い存在だと、ノーマンは信じている。

 それと、これで結婚したら

 “家柄とお金が目当て”と周囲に思われそうで、

 ノーマンは気に入らなかった。


「私の気持ちも考えてほしい。

 目の黒いうちに娘の将来の幸せを確かなものにしたいんだ。

 あれほどに君を好いているのだから他の選択肢はない」


「わかりました。前向きに考えます。

 今はそれで良しとしてください。

 どっちにしたってこの家を出るつもりはありませんから」


「それなら……良しとしよう!

 たしかに君はまだ外見年齢的には幼い。

 今は、ただ君の未来がどれほど薔薇色になるかを伝えよう。

 私にもこの地下室と屋敷について、知っていることがいくつかあるんだ」


 それから意気揚々とリチャードに、

 ループライト家の隅から隅までを聞かされた。

 どうでもいいことから、有用なことまで様々だった。


 ようやく解放された時には、

 ”作業がある”と残ったリチャードを背に、

 馬鹿みたいに長い階段を杖をついて登らなければならなかった。


 夜風が、反復作業と酷使で炎症し、じくじく痛む筋肉を癒し、

 冷えてきた大気に少し身体を震わせる。


 何か羽織ってもよかったかもしれない。

 身体の回復にエネルギーを使われすぎて、

 夜の空気に耐える体力が不足している気がする。


 道に転がる無数の小石を避けて杖をつき、

 それを頼りに自室に戻る。


 一歩一歩着実に進んでいると、

 中庭に花びらのように煌めく白い光があった。

 月明かりだけでは説明できない、白さ。


 “それ”が何なのかは知っているが、

 条件反射のように、自然と足がそこに向いてしまう。

 内側から熱を帯びた身体を押すようにして、

 光の見える方に行った。


「エル……」


 そこでは、いつものようにエルシア・ループライトが剣と戯れていた。

 薄青色の太ももまで届く髪を広げ、

 小柄で細い体躯でドレスと髪を花の如く広げて、舞っていた。


 それは剣を振っているのに、至宝を体現していた。

 モヒカンには到底手が届かず、理解できないものだった。


 無我の境地に立って、

 ループライトの家宝と対話し、

 最大の美と効率によって導かれる体捌きは、

 この世界の誰よりも自由で気高く見えた。


──色々言ったけれどもね。君に悪心があるとは一切疑っていない。


 領主との別れ際の言葉。


──我が家が誇る鋼鉄の信条。君の胸にはそれがある。生まれよりも深くにだ。


 ノーマンの知っている人好きのする笑顔でそう言っていた。

 お人好しなことだ。

 こちらは屋敷のすべてを掌中に収めて、隠居に追い込もうとしているのに。


「なんでそんなお人好しが早死にしないといけなかったんだよ、クソッ……」


 誰に聞かせるでもなく、毒づく。 

 誰もいないから、言えることだ。


「そうだな」


 屋根の下で杖に身をもたれかけ、

 少年は静かに頷く。

 全てを手に入れるという野心はあった。

 そうして、世界一の剣豪になったエルシアと並ぶつもりだった。


 剣邪を倒す過程で、世界を団結させて、束ねる位置にいるという展望だ。

 奇しくも、もう倒してしまった以上、

 世界の頂点に立つというのは、無意味にも思えた。


 だが、時間を遡る前にも、そんな話をしていた。

 ”この世界のすべてを手に入れたら、最初か最後に、ノーマンのものになる”。

 まるで人でなしになるような話だが、

 エルシアは冗談交じりでも、望んでいた。


 ループライト家の領主なら、

 これからも彼女にいらない負担を強いてしまうだろう。

 領主夫妻になれば、こんな風に舞うことができなくなるかも。


「これを、俺が縛るなんてできない」


 だから、そうだ。

 この世界に玉座を作ろう。

 文明の滅んだ世界の王にまでなったら、

 彼女が好きに生きられるスペースは創れるはずだ。


 彼女がいるところは家という小さく狭い鳥籠よりも、

 股にかけて我が物顔で踊り回れる世界であるべきだ。


 世界はループライト家より広いのだから。当たり前だ。


 そして、この夜が、

 彼女がこの庭で舞う、最後の夜だった。

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